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肥沃



 「‥‥ルンルン♪プルン♪プルン♪フフン♪フフン♪フフ♪フフンフー♪♪フフンフ‥‥‥‥」


 ーーー早朝、まだ暗いうちから僕は、鼻歌まじりに【ハルヒロ特製野菜たっぷりカレー】をこしらえていた。


 ◇


 というのも、昨日、バニラが帰り際にこう言って帰っていったからだ。


 「今日は、ハルヒロのせいで獲物が捕れなかったろ‥‥」


 この辺りはとても良質な狩場で、いつもならたくさんの動物で溢れているらしいのだが、今日に限ってはなぜか小鳥から小動物一匹に至るまで、この土地から動物達が消え失せていたらしい。


 「‥‥‥‥発電機のせいか‥‥?‥‥だけど、音出したのは、二十分くらいだし‥‥」


 「シャランッープッ!!パルピローーン!」


 乱暴に胸ぐらを掴まれて、グンッと鼻先とあの先が当たるほど引き寄せられる。


 「と、に、か、く、これじゃ、村で腹空かして待ってる弟妹達に顔向け出来ないんだ。‥んだからよう、頼む!明日、明日な、あいつらをここに連れてくるから、あのカレーってやつを食わしてやってくれよ。頼む!お願い!!ワキワキパルピロン!」

 

 脅迫するように、お願いをするバニラ。

 あの先が当たっていたことは全く関係ない。だけど、カレーくらいならと安請け合いした。

 それに近いうちに食べてしまわないとダメになりそうな肉や野菜がゴロゴロあった。これは自分のためにも食べられなくなる前に在庫一掃してしまおうという気になっていた。


 ◇


 一番大きい鍋をカセットコンロにかけてたっぷりの野菜と豚肉と鶏肉をゴロゴロ入れてカレールーで味付けする。

 カレーの良いところはどんな調理法をしても美味しくなってしまうところだ。


 「‥‥美味しくな~れ♪フフフフ~ン♪フフ♪フフ♪フフフフ~ン♪フフン‥‥」

 

 僕はごきげんだ。バニラの【たゆんたゆん】を思い出しながらカレーを(ぐーるぐる、ぐーるぐる)とかき混ぜる。


 ◇


 そうこうしているうちに外が明るくなってきた。

 

 季節的には春くらいなのだろうか、少し寒い。昨日はバニラが突然現れたせいで、この辺りの様子を調べられなかった。

 カセットコンロを弱火にしてカレー鍋の蓋をのせる。後はほおっておいても美味しく出来上がるはず。

 そして、明るくなってきた外の様子をうかがってから、僕は上着を羽織って、肌寒さの残る異界へと足を踏み出した。


 バニラ達が来る前に少しこの辺りを探索したいと思ったのだ。

 

 「‥‥‥んあぁ!す、すごい‥‥‥これがユング‐フラウアか‥‥‥。」


 昨日は雲で見えなかったユング‐フラウアと呼ばれる雪をかぶった雄大な山々がまだ薄明かるい空が落とす影をまといながらも、遥か遠くで朝日を浴びてキラキラと輝いている。

 北欧の絵葉書を切り取ったような美しい景色。いや、それ以上かも‥‥。僕は遠くに目をやって、そっと息をつく。

 

 そして、あらためて辺りを見まわす。

 

 青々とした広葉樹の生い茂った低い山々に囲まれたとても開けた(幅二、三㎞、縦十㎞以上)細長い谷あいの盆地(後世に於いて【魔王の菜園】と呼ばれる土地)。


 ほとんどが広葉樹。おそらく日本と同じ温帯気候。たぶん、ここから北に標高が高くなるにつれて針葉樹が増えて温帯から亜寒帯に気候が変わっていくのだろう。

 そして、左手の広葉樹が広がる山肌に沿って川が流れているようだ。

 

 ふと、下を見てしゃがみ込む。そして、ひとつまみ土をすくい上げてじっくりと見つめる。


 「‥‥‥あぁ、なんて良い土。【ナイルの賜物】だな。」


 降り積もった草木や落ち葉が腐葉土となり、ほんとうに悠久の月日を経て作り上げられた団粒構造の黒土。

 肥沃ひよくな大地。ナイルの賜物と言う言葉がある。ナイル川の氾濫によって上流域から下流域にもたらされる豊かさの贈り物、エジプトの人々に他に比べて数十倍もの穀物をもたらし、エジプト文明の礎を築いた肥沃な土。


 川がある方へ歩いて行く。良い土があっても良い水がないと美味しい作物は育たない。

 やはり春先なのだろうか、山沿いには少し雪が残り、近づくにつれて赤や黄に色付いた枯れ葉がくるぶし辺りまで積もっている。下のほうは、腐葉土だろう。

 ざくざくと踏みしめる音が耳に心地良い。

 

 水量豊かな幅十メートル程の清流。おそらくユング‐フラウアの雪解け水。ユング‐フラウア天然水

 ひとすくい両手ですくって川の水を飲んでみる。


 「‥‥‥冷たっ!」


 しびれるような冷たさ。そして、美味しい。これなら良い米が作れる。これだけ良い土と良い水があれば、どれだけ良い米が作れるか。


 (‥‥だけど、どうやってこの水を引いてくるか?)


 そんなことを考えながら、川沿いを上流へとゆっくりとした足取りで歩いて行く。

 しばらく川沿いを歩いていると少し標高の高い丘のような場所に出る。そこは少しだが、水だまりのような場所になっている。


 「‥‥‥‥うーん、ここに小さい堤を作ればいけんのかなァ‥‥?」


 小屋との標高差がおそらく四、五メートル。石か材木で塞き止めて、ちっちゃい堤を作り、そして水路を掘ってやればいけそうな気もするが、小屋までの距離が問題だな。


 (‥‥たぶん、小屋まで‥‥千五、六百メートル‥‥川への放水で二、三百メートル。)


 約二キロメートルの水路掘り。まともにやっても何ヵ月かかるかわからない。‥‥独りじゃ無理だ、気が狂っちまう。

 

 でも、まぁ、今までだって何年も日本で独り農業していたんだ。地道にやればなんとかなるのかもしれない。

 とりあえずは畑をやろう。そんで、片手間で水路を掘る。何年かかってもいい。水路が出来てから米をやればいい。

 

 (‥‥そうだ、時間はたっぷりある、まあ、気長に、そんで、地道に行こう。)

 

 その後もしばらくこの辺りをゆっくりと探索していた。

 

 そして、探索していて一番驚いたのは、異世界なので当然のことなのだが、植物相が地球のそれとはかなり違っていたことだ。

 日本から小屋と一緒にやってきた種や苗木がちゃんと育つかほんの少しだけだが心配になった。

 だが、大丈夫だろう。今小屋にある野菜の種や苗木はとにかく環境の変化や病気に強いのだ。それでいて美味しい。それぞれが【最強の品種】と言っていい。

 気の遠くなるような年月をかけ、品種改良に品種改良を重ねて作られたあいつらがちょっとやそっとの環境や植物相の違いで育たないわけがないと考えていた。

 あいつらは日本、いや世界の【最先端技術の結晶】なのだ。



 そうこうしているうちに、日がだいぶ高くなってきた。

 

 そろそろバニラ達も来るころだろうと、辺りを眺めながらゆっくりと戻って来ていると声が聞こえてきた。そして、小屋の前にたむろしているバニラと子どもたちが見えてきた。

 弟妹達と言っていたから二、三人だと思っていたが、ちっこいのがいっぱいいる。

 

 (‥‥えーと、一、二、三、四、五、‥六、‥七、ちびっ子か‥‥‥カレー足りるかな‥‥?)


 バニラ達は随分前からこっちに気づいていたようだ。バニラが跳びはねながらなにかこっちに向かって怒鳴っている。

 

 跳ねるたびにぶるんぶるん振るわせるHカップ(昨日触った時の爆揺れから上方修正した)の爆乳を眺めながら、僕は『ごめん、ごめん』と言って駆けよって行くのだった。

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