表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/86

73.まさか置いてく気なの

 

 あまりにもすんなり話が通ったのでスルーするところだったけど、国王はディーノが王位につくことを認めてくれた。そのためにもまずは国内に第一皇子の存在を認知させ、その後王位をエリサからディーノへ正式に譲渡するみたいだ。

 と、言葉にするのは簡単だが、早速慌ただしく準備に取りかかり始める大臣たちを見るに、一朝一夕でできる手続きじゃないということはよくわかった。


 だからこそ、準備ができるまで客間で過ごすように、という国王の話を聞き入れることはできなかった。元々ここへ来た目的は、お城でゆっくり過ごすことじゃない。


「なんとかして捜す方法はないのかしら…」

「口笛で呼んでくれたら、うちの優秀な運び屋が飛んでいくんだけどね」


 城下を一望できるだだっ広いバルコニーのような場所に出ると、ディーノは空を見上げ、歯痒そうに呟いた。


 彼の優秀な運び屋――白い鷹(ホワイトホーク)は、どこにいてもディーノの元へは帰ることができる。けど、エリサの元へ向かうにはあちらが口笛を吹いて合図を送ってくれなければならないらしい。……というゲームですでに知っていた情報を、あたかも初めて聞きましたという顔で納得する。後悔するのは、ティターナの街でエリサを見失うべきじゃなかったということだ。


「お、噂をすればなんとやらか」


 気を落としていると、どこからともなく白い鷹が現れ、頭上を旋回し始める。ディーノが腕を差し出すと、鷹は迷いなく降り立ち、目の前でバサリと羽音を立てた。間近で見ると物凄く大きい。わたしの背丈の半分くらいあるんじゃないだろうか。


「! 足に何かつけてる」

「ヴィオレットちゃんかな」


 取り外し、目を通す。わたしも背伸びしてそのメモを見ようとするが、読む前にクシャッと丸められてしまったので、恐る恐るディーノの顔色を伺った。すると彼は顔を上げ、はぁぁと気の抜けたような声を出す。口元には安堵の笑みが広がっていた。


「なんて?なんて書いてあるの?」

「"皇女殿下を保護。共に王都へ向かいます。"ってさ」

「えっ、ほんと!?」

「ったく、人騒がせな皇女サマだね」


 やれやれと呆れたように言いつつ、ディーノは少しだけ肩の力を抜いたようだった。わたしもほっと息をつく。


(ヴィオレット……ゲームでは皇女の命を狙う暗殺者だったけど、まだ大丈夫みたい)


 連絡を寄越してきたということは、今のところ彼女にその気はないということだ。そしてたった今、ディーノが次期王と認められたので、将来エリサを狙う理由もなくなるだろう。よし、このまま二人と合流して――


(……ん?)


 あれ?そういえばヴィオレットってたしか、フランの聞き込み調査をするとか言って、フィーネ村に残ったはずじゃ……?


「街の入り口で待ってよっか。北門を通るはず………いや、やっぱ城で待つかね」

「え、迎えにいかなくていいの?」

「入れ違いになったら困るなーって……。それにヴィオレットちゃんは強いよ」

「確かにそうだけど、」


 また命を狙われるんじゃ、と続けようとして、口を開いた。


 その瞬間。


 ドォォオォオオオオン


 いきなり地面を突き上げるような激しい震動と、大きな音が響く。お互いの体を支えて体勢を整えていると揺れはすぐに収まった。が、ゴゴゴゴ……という地鳴りのような音はいつまでも続く。


「こ、これ大丈夫なの?」

「あんま大丈夫じゃないね。ここまでデカいのは初めてかも」


 ハッとした。ディーノが王になるのは数年後か、もしかすると数十年後かの話だ。それまで国王は人為的空間術(エアーファクト)の研究を止めるつもりはない。それで本当に間に合うのか。


(……やっぱりもう一度、エリサと一緒に国王に話してみよう)


 ディーノに期待してないわけじゃない。けど、彼は国王――父親に複雑な感情を持っているから、冷静な話し合いの場には向かない。あの親子の和解はもう少し時間がかかるだろう。


「急げ!!」

「「おおーー!!」」


 じっとしている間にも、城内が慌ただしくなっていく。騎士たちが何かを叫びながら走っている。城ごと揺れたので、被害が出たのかもしれない。ディーノもさすがに顔色を変え、わたしの肩を強く掴んだ。


「アイリーンちゃんはここにいて。何かあったら口笛吹いてホワイトホークを呼ぶこと」

「っ、えぇっ!?まさか置いてく気なの!?」

「だーいじょうぶ、賢いからこの子。一回聞けば音を覚えてくれる――」


「緊急配備!城下に魔物が侵入したぞ!!」


 城の中を走る騎士たちのはっきりとした大声に、ハッと意識を向けた。思わず走り出そうとするわたしを、ディーノがまたも強く押さえ込む。


「ッ、ちょっと!」

「いけませんよ、"お嬢様"」


 ディーノはわざとらしく執事の演技をして、わたしが身軽に駆け出せない装いだということを思い出させてくれた。ヒールのある靴に、裾の広がったひらひらのドレス。自分の姿を見下ろして呆然としていると、ディーノは腰に手を当て、スラリと音を立てて剣を抜いた。そしてなぜか、先程まで城下を見下ろしていた城壁に足をかける。


「は………?なにやって、」

「ここから先は」


 手をかけ、一気に足を乗せる。……は???待ってよ、まさか、そこから……!?


「騎士の仕事だ」


 そのまさかだった。


 なんで飛び降りんのよ!!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ