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64.コネはできたもの

 

 迷ったが、とりあえず騒ぎの元へ向かうことにした。もしかするとエリサも先に向かったのかもしれないし。


「お、巫子の嬢ちゃん! 目ぇ覚めたんだな」

「あ、はい。たいへんお世話になりまして―――あの、さっきこのあたりで大きな音がしませんでした?何かあったんですか?」


 人が集まっている場所で、最初にわたしたちを救護所へ案内してくれた男性に会った。さりげなく周囲を見渡すが、街の住民らしき人たちばかりでエリサは見つからない。


「あぁ、クウオンだよ。最近多くて嫌になるよなあ」

「くうおん?」


 聞き慣れない単語に首を傾げた。最近多い?そうなの?同意を求められても、そんな言葉知らな―――あれ?知ってる? なんだっけそれ??


「王政が変わってから増えたんだ。まったく、勘弁してほしいものだ」

「えと……『くうおん』って何でしたっけ……?」

「知らないのか? 今、オズバン魔術研究所が人工魔術の研究をしてるだろ」

「え?」

「その人工魔術……エアーなんたら、だっけか。それを生み出すのに使うシステムの名前だよ。実験だかなんだかで頻繁にソイツを使いやがるから、地震やら災害やらが続いてるんだ。最近の魔物の凶暴化もソイツのせいじゃないかって専らの噂だしな」


 それを聞いてわたしは、瞬きすらできずその場で固まってしまった。親切な男性は、わたしが何も知らないから驚いていると思ったのか、さらに詳しく内容を伝えようとしてくれる。


「確か……そう、空間震音(くうかんしんおん)装置だ。研究員どもがクウオンって呼んでるから、俺たちもそう呼んでる」


 くらりと目眩がして、思わず叫びそうになった。


(兵器!!!)


 クウオン。空音。知らないなんてとんでもない。ラスボスが世界を滅ぼすのに使おうとする兵器の名前じゃないの!まさかもう作られてたなんて……いや登場早くない!? しかも実験って……ッ!


 魔力を持たないただの人間が、魔力に代わる別の力を求める。というありきたりな展開で、それは生み出された。


 人為的空間術(エアーファクト)


 そしてそれを生み出す空間震音装置――空音(クウオン)


 これを人体に装着すれば、誰でも簡単に魔術に似た力を使うことができる。人為的空間術(エアーファクト)は魔小化の進んだ現代の新たな希望となる――はずだった。


「……危険だわ」

「だろ? さっきもデカい地震があったし」

「それだけじゃなくて、人為的空間術(エアーファクト)は自然にも人体にも有害なのよ」


 木は朽ち、水は枯れ、大地は死ぬ。それだけじゃなく、人々は人為的空間術(エアーファクト)を使えば使うほど、生命力を失い、やがて死に至るのだ。


 力の代償が大きすぎた。


「じ、人体にも……? だが、オズバンの研究員たちは全然――」

「彼らには魔力があるもの。魔力のない人の方が悪影響を受けやすいから」


 そもそも魔力のない人向けに開発した力なのだ。世間に普及するころには、すでに犠牲者が出ているだろう。原因がそれとも気付かずに。


「おい、なんの話だ?」

「いや、人工魔術のことでこの子が――」

「それ本当なのか!?」

「でも、国王陛下が進めてる研究なんでしょう?」

「陛下は何をお考えなんだ」


 いつの間にか周りに人が集まってくると、彼らは口々に不満や不安を口にした。わたしも口元に手をやり、考え込む。


人為的空間術(エアーファクト)の研究が始まるのってこんなに早かった……? まさか、また未来が変わってるんじゃ……)


 思い出してみれば、フィーネ村を出てすぐだったのに、魔物が以前より強くなっていた。あれが魔物の凶暴化の影響だとすれば。

 未来の変化は望むところだが、この変化はマズい。


人為的空間術(エアーファクト)もなんとかしなきゃ。……考えること多すぎ)


 フランは全属性の魔術を使える祈子(いのりご)だった。なのに、わざわざ人為的空間術(エアーファクト)を使って世界を滅ぼそうとしたのだから殺意の高さが伺える。そんな危険な術を生み出す空音を、このまま放置するわけにいかない。


「わたし、陛下に掛け合ってみる。危険なものだってわかれば研究を止めてくれるはずだし」

「いや、国王陛下だぞ?平民には顔も拝めないだろ」

「コネはできたもの。だからまずエリサを捜さないと。……ねぇ、ピンクの髪をこう……ツインテールにした女の子見なかった?わたしと同い年くらいで」


 耳の上で二つに結んだ仕草も交えて尋ねる。が、彼らは首を横に振り、知らないと答えた。まったくあの皇女は!どこ行ったのよ!


 わたしは彼らに礼を言って別れ、救護所への道を引き返した。


 一旦戻ろう。エリサがどこへ行ったか、彼なら心当たりがあるかもしれない。それに無事と聞いても、血が流れるほどの大怪我をしていたのでやっぱり心配だ。肩を貸したとき、ぬるりと腕を濡らしたあの生温い感触は忘れられない。


「あ、」


 思わず立ち止まり、声が出た。救護所の入り口に、上半身に包帯を巻いたまま上着も身に付けていない男性がいる。やがてわたしと目が合うと、彼は片手を挙げへらりと口元を歪めた。




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