襲撃
【商業都市ウェニスタ】 市街地ーーー
石畳で舗装された商業都市ウェニスタをまっすぐ南北に貫く広く美しい市場街路。
両側に建ち並ぶ煉瓦造りの高い建物。
そして、その建物の前を彩るように設えられた色とりどりのテントを張った屋台や露店。
そのウェニスタ独特の活気に満ち溢れた美しい街並は、今はもう見るかげもない。
道も建物も屋台や露店も、どれもこれもぐちゃぐちゃのめちゃくちゃだ。
目を瞑りたくなるような惨状。
人間が、大人、子供、男、女が、そこらじゅうで血まみれになって倒れている。半分潰れている者、体の一部がちぎれている者。腕や脚、頭が転がっていたりもする。
彼らはワイバーンがこの市街地に下りてくるとは夢にも思わなかっただろう。上空の影に気づいたときにはもう手遅れだったに違いない。
あの活気に満ちた美しい街並が今はまったくとんでもない状態になっていた。
この惨状の中、俺達は互いに身を寄せあい、集団陣形をつくり、遥かウェニスタ上空をゆったりと旋回している三つの小さな黒い影を目で追いながら、苦々しくも、その姿を見上げていた。
「おい!みんな、もっと固まれ。」
「離れるんじゃねーぞ!!」
「‥‥いつ降りてくるかわからんぞ、弓手は矢をつがえとけよ!」
口々に叫ぶ、冒険者達。
現在、この焦土と化した市街地区画に残っているのは、各地ギルドから集まった冒険者三十人弱のみ。盾を持った屈強なタンク達を前衛に弓による集団陣形で、上空を旋回するエルダーワイバーン三頭と対峙していた。
◇
この商業都市ウェニスタに一番乗りした俺達は、破壊された市街地の中央広場に入ってすぐに金貨九十枚の報酬金に絆されて、この取っ払い(特別緊急オーダー)を受けたことを、心の底から後悔することになった。
俺達はこの市街地広場に入ってから、ほんの数分も経たないうちに三頭のワイバーンの襲撃を受けて、あまりに呆気なく三人の大切な仲間を失うことになった。取り残されたオレ達シーザー隊の面々は、なんとか、崩壊しかけた建物に逃げ込み、戦々恐々、じっと身を潜めてやり過ごしていた。
しばらくの間、身を潜めていると、屋外から人間の囁くような小さな声が聞こえてきた。
警戒しながらも、恐る恐る、外に出てみると、そこには十人ほどの冒険者らしき屈強そうな集団が集まっていた。
「‥‥‥あ、あんた達は‥‥?」
「ん!?」
その冒険者らしき人達は突然現れたオレ達に怪訝な目を向ける。
「‥‥お、おう、なんだ、なんだ、不景気な面して‥‥‥お前らも冒険者か‥‥?オレ達はダイナムの狂戦士連隊だが‥‥。」
(‥‥‥ダイナムの狂戦士連隊。)
この辺境領域では有名な冒険者クランだ。見るからに屈強そうな面子が揃っている。
「‥‥お、俺達はサンドルミア、クラン暁のシーザー隊。‥‥な、仲間が、仲間が三人、奴ら、ワイバーンに殺られちまった。‥‥できれば、できれば、あんた達に合流したいんだが‥‥‥ど、どうだ‥‥?」
自力での討伐は無理と判断した俺は、狂戦士連隊に共闘を申し入れた。
「ふむ、サンドルミアの暁か‥‥‥名は知っているが‥‥」
リーダーらしき男はオレ達を値踏みするような目を向ける。
「‥‥まあ、いいだろう。オレはバーサーカーズ連隊長のドゥエインだ。これから集団陣形で奴らを迎えうつ。弓はもっ‥」
「!!?」
「お、おいっ、来たぞ!ドゥエインンッ!!」
一頭のワイバーンがこちらに向かって降下し始めている。
「弓隊!‥構えっ!!盾隊は弓隊のカバーに入れ!」
ドゥエインの冷静な命令に一糸乱れぬ動きで弓手達が上空に向けて弓を構え、盾隊と呼ばれたタンク達は弓手の前に入る。
(こういう一連の動きひとつで、このクランの強さが伺える。)
「ーーー引き付けるぞォォ!!」
オレ達はとりあえず持ってきていた弓をワイバーンに向けて構える。
「‥‥‥‥弓隊ィィーーーッ、放てぇっ!!」
(シュバッババババババーーーッ!)
一斉に十本ほどの矢が空に放たれる。
「ギ、ギィァオオオアッーー!!。」
ワイバーンは放たれた矢を嫌って上空に逃れる。
俺もすぐに矢をつがえて連射するもワイバーンには傷ひとつつけられなかった。上空に放たれる矢というのはどうしても威力が落ちる。
そして、この後もワイバーン達は何度となく上空から急襲しては、また上空に逃げるというこの一連の動きを繰り返すのだった。
そして、この一連の膠着状態が続いたことで、辺境領各地からエルダーワイバーン討伐オーダーを受けた冒険者達が続々とこの地、商業都市ウェニスタに集まることとなった。
西域の雄、モスクギルド【アイアンバンク‐ファミリア】
南部最大の都市、アルタミルからは女性だけのクラン【アルタミラエンジェルス】
隣国ノルド【ノルド王立連隊】
そして、辺境領域最強と謳われるノーザンクロスギルド本部の【ハウンド】までもが、ここウェニスタに向かっているらしいという話を聞いた。
この地に集まった冒険者の数は三十人弱。
それぞれが全員、この辺境領域では名だたるギルド冒険者達だ。
(‥‥あいつらの仇がとれる。)と上空を見上げた。ーーーその時。
凶鳴が轟いた。
「キイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
狂戦士連隊、アイアンバンク‐ファミリア、アルタミラエンジェルス、ノルド王立連隊、そしてシーザー隊。この戦闘域にいる全ての冒険者が凍りついたように同じ方向を見やった。
確かに震えた空に、上空のワイバーン達もその動きを止める。
「今、のは‥‥‥?」
凍りついたように静止する冒険者達。
魔力探知に長けた魔道士達は突如として現れた膨大な魔相。いや、凶悪な瘴気に立ちつくし、まるで本能そのものが怯えるかのように、その身をかがめて震え出していた。
自己の存在を主張するように、大地と共鳴した不穏な音にならない超高音が鼓膜に響き渡ってくる。
見ずともわかる膨大な瘴気、徐々に近づいてくる超高音の響きが鼓膜を揺さぶる。
そして、今もまだ煙が立ち上る切れ間の影から、その姿をゆらり~と現した。
「ーーーなんッ!!」
呟きが漏れた。
それは、赤黒く塗られた不気味な【泥人形】、右手には細長い赤く汚れた刀剣を握っている。
全ての者の視線が集まる中、異形の泥人形はひたひた~とこちらに近づいてくる。
「‥‥‥‥に、人間‥か‥‥」
顔が見える位置まで近づいたところで人間だとわかった。漆黒に濡れた長い髪と不気味な暗い瞳を持つ異形の女。
そして、ほんの数歩の所で赤黒い色が返り血が固まったものだと気がついた。
ーーーその瞬間。
「‥えっ‥‥‥」
だしぬけに目の前にいた冒険者の体が真っ二つになった。先ほど少し言葉を交わした、アイアンバンクファミリアの冒険者が、上半身と下半身とに分断され、真っ赤な鮮血とともに、音もなく崩れ落ちた。
女だ。
すぐそこに。血の滴る刀身。泥人形。どうして?何故だ?女?なんで、俺はここに‥‥‥。
「なんでっーーーー」




