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帰還



 「にっひひいーーっ!、お待ちかねの、バニラちゃんが来てやったぞうっ!パルル!」


 「パ、パルルって‥‥お、お前‥‥」


 あからさまな好意的な態度。

 バニラの天然キャラは、元々ボッチで引きこもりの僕にとっては致死性の高い猛毒だ。‥‥思わず‥‥。


 (‥‥好きになってまうやろーーっ!)


 と、叫びそうになっていた。


 「くふふふふ‥‥」


 そんな僕の気持ちなどお構い無しに、明らかに様子がおかしいバニラ。僕になにかしらのサプライズを仕掛けようとしているのがみえみえだが。


 「ん?‥‥おまえ、なんか変なものでも‥‥」


 そう言いかけると、おもむろに、オーバーアクションで引いていたそりむしろをバサッと引き剥がす。


 「テッテケテーーーンッ!!」


 「‥‥ウエッ!?」


 ーーー犬の死骸。

 橇の上には、血塗れの犬の惨殺死体が‥‥。


 (‥‥い、い、犬はまずいだろ‥‥ま、まさか、これは、同族殺しというやつか‥‥)


 「どうだっ!くふふふ‥‥」


 どういった感情かわからないが‥‥上目遣い、満面の笑みを浮かべながらドヤ顔をしている。


 「‥‥ど、どうだって、おまえェェ‥‥‥い、犬の死骸をどうしろ‥と。」

 

 「アホーーーッ!!犬じゃねェーわ。カフクだよ、カ・フ・ク!!このアホ助がァ!」

 

 「‥‥‥かふく‥‥?」


 確かによく見ると、犬にしては少しでかい。小さい角が生えている。どうやら、鹿の一種らしい。

 

 「そうそう、カフクだ。まあ、あれだ、カレーのお返しだよ。春先は獲物が少ないからな、やっと、やっとこ、一頭仕留めたんだぞ。」


 そんな殊勝なことを言いながら、バニラはカフクの脚をロープで器用にくくり、カフクの体を木に吊り上げ始めた。


 「お、おい、何してんの‥‥?」


 「んあ‥?なにって、解体ばらすに決まってんだろ。血抜きはしてあんだけど、早く解体ばらさないと肉が不味くなるからな、ちょっと待ってろよ。カフクの若い雌の肉はめっちゃ美味いぞ、くふふふ‥‥」


 ◇


 先ほどまで、土地を耕していたこともすっかり忘れて、バニラの手際の良さに、思わず見入ってしまっていた。


 「‥‥へぇー、うまいもんだな‥‥。」


 「当ったりまえだ。オレは村イチの狩人かりうどだからな。」


 そう言って、バニラは器用にカフクの毛皮を剥ぎ、内臓を丁寧に取り分け、ほんの、三十分ほどで、カフクの肉を小さい小刀一本できれいに切り分けてしまった。初めて見る熟練解体ショーに驚きと感動を隠せない。

 同時に、朝から何も食べていないことを思い出した。


 「おい、バニラ、ステーキにしよう、ステーキ。ちょっと待ってろよ、今、鉄板持って来るから‥‥。」


 塩コショウでシンプルに味付けした、極上捕れたてのカフクステーキの鉄板焼は柔らかくて、ジュウシーで、旨味濃厚で、まさしく至極の旨さだった。


 「うま、うま、うっまーーーッ!!なんだこれ。こんな美味いカフク肉、食ったことねーよ!!」


 鉄板でミディアムに焼いたカフクステーキは食べ慣れているはずのバニラをも絶賛する旨さだった。


 「おい、パルル、次のは【焼き肉のタレ】で焼いてくれーーッ!」


 ◇


 「くあーッ!食った、食った。ほんと、旨かったなあ、パルル。‥‥‥とこんで、茶ァはまだか‥‥‥ん?」


 「‥‥‥お、おまえェェ‥‥‥。」


 あれほどあった肉塊のほとんどを僕に焼かせて、ひとりで食べた挙げ句、この態度である。

 まあ、人見知りの激しい僕には、バニラのこういう物怖じしない態度が羨ましい。逆に言えば、短期間でこんなに仲良くなれたのも、この天然キャラのお陰であった。


 「‥‥‥そう言えば、モナモカはどうなった‥‥もう、村を出たのか‥‥?」


 同じ人見知り仲間として、かなり気になっていたので、お茶を出すついでに、さりげなく聞いてみる。


 「うんにゃ、お婆に追い出されたからわからんよ。でも、確かチンカスどもが来るのは今日の夜らしいから、まだ村には居ると思うぞ。」


 「ふぅーん‥‥で、モナモカの様子はどうなの‥‥‥泣いてないか‥‥?」


 「あれから会ってないからな、それもわからんよ‥‥‥けど‥たぶん、泣いてると思う‥‥‥ちっこいし、人見知りだろ、モナモカは‥‥」


 『‥‥ズズ』とお茶をすするバニラ。


 「‥‥アチチッ!」


 犬のくせに猫舌らしい、少し不満そうな目をこちらに向けてから、こう続けた。


 「‥‥だけど、ハルが言ったみたいに金で買われるわけじゃないぞ。そこんとこは、きっちり、お婆に問い質したんだ。」


 おそらく、それは嘘だ。

 いや、嘘というよりは村ぐるみ村長ぐるみで騙されているのだと思う。


 「うーん‥‥‥だと、いいけど‥‥」


 そう呟いて、僕は下を向いた。

 少し、後ろめたさを感じる。


 「‥‥そう言えば、お婆にハルのこと話たら、『~今度、村に連れて来い。』って言ってたぞ、どうする‥‥?」


 「へ!?」


 (‥‥‥そ、それって危険なんじゃ‥‥‥ま、まさか、殺されたりはしないよな‥‥?)


 「ブッ!ぶわっはははーーッ!そ、そんな怖い顔すんなよー!取って喰われたりはしねーよ、パルル。‥‥んまあ、あの化け婆ならわからんけど、ケケケ‥‥」


 よほど僕の顔が面白かったのか、バニラはおもくそ笑っている。だけど、用心するのは当たり前だ。なんつっても、人間達を嫌悪する獣人族の村に来い、と言われているのだ。用心の上にも用心が必要だ。


 (‥‥まあ、一度、物々交換に行きたいは行きたいと思ってたんだけど‥‥‥ほんとに‥大丈夫か‥‥?)


 「‥‥襲われたりは‥‥?」


 「ない、ない。パルルはちょっと普通の人間とは匂いが違うからな。ま、大丈夫なんじゃないかな。それに、村に来たら、お婆が『ワシの乳で良ければ、いくらでも揉ませてやる』って言ってたぞ。嬉しいだろ、パルル!」


 「‥‥えェェェ‥‥‥‥バニラのお婆さんって、何歳いくつゥゥ‥‥」


 「確か、七十ぐらいだけど‥‥‥って、なんなんだ、その変顔は‥‥‥?」


 おそらく、バニラは僕のことを勘違いしている。あまり、大きな声では言えないが、僕が好きなおっぱいは、どちらかというとロリータ系巨乳であって、けっして、決して熟女系巨乳では無い~ということだ。

 

 「‥‥‥悪いが、断固として遠慮しておきますです、はい。」


 「ん‥‥?いつも、煮え切らないミミズみたいなパルルにしては、はっきりしてんな。言っとくけど、お婆のおっぱいはオレよりでかいぞ。それでもか‥‥?」



 【‥‥貴様らのだらしない乳のことなぞ、亜神様の知ったことではないわ。このけからわしいくそ雌犬ビッチがァ!】



 「‥‥へ!?」


 「にゃッ!?にゃんだとォーーッ!パルピロォォ‥‥‥ンッ‥‥‥‥んッ!!?」


 ーーーバニラの背後には、藍色の着物に身を包んだナナツボシさんが鉄扇片手に佇んでいた。

 


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