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61.なら明るくしましょうか

 *


 ティターナの街はA、B、Cという三地区で構成されている。これは元々、巫子の配置を決めるために便宜上土地を分割したものだったそうだ。

 しかし時を経て、巫子がその能力に応じてAランク、Bランクと格付けされていくと、人々の間に階級意識が定着していった。A地区には資産家や大商人が住む邸が並び、C地区には日雇いの労働者など貧しい民たちが生活する。ティターナは巫子座のあるB地区を中心に学問が盛んな街だが、一方で教育格差や貧富の差が大きい街でもあった。


(アイリーンにはそれが肌に合わなかったのよね)


 巫子としてのランク付けも、人々の階級意識も。


「そういえば、皇女殿下だから」

「………え?」

「俺が用事ある御方よ。先言っとくわ」


 アイリーンの設定を思い出している場合じゃなかった。ディーノは迷いのない足取りでB地区を進む。行き先は酒場だった。子どもだから追い返されるんじゃないかと思ったけど、マスターは彼の顔を見るとすぐに店の奥へ案内してくれた。


「アイリーンちゃんはこれからどうすんの? そのスヴェンって人に会いに行くのかい?」

「わたしは………。できれば、あなたの用事に付き合いたい」

「ふーーーん」

「だ、だめ?」

「ぶふッ、んな不安そうな顔しなさんな。ここまできたら巫子をこき使わない手はないよ」

「ありがとう……!」

「こき使うって言ってんだけどね」


 それでも、理由も聞かず側に置いてくれるというのだから十分ありがたい。フランのラスボス化を回避するための作戦、略してラスボス作戦は始まったばかりなのだ。


 作戦その1、反皇女勢力をなんとかする。


 つまり、フィーネの村を襲われないようにするってこと。襲われたらゲームが――セドリックたちの旅が始まってしまう。結果、フランはラスボスとなりセドリックの前に立ちはだかる。――バッドエンドである。

 しかし逆に考えれば、奴らさえなんとかすれば、フィーネの村を守りフランのラスボス化も阻止できる!……かもしれない。


(……大丈夫。できる!!)


「それじゃ行くか。……イイコで待っててくれたらいいけど、皇女殿下」


 皇女の命を狙う連中に会うため、皇女を捜すディーノについていく。わたしに今できることはそれしかない。ただ純粋に皇女を心配する彼には申し訳ないが、結果的に皇女を守ることにもなるから大目に見てもらおう。


 ディーノは酒蔵へ足を向ける。一番奥にある大きい棚は、手前に引くと横にスライドする仕組みだ。棚の真下には地下へと続く階段が隠されており、思わず息を飲んだ。


「どう? 驚いたっしょ」

「うん……!」


(ゲームと一緒!!!)


 別の意味で感動した。ゲームでこの地下通路を使ったのも、敵から逃げるときだった。ディーノめ、知ってたなら道案内してくれたらよかったのに。なんでいつもゲームの探索って先頭を行く主人公(プレイヤー)に全部任せきりなんだろう。明らかに迷ってるときくらい口を挟んでほしい。


「この先に皇女さまがいるのね」

「そのはずなんだけどねえ」


 でも今はゲームをしてるわけじゃない。入り組みすぎていて複雑な地下道を、わたしたちは二人で協力しながら奥へと進んでいった。


「だんだん暗くなってくな……」

「なら明るくしましょうか?」


 暗闇を照らす方法は、道中のランタンに火をつけていくのが正解だ。が、今は誰も火属性の魔術を使える者がいないので、わたしは頭を捻り、小さく「ホタル」と呟いた。次の瞬間、空間の至るところに光源が出現する。

 魔術はイメージだ。と、昔教わったときは右も左もわからなかった。それが今ではそこそこ応用して術を使えるようになってきたと思う。術の名前についても、前世にあったものを借りればさほど羞恥心がない。そう気付いてから気軽に名付けられるようになった。……詠唱はまだ厳しいけど。


 コウモリやネズミに似た魔物が出る度、武器を構えて退治もする。と言ってもわたしは短刀を振り回すだけで、ほとんどディーノに任せきりだ。体力も筋力もないので戦闘だけはまったく進歩がない。アスリートばりのトレーニングでもしたらいいのだろうが、いかんせん元々ただのゲームオタクなのでインドアなのだ。運動が好きじゃない。こんなんで勇者の仲間とか無理じゃないか?というのは自分が一番思っている。魔物と戦闘しながら、暗くて狭い道を迷わないように頭を使い、地下通路を歩き続ける、というのはかなりきついのだ。息切れひとつしないディーノを信じられない気持ちで見上げた。(シスコン)の力ってすごい。


「皇女さまがいるのよね?」

「…………そのはず」


 しかし、歩いても歩いてもわたしたち以外に人の気配はなく。ディーノの返事も弱々しくなっていく。


「皇女さまは?」

「いないねぇ」


 一番奥まできても、人ひとりいなかった。ディーノもハァとため息をつく。ある程度予想はしていたのかもしれない。……確かに、ジッとしてるような子じゃないし。


「上に出よっか」

「ここからだとどこに出るのかしら」

「C地区のどっかじゃないかな。ほらあの梯子」


 少し離れたところに簡素な鉄の棒でできた梯子があった。手をかけ、上を見上げると、丸形の縁が浮かんでいる。マンホールになっているのかもしれない。


「ちょっと地上の様子見てくるから、アイリーンちゃんはここで待っ―――……」


 ディーノは中途半端に言葉を切る。どうしたんだろうと見上げると、彼は鋭く上を睨み付け、口を半分開けて固まっていた。


「どうし――」

「シッ」


 疑問を口にするより早く、彼の手がわたしの口を覆った。意外に大きな手で少し苦しいが、そんな悠長なことを言える空気ではなく、促されるままに耳を澄ませる。


(まさか、敵!?)


「―――――こ―――――で――――!!」

「―――――――――――ッ!」


 なにやら言い争っているような雰囲気だ。片方は男、もう片方は女の声だが、内容まで聞き取れない。


「ど、どうしたら………って、あれ? ディーノ??」


 自由に口が動いて、一瞬意味がわからなくなる。ついさっきまでわたしの口を塞いでいた彼は――、




「大の男が三人も、よってたかって女の子一人いじめるなんざ情けないねえ」


 あっという間に地上へ飛び出していた。




(なんで!?)


 驚きのあまり声も出ない。が、理由をすぐに理解する。


「誰だ貴様!一体どこから――ッ」

「もぉ~さがしましたよ殿下。勝手にウロウロしちゃダメじゃないですか~」

「ディーノ!」

「ちょっと下がっててください、すぐ片付けるんで」


(皇女いたーーー!!)


 そしておそらく、わたしが捜していた連中も。






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