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呪縛



 「「アチッ!」」


 バニラとナナさんが二人同時に少し不満気な視線をこちらに向ける。どうやら、獣人さんというのは、みんな猫舌らしい。


 それにしても、おとなしくテーブルに腰掛けてお茶を啜る二人の姿は、まるで美しい姉妹を写した一枚の絵画のように華やかで美しい。

 バニラは健康的な欧米南米風の華やかさ、ナナさんは凛とした欧州ロシア風の美しさ、ぼっちだった僕には、あり得ようもない、貴重で大切な時間のように思えた。


 「‥‥‥美味いの‥‥これは‥‥」


 ズズッと慎重にすするナナさんは、魚の漢字が書かれた湯飲みとケルンの薬缶を不思議そうに見つめている。


 「‥‥これは、緑茶ですね。美味しいでしょ。安物ですけど、これ、けっこういい感じなんすよ。」


 寛じいに散々叩き込まれたので、お茶の目利きと入れ方には自信がある。


 「‥‥りょくちゃ‥‥‥?」


 「ナナさんのところには、お茶みたいなものはないんですか?」


 「ん?」


 少し頭を左に傾けて寄り目で考える癖のあるナナさん。僕はそれを見るだけできゅんきゅんしてしまう。


 「おい!パルルゥ、また、変な匂いが出てるぞ。」


 きゅんきゅんした瞬間にそれを嗅ぎとり、いぶかしげな目を向けるバニラ。バニラはとにかく鼻が利く、僕のスケベェ?いや、いかがわしい感情にはすぐに反応する。お茶を啜りながら、さげすんだ目で、そう言った。


 「‥‥エロガッパだよ。私の里ではな、お前のような奴のことをそう呼ぶな。お前の場合、なお悪いことに、瘴気が洩れてるんだよ。」


 バニラの蔑みの目など比較にならない、ゴミを見るような目付きで僕を見据えるナナさん。いや、ナナツボシ様。


 (‥‥変な匂い、エロガッパ、悪い瘴気。)散々な言われようだ‥‥果たして、僕は死んだほうが良いのだろうか?‥‥‥正直、居たたまれない。


 「‥‥ところで、先ほどの答えだがな、里の木挽こびき衆の間では、これと似た冷たいハーブティーがよく飲まれているようだがの、煮立てた熱い、このお茶のようなものは、我が里では飲まれてないの。」


 「‥‥‥こびき衆‥‥?」


 聞き慣れない言葉。


 「大工だよ。大工。んとに、なんも知らないんだなァ、ムチヒロはァァ、ケケケ‥‥」


 (ムチヒロって‥‥バニラ、お前だけには言われたくないが。)


 「大工と言うよりきこり、林業だな。我が妖狐族は千年の昔から、木挽(林業)を生業なりわいに生きてきた一族なんだ。」


 「ちなみに、オレの犬牙族は狩猟民族な。そして、犬牙狩猟民族最強の超戦士が、このオレ、バニラ様っていうことな。かははは‥‥」


 「‥‥犬牙狩猟民族最強の厄介者、なッ!」


 「そう!最高最強の厄介者ォォ~って、誰が厄介者だああああッ!!」


 「「ンハハハハ八~~」」


 バニラのノリツッコミに思わず笑っていたら、バニラにグンッ胸ぐらを掴まれて、ブンブンと振り回された。わかってはいたが、バニラはものすごい力だ。何度もタップしたが許してくれない。


 「八~~ル~ヒ~~ロオオォォ~~~ッ!!」


 「ギブ!ギブ!ギブ!ギブ!ギブ!ギブ!ギブ!だずげでエエェェ~~~~ダダざ~~んんんッ!!」


 「んははは‥は‥‥んぐっ!!?」


 最初は笑っていたナナさんの顔色が突然変わった。そして、苦しそうに喉を抑え、もだえ始めた。


 「うぐぐぐッ!クハッ!クッ!や、や、やめろォォオオ、バニラァァアア!!」


 「んん!?~なんだなんだよ!?」


 ナナさんの悶え苦しむ姿を見て驚いたバニラは、パッと僕の胸ぐらから手を放した。


 ドサッ!


 「「クハッ!」」


 ナナさんと僕はシンクロしたように、同時に息を吸い込む。


 「な、なんだよ?ど、どういうことだ!これェ~!」


 「クッ、ま、魔道‥血判‥‥だ。うっかりしていた。だが、これほどの呪縛力があるとは‥‥‥」


 真っ青な顔色、首の辺りを抑えながら、ナナさんは苦しそうにこう呟いた。


 ナナさん曰く、魔道血判の呪縛力で僕に加えられた暴力や危害は、すべて同じように自分に影響を及ぼす。故に、血判状との契約上、ナナさんは是が非でも(自分自身を守るのために、契約者を守らなければならない。)というジレンマに陥いるのだ、という。


 「‥‥‥契約の破棄はできないんすか?」


 「魔道血判は我が妖狐族に代々伝わる超古代文明の数少ない魔道遺物レリック。‥‥‥破る術など無い。」


 首をゆっくりと振って、目を伏せる。


 「‥‥でもよォ、よりによって、パルルなんかに騙されたお前も悪いと思うぞ、オレは‥‥」


 バニラがそう横槍を入れる。


 「そうだ、バニラの言う通り、すべては私の罪。よりによって、こんなエロガッパに騙されようとは。だが、これも我が身に与えられた罰と覚悟しなければ成るまい。」


 「‥‥エ、エロガッパって‥‥‥」


 散々な言われようだが、僕は嘘をついたり、騙したことは一切ないと断言できる。言うなれば、僕も被害者なのだ。


 「‥‥と、まあ、こうした成り行き上、本日よりこの先、私とお前、寝食を共にすることと相成るが、よもや、異存はあるまいな、ハルよ‥‥?」


 チラッと僕を見て、念を押すように、こんなことを仰るナナさん。


 「へ!!?」


 (‥‥寝食を共にする‥‥?耳がおかしくなったのか。それって、もしかして、同棲生活ってことなのでは‥‥?そ、それも、妙齢で麗しいナナさんと二人きりイィィ‥‥‥‥や、やばい。これは、事件だ。)


 「~駄目だ!駄目だ!駄目だァ!カレーは‥‥うんにゃ、違ァ~~う、パルルはオレのもんだァァ!!おまえが泊まるなら、オレも、泊まるからなァァッ!!」


 「へッ!!?」


 (【カレー】って言ったような気はしだが、バニラまでもが‥‥‥こ、これは、まさか、まさかの、い、淫欲いんよく溺れるエェブリディィ‥‥ってやつの始まり‥‥‥デスカァァ‥‥?」

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