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来訪



 おそるおそる、僕はドアを開けた。


 「!!?」

 

 目の前には、褐色に焼けたしなやかな肢体と革のトップスから、これでもかと下乳がはみ出す、はちきれんばかりの圧倒的存在感を持つ双邱そうきゅうが、鎮座していた。


 「うっさいんじゃぁあ!ボケェェーー!!」


 「うえっ!!?」


 「オレの縄張りで『ガガガ、ガガガ、ガガガ』いったい、何してくれてんだ。お前のせいで、獲物が逃げちまっただろうがぁ、そんくらいわかれや、チンチクリンがっ!!、ファック、ファック、ファック!あほーあほー!。」


 日本にいればアイドルにもなれそうなかわいらしい顔立ちをした健康的な美女が目の前でまくし立てている。

 

 (‥‥‥かわいらしい顔立ち、栗色のショートカットの髪、ピンッと立った耳‥‥‥‥んんん!?)


 頭の上にそり立つモフモフの‥‥いぬ耳?


 「‥‥‥え?‥えっ、け、けええええええぇぇぇぇぇーーーーーーけもみみぃぃーーーっ!!?」


 「うおっ、なんだ!?」


 僕の絶叫に驚いたけもみみ娘はタンッと後ろに飛びずさり腰を落として腰の左右に差していた二本の大振りな山刀の柄を握る。


 「‥‥そ、そ、それ、け、けもみみ‥だよね?」


 彼女の頭の上にそそりたつ二つのものを指差して聞いてみる。


 「‥ん‥‥あ‥?けもみみ‥‥?耳ぐらいお前に‥‥‥‥に、に、にえええええぇぇぇーーーーーーーーーってお前、【にんげん】じゃねーーかっ!!」


 けもみみ娘は腰に差していた二本の山刀を素早く抜き放ち、刀身を十字に構え、臨戦態勢に入る。


 「な、な、なんでにんげんが縄張りに家建ててやがんだ。返答によっちゃあ、この覇剣グレートシュナイダーダブルゼータのびにしてやるからな!」


 「‥‥‥‥覇剣グレートシュナイダーダブルゼータって‥‥‥ださ。」


 「‥‥だ、だ、ださくねぇーよ。」


 「え、で、でも、グレートンなんちゃらって、ちょっとださくないっすか?」


 「お前、舐めてんな。舐めてんと、マジで、ママジでぶっ殺すって言ってんだ、そんくらいわかれや、ボケェェェーー!アンダスタァーーーンッ!?」


 「ノー、アンダスターン」


 「なんでやねぇーんっ。デッドオァ・ノーアライブッ!?選びやがれ、けつにんげん!」


 「‥‥どっちも死んでるし‥‥‥」


 「突っ込むな、選べっ、ケツアゴッ!!コンチクショーゥッ!許すまじ、許すまじ、許すまじぃぃぃッ‥‥」


 よくわからないが、地団駄を踏んで、歯をギリギリさせて激昂している。

 

 「ち、ちょっと、ちょっと落ち着いて、悪気はなかったんすよ。謝るから、謝るからさ、とりあえずその【ダブゼー】は納めてよ。」


 「あほー!略してんじゃねーよ!けつにんげん野郎が。この【覇剣ダブゼー】はな、犬牙族最強の戦士に与えられる最高に名誉ある剣なんだからな。」


 (‥‥自分も略してるし‥‥‥)とは、長くなりそうなので、突っ込まないでおく。それにしても、【犬牙族】‥‥最強の戦士‥‥?


 確かに態度とおっぱいはめちゃめちゃデカイけど、とてもそんなに強そうには見えない。


 (‥‥‥ハッタリ、なのでは‥‥?)


 「あーはい、はいはい、そのクエッチョン顔、疑ってるね。死にたいんだね。そんなに死にたいならッーーー覇剣グレートシュナイダーダび☆◎★◇◆のしゃびにしてやんよーーーぅおおおおぉ!!。」


 完全にんでる。長いからね。

 だが、噛み噛みながら、けもみみ娘はダンッと土を蹴り、両手を広げてこちらに突っ込んできた。


 「ちょ、ちょっ、ちょっと待って、待ってぇ。【マテッ】!!」


 けもみみ娘はなぜか僕の目の前で山刀を振りかぶったまま急停止した。


 「‥‥ん?‥‥え?‥‥止まるの?」


 「【マテッ】て言ったろ‥‥?そりゃ、当然止まるよ。いったいなんなんだよ‥?返答によっちゃあ、ぶっ殺すぞ!ケツアゴ野郎!」


 ケツアゴではない‥‥‥けど、いったいどういうことだ‥‥‥もしかして‥‥【マテッ】‥‥‥か?


 (ま、まさか、まさか‥あれか‥‥あれの習性的なあれなのか、それじゃあ、もしかして、あれが、あれして、あれする、可能性もあるということ‥か‥‥‥とりあえず‥‥‥)


 「【マテッ】!!‥‥爆乳けもみみ娘、マテッ!だよ。」


 「だ、だれがっ、爆乳けもみみ娘だあっ!!バニラだよ。【バニラ‐アイス】!そんで、いったいなんなんだよ!早くしろ、ケツアゴ!」


 (だから、ケツアゴじゃない。だけど、やっぱりあれなのか?)


 「おお、バニラっていうのか。マテ、マテッだぞ、動くなよ、バニラ君。ぼ、僕はハルヒロ、【桜井春大】だ」


 「‥‥さくらい‥‥はるひろ‥?」


 「あ、あれだろ、この音、発電機の音だろ。今から止めてくるからね。え、えーと、バニラ君はちょっとだけ座って待ってようか。」


 「はい、じゃあ、バニラ君、いくよ!ーー【お座りっ】!!」


 (ペタンッ)


 (す、座った‥‥!!)


 バニラが両手をついて犬みたいに座った。どうやら、仮説は正しかったようだ。


 (それにしても、上目遣いがとびきりかわいい。キュンキュンする。まるで天使のようだ。)


 「‥‥‥ハルヒロか‥‥なんか、ハナクソみたいな名前だな。ケケケ‥‥」


 ーーー前言撤回。


 (‥‥‥あれっ!?お尻のところを見え隠れしている、あれは‥‥ま、まさか‥‥!)


 「バニラ君、えーと、ち、ちょっと動くなよ‥‥。」


 バニラの背後にゆっくりと回り込む。

 やはり、根元が栗色、先が真っ白いふっさふさの美しい尻尾がホットパンツから飛び出してフリフリしている。自然と両手の指がワキワキしてくる。


 「‥‥‥ば、バニラ‥‥?え、えーと、しっぽ‥尻尾‥‥さわってもいい?」


 「ちょ、ちょっ、バカ野郎ぉ、お前何言ってんだ。ダメに決まってんだろ、まったく、いきなりセクハラかよ!!尻尾だけは本当にダメだ。マジで、ママジでダメ。さわったら本気で殺すぞ、こんの、恥知らずのセクハラ大魔王がっ!!」


 (‥‥せ、セクハラ大魔王‥‥‥。)

 

 なぜかバニラは顔を真っ赤にして本気でうろたえている。尻尾は本当にダメなのか‥?イヌ‐サピエンス(知恵のある犬)的な倫理観の問題なのかな?


 (うーん、本気でダメならターゲットを変えるしかないのか。)


 「わかった。わかった。‥‥尻尾はあきらめるから、けもみみならならいいだろ。頼むよ、頼む!僕にできることならなんでもするから、な!」


 「‥‥‥う、うーん。耳‥か、耳ぃぃ‥‥‥。耳もけっこう敏感な部分だからな、恥ずかしいよ。‥‥とりあえずよ、あのガガガってうっさいやつ止めてこい。その間に考えとくからよ。」


 僕はすぐに納屋に行き、パソコンとスマートフォンがフル充電されていることを確認してから、発電機のスイッチをOffにした。そして、尻尾だけでなくけもみみまでもさわれない、まさかの絶望的な状況におののきながらバニラのもとへ戻るのだった。


 「‥えと‥‥ど、どう‥‥?」


 「‥‥よーく考えたら、なんで耳を触らすことを前提に話が進んでるんだよ!オレはお前になんの借りもないのによぉ!だいたい、オレの縄張りでうるさくしてたのはハルヒロ。お前のほうだろ、このケツアゴがぁ!!」


 何度も言うが僕はケツアゴじゃない。

 だが、破綻はたんした。なーんとなく貸しのあるていで進んでいた作戦が完全に破綻した。

 

 しかし、この後バニラの口から思わぬ提案がなされたことでこの話は急展開をみせる。


 「‥‥とこんで、さっきからずっと気になってしようがなかったんだけどよ、なんかものすごい良い匂いがするんだけど、ハルヒロ‥‥なんだこれ?」


 「ん?‥‥ああ、カレーの‥‥‥‥」


 (すっかり忘れていたが、カレーを‥‥?ん?‥‥‥そ、そうだ‥‥カレーでバニラを釣り上げてみるか。)


 「‥‥うんうん、あの芳醇ほうじゅんな薫りを放っている食べ物は、カレーライス。そう、この世で一番うまい食べ物なんだよ。‥‥食べたいかい?食べたいだろ?‥‥‥なら、ほれ、あれだよ。あれをあれしてあれすれば、なぁ、わかるだろ‥‥‥バニラくん。」


「こ、こんのくず野郎オォー!!あほー!汚いぞ!オレは昨日からなんにも食ってねぇんだぞ‥‥‥。くっ、じゃあ、わかった。こういうのはどうだ。‥‥耳は恥ずかしいからダメだけど、胸なら触らしてやんぞ。にんげんは、胸が大好きなんだろ‥‥?婆さまから聞いたことがあるぞ。」


 「‥‥☆★ぬなっッ!!!!!!!!?」


 

 晴天の霹靂へきれき。思わぬ僥倖ぎょうこう。童貞の僕に人生最大のラッキースケベが舞い降りた瞬間だった。

 

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