表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/86

80.役割

 ****



「みんなが追い付きたかった友達ってアイリーンのことだったのか」


 ポンと手を打ち、声を弾ませる。まさかみんながアイリーンの友達だったなんて、すごい偶然だ。


「あ!そういえばアタシ、飛び出してきちゃったから謝らないと……。ディーノもごめん。心配かけたよな」


 思わず下を向いてしまう。周りはシンと静まり返ったままだった。……やっぱり怒ってる。当然だ。あんなに危険だって、アイリーンにも言われてたのに。


空音(クウオン)を壊さなきゃって思ったら、体が勝手に……っ、あ、そう!ティターナの空音は見つかったんだ!壊してきたから、あっちはもう大丈夫だと思う」


 地震が起きてすぐだったから早く見つけることができた。ティターナで()()()空音はひとつだけ。あの宿屋から()()()のもあれだけだ。


「けど、まだ()()()から、王都のどこかにも空音はある。それをこれから探さないと………。ディーノは城で待っててくれ。ひどい傷だったんだからーーって、そうだ傷!ケガはもう平気なんだよな!?アイリーンに治してもらったけど、血がいっぱい出てたんだ!アタシを助けたせいで――!」

「エリサ様、少し落ち着いてください」


 静かな声に遮られ、アタシははっと息を止めた。目が合ったのは、澄み渡った空のような髪色が綺麗で、背中に大きな鎌を背負っていて、すっごく強い女のひと。


「お伝えしたいことがあるのはわかりますが、今はその時ではないかと」

「え、なんで?」

「先ほどの話をお聞きになったでしょう」

「? アイリーンは城にいるっていう話か?」


 その話ならちゃんと聞いていた。アイリーンはどこにいるのか?という皆の質問を受けたディーノが、そう答えていたから。


「ディーノ様は北門に出た魔物を討伐していたそうです」

「だからアイリーンには安全な場所にいてもらったってことだよな。それが何か問題なのか?」


 その瞬間。セドリックとハンス、それにライナルトまでが目の色を変えた。誰が見てもわかるくらい鋭い眼光にピクリと身体が反応する。けれど、その視線はアタシには向けられず、ディーノを貫いた。


「お前がアイリーンを連れ出したのか」


 え、誰だ、この低い声。


「人聞き悪いね。連れ出したんじゃない。ここまで来たのはアイリーンちゃんの意思だよ」

「かすり傷ひとつでも、あったら許さない」

「わお。報告にあった以上の過保護っぷり」


 わざとらしく両手を上げるディーノに、噛みついてるのはセドリックだった。けど他の二人も負けてない。


「報告……ね。ティターナの宿屋でヴィオラが飛ばしてたあの白い鳥のことかな」

「おい糸目野郎ッ、覚悟はできてんだろーな」


 スッと目を細めたハンスに、ポキポキと指を鳴らすライナルト。どうやら三対一でディーノが悪者にされてるらしい。事情はサッパリだけど、それはなんとなく伝わってきた。考えるより早く、アタシは両手を広げてディーノの前に出る。


「まっ、待ってくれ!ディーノは何も悪くない!」

「殿下、俺はいいから――」


「大変だ、ディーノ!!」


 突如響いた鋭い声に緊張が走る。ディーノもまた、アタシの肩に手を置いたまま顔を強張らせた。声のした方に目を向けると、走ってきた男はちらりとアタシを見る。けどすぐにディーノへ視線を戻して、焦った様子で口を開いた。ただ事じゃない感じだ。


「南門から魔物が侵入した!すぐに向かうぞ」


 その瞬間、頭が真っ白になる。……魔物が侵入した?どこに?


「状況は」

「……数も質も北門(こっち)と桁違いだ。南門の守りが薄くなったところを狙われたのかもしれない」

「狙われた?意図的に、スか」

「わからない……。情報が錯綜してる。城は今大混乱だ」


 気付けば我に返り、飛び交う不穏な会話に口を挟んでいた。


「城下のみんなは!?」

「えっ、は……ッ?は、はい!城へ避難しているようですが、」

「怪我人はいるのか!?」

「い、いえ、まだそういった情報は………」


 ズッシリと、胸に重たい何かがのしかかる。息が苦しい。頭の中がドロドロのぐちゃぐちゃで、意識を失いそうだ。


「ッ、アタシ行かなきゃ……!」

「お待ちください」


 堪らず走り出そうとしたアタシの手を、誰かが掴んだ。


「お一人で行動されるのは危険です」

「でも……ッ!!」

「皆に迷惑をかけたくないとおっしゃいました」


 動きを止めた。彼女の空色の瞳から目をそらすことができない。


「行動には、責任が伴います。まして貴女はこの国の第一皇女なのですから」

「……ヴィオラ」

「走り出したい気持ちを抑え、人に指示を出すことを覚えなくてはなりません。それが貴女の役割です」

「そっ、それは……」


 咄嗟に、違う、とは言えなかった。思うところはあっても、それもひとつの事実だと、最近になってようやく気付き始めている。わかってきている。それが一番、周りに迷惑をかけない方法だってことも。


 だけど。


「………城でジッとしてるだけなんて、そんなのただのお姫さまじゃないか」


 アタシは、なりたくない。


「アタシはこの国の皇女――エリサ・ウィル・ローレンシア。父さまの娘だ。この名にかけて、どんなことがあってもローレンシア国の民を守る。それがアタシの、」


 そのためにアタシは。


「役割だ。だからここにいるんだ」


 もう二度と、後悔はしたくないから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ