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62.走って

 

 マンホールの蓋が開いているので地上の会話は丸聞こえだ。おかげですぐに状況がわかった。少し迷ったけど、わたしは上に出ることなく、身を隠したままディーノに補助魔法をかけた。


「なっ、なにやってる!相手は一人だぞ!」

「くそッ、……ッ!」


 どうやら形勢は有利みたいだ。ホッと胸を撫で下ろす。よかったよかっ――


「ディーノ!」

「ッ、バカッ!」


 女の子の叫び声と、ディーノの焦った声。直後、キィィィン、と金属と金属がぶつかったような、耳をつんざく音が響いた。

 え、なに?どうしたの?何が起こったの???


「……っ、ディーノ? ……ディーノ!!」


 悲鳴にも似た女の子の声が聞こえた瞬間、咄嗟に体が動いた。勢いよく梯子を上り、しかし、地上にから顔を出す直前で思いとどまる。このまま姿を現しても、意味がない。


(っ、そうだ!)


「――フラッシュ!!!」


 大きく息を吸い込んで、ギュッと目を閉じる。イメージするのはカメラのフラッシュだ。


 突然マンホールの中から漏れた強い光は、男たちの注意を引く。すぐさま上に出ていくと、わたしは驚いた顔をした男たちに向かってもう一度手をかざした。


「フラッシュ!!!」


 目の前で一瞬だけ強い光を放ち、今にもディーノたちに切りかかろうとしていた連中の動きを止める。ただの目眩ましだが、すぐには視界が戻らないはず。わたしは倒れて動かないディーノのもとへ駆け寄った。


「ッなんだこの光は!?」

「誰だ!!」

「くそッ、待て!」


 ディーノの肩を半分支え、抱えあげる。見た目よりかなり重いのは、いつか彼が言っていたように身体中に短刀を装備しているせいかもしれない。けど、今はそんなこと関係ない。力を振り絞って足を動かす。


「だっ、誰……!」

「いいから逃げる!死にたいの!?」


 振り返って叫んだ。彼女は、不安でいっぱいの瞳を潤ませながら、それでも歯を食い縛り、ディーノのもう片方の肩を支えてくれた。


「走って!」

「うん……!」


 寄り掛かる体重が半分になり、スピードを上げてこの場から離れていく。狭い路地裏だったため、走り回ってまいた方が早いかと思ったが、わたしの体を温かく濡らしていく液体が何かわかった瞬間、すぐに考えを改めた。


 今は一刻も早い治療を。



 *


 

 子ども二人が一人の男性を両脇から抱えた様子は、人目のある通りに出るとすぐに衆目を集めた。怪我をしているのだと告げれば、ある人は走っていき、ある人は救護所まで導いてくれる。彼らの親切に甘え、ようやくディーノを休ませてあげられたころ、彼の顔色は真っ青になっていた。


「ひどいな……ここまでだと、もう巫子を呼んでも助かるかどうか」


 街の人の言葉に、女の子は――皇女は、同じくらい顔を真っ青にする。その震える肩に手を置き、わたしはすぐにベッドに横たわるディーノに近づいた。傷口をしっかり見るため服を裂く。そこには目を覆いたくなるような光景があった。


「…………アンタ、巫子か?」


 黙々と治療を続けるわたしに声がかかる。が、今は集中したいので一言も発したくない。反応を返さず、傷を治すことだけを考える。


「巫子を連れてきたぞ!」


 やがて、部屋の扉が開かれ、巫子を呼びに走ってくれた男と、その巫子が入ってくるころ。すでに治療はほとんど終わり、わたしはぐったりとベッドに顔を沈めていた。


「あ、あれ……?」

「おせーよバカ!もうこの嬢ちゃんが………。おいアンタ、Aランクの巫子なのか!?」

「はァ?バカ言え、Aランクがこの地区にいるわけないだろ」

「でもあの怪我を治すなんて――」


 いつの間にか部屋中に人が集まっているらしい。しかし顔を上げる気力もなく、魔力を初めて使い果たしたわたしは、そのまま意識を手放してしまった。




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