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44.連れて行って

 

 フランは少し意外そうに目を開いたが、すぐに穏やかな表情に戻り、口元に笑みを浮かべた。


「……魔力を磨く良い機会だと思ったんだけど」

「すみません……」

「ここを離れたくない理由があるということですね」


 なら仕方ありません、と言うフランの言葉を否定せず、ハンスは恥ずかしそうに下を向いた。

 ……ここを離れたくない理由? ハンスはミッドガフドに残りたいの?


「ではセドリック、子どもたちをお願いします」

「わかった」

「ハンスも。セドリックを手伝ってあげてくださいね」

「は、はい!」

「アイリーン、よろしくお願いします」

「あ……」


 話がまとまりかけたところで、わたしは一瞬だけ声を詰まらせた。

 ……やるしかない。そう腹をくくり、キュッと口元を引き結んで、フランの目を見据える。


「――あの、わたし、いきたい、です」

「え?」

「フラン様と、王都に行きたい」


 わたしの発言に、セドリックとハンスはもちろんだが、フランも珍しく口をあけて固まってしまった。ある程度驚かれるのはわかっていたので、手を胸元にきゅっと握り、真剣に訴える。


「わたし、光属性の魔術が使えます。なにかフラン様の役に立てるかもしれないし、魔力も、もっと強くしたい。だからわたしを、王都に連れて行ってください」


 フランに告げた内容は嘘じゃない。だが一番の理由はやはり、


(このまま、何の手も打たないまま、フランを王都に行かせるわけにはいかない)


 フランがフィーネの村を襲うよう手引きした連中は城にいる。現国王の政治を面白く思っていない、いわば反国政集団だ。なにがきっかけかはわからないが、フランが連中との足がかりをつくるとしたらこのタイミングしかないだろう。普段はフィーネの村にいるか、たまにミッドガフドに行く程度のフランが、城にいる連中と繋がりを持つのは容易ではないはずなのだ。それこそ、王命で王都に招かれ、堂々と城内に入れるという、今のようなタイミングしか。


(これがフランのラスボス化を防ぐ、第一歩になるかもしれないんだから)


「お願いします、フラン様」

「ダメだ」


 しかし、ピシャリと鋭い声が出たのはフランの口からではなかった。予想できなかったわけではないが、思っていたより強い否定に、驚いて顔を向ける。彼は恐ろしいほどまっすぐにわたしの目を捉え、表情を硬くしていた。


「セ、セドリック」

「アイリーンが行くならオレも行く」

「ッ、そんなこと――」

「うん、できない。チビたちのこと放っておけないし。でも、アイリーンが行ったらオレも行っちゃうと思う」


 だからダメだ。


 そう悔しそうに下を向いたセドリックに、わたしは。


(……あ、これ、無理だ)


 ――言葉が見つからなかった。

 危ないよ、とか、寂しいよ、くらいは言ってもらえるだろう。それくらいしか考えていなかったのだ。


(………今まで散々、心配かけてきた報いか)


 危ないとか、寂しいとか、そういう問題じゃないのだと言いたげに、セドリックは固く口を閉ざしたまま、顔をあげようともしない。わたしが何を言っても、どう説得しても、意味なんてないだろう。わたしが行けば、ついて行く。それがセドリックの中ではすでに決定事項だから。


「……ぼくも反対だな。ここから馬で一週間ってことはかなり遠いし。魔物もこの辺りより強いですよね?」

「ええ、そうですね……」


 三対一。

 希望を通すには絶望的な状況に、強く握っていた拳をほどいていく。徐々に視線が下がり、誰の顔も見ることができなくなる。


「じゃあオレちはできるだけ早く帰った方がいいよな」

「急ですまないね」

「ううん、フラン様もお気をつけて」

「ありがとう」


 あいつら、ちょっとはデカくなったかな――ヒルデ、怒ってるだろうね――。三人の話し声がどこか遠くの方で聞こえる気がする。

 わたしはフランとどうやって別れたかも忘れ、気付けばその日のうちに、ミッドガフドの町を後にしていた。別れの際にはスヴェンやライナルトも挨拶に来てくれて、また会おうと、元気でなと言ってくれたけど、わたしは曖昧な返事をすることしかできなかった。







 ――――やがて。おそらく、ゲームのシナリオ通りに。



 ローレンシア王国国王陛下、崩御の一報が、世界中を駆け巡る。フランが王都に向かっておよそ一年半後のことだった。

 滞在期間について、半年ほどだろうと口にしていたフランだが、嬉しい誤算と言えばいいのか、なかなか帰ってくることができなかったのだ。


 国王が亡くなったからといって、フィーネのような田舎村にはさほど影響もない。一週間ほどで廃れていく噂話と一緒で、すぐに平穏が戻ってきた。


 だが、国の中心地である王都ではそうもいかない。フランが時折セドリックに宛てた手紙には、一国の王が亡くなるというのはその後の方が大変らしいということが記されていた。新たな国王が即位する儀式、さらに次の後継者の決定、周辺諸国への挨拶回りなど、すべきことが山のようにある。そしてわたしの予想どおり、新国王陛下の信頼を得たフランは、それらすべてに陛下の付き人として参加することになっていた。





 国が落ち着き、すべてを終えたフラン・ハドマンがようやく教会に帰ってくるころ、



 わたし――アイリーン・フォースターは、10歳になっていた。




以上、アイリーン6歳編でした。

次回より新章です。


諸事情により、次回より更新頻度下がりますが、まだ続きますのでこれからもよろしくお願いします。


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