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43.教会の子じゃないのに

 

「元気そうですね、ハンス、アイリーン」

「はい、お久しぶりです。フラン様」

「少し背が伸びたね、ハンス」

「ほ、ほんとですか!」

「ええ」

「父さん、オレは!?オレは!?」

「セドリックももちろん。力も強くなったような気がするよ」


 セドリックは父親を見つけるなり飛び出していき、彼に抱きついていたので、余計そう思ったのだろう。苦笑いしながらセドリックとハンスに声をかけるフランの姿は、まるで二人の本当の父親のようで――


「アイリーン?どうしましたか?」


「! あ、いえ、」


 何も言わず彼らのやり取りを見つめていたわたしに、声がかかるまで。わたしはテーブルに置かれた食事に一切手をつけていなかった。慌てて手を伸ばし、口にものを詰め込む。ひとつの丸テーブルを囲み、四人で食事をとるわたしたちの光景は、他の客たちにどう写っているのだろう。


「今日はなんでミッドガフドに来たんだ?チビたちは?放ってきて大丈夫なの?」


 セドリックが質問攻めにした内容は、わたしも気になるところだ。おそるおそる顔を上げてみると、フランは一瞬だけ顔を強ばらせ、わたしたちに真剣な表情で向き直った。ただならぬ様子に、口の中のものを一気に飲み込んでしまう。


「実は、お願いがあってね」

「おねがい?」

「フィーネに戻ってきてほしいんですよ」


 ぱちぱち、と不思議そうに目を瞬く二人と同様、わたしもポカンと口を開けた。フランは事情を説明するように言葉を続ける。


「私は急ぎ王都に向かわなければいけません。おそらく半年は滞在する必要があるでしょう。その間子どもたちのことを頼みたいのです」

「お、王都? なんで父さんが?」

「お勤めでね」

「……王都って、遠いんですか?」

「ここから馬で一週間くらい、かな」

「そうなんだ……なら、しょうがないけど」


「あ、あの」


「どうしました? アイリーン」


「ど、どうして、わたしも、ですか? 教会の子じゃないのに」


「アイリーンが一緒なら、セドリックも安心だと思いまして」


 どういう意味だ。


「あ、それと。これは提案なのですが、……ハンス」

「? はい」

「私と一緒に王都へ行きませんか?」


 わたしは今度こそ言葉を失い、口だけでなく目も開いてフランを凝視した。何を考えているのかわからない微笑で、言われたハンスも驚いた顔をして呆けている。


「え…………王都? ぼくが?」

「はい」

「な、なんで、ですか?」

「ハンスには魔力がある。王都に行けば、その力をもっと磨けると思うんですよ」


 ハンスはハッとしたように何度か瞬きすると、少し迷うように下を向いた。セドリックはそんな彼を心配そうに見つめている。わたしは――、


(ちょ、ちょっと待ってよ……急展開すぎる、けど、これ。もしかしたらここ、かなり重要な分岐点になるんじゃない?)


 ただ呆然と、フランの話を聞いていたが、わたしは重要な何かを忘れているような気がした。だって、王都といえば皇女が――ゲームのヒロインがいる場所だ。そんな重要拠点に、フランが、行く?


 ミッドガフドでの出来事を通じて、わたしはラスボスに――フランに対する認識を少しだけ改めていた。ゲームの結末を知っているからこそ。フランの気持ちを知っているからこそ。


 わたしが努力して、頑張って、行動したら。

 フランがラスボスにならなくてすむ、そんな未来を迎えられるかもしれない。

 行動すべきは、今じゃないの?


(皇女は今たしか、6歳……? 今頃はなにを……ああもう、思い出せわたし、過去イベント)


 フランはゲームが始まる十年前に、一度王都に行っていた……?

 そう、そのとおりだ。そこで国王の信頼を得て、皇女とも顔見知りになった。


 頭の中でおおまかに、ゲームの過去を――つまり今後起こりうる出来事を時系列順に整理してみる。



 ①ラスボスが王都に行き、国王の信頼を得る(今?)

(ハンスを連れて行こうとしているが原因不明。原作も不明)


 ②数年後、皇女が教会に少しの間だけ預けられる

(原作:皇女を権力争いから守るため、国王が配慮。信頼するフランに預けた)


 ③ここで皇女はセドリックと仲良くなるが、すぐに王都に戻る

(原作:アイリーンとも最終的に仲良くなる)


 ④数年後、セドリックの元に皇女が助けを求めてやってくる

(原作:王位継承権を剥奪しようとする反逆者たちから逃げてきた)


 ⑤直後、フィーネの村が襲われる。セドリックたち旅にでる

(原作:ラスボスの手引き)


 ………改めて思い出すと酷いな。どう考えても⑤が唐突すぎる。①から④まったく関係ないし。いや、ちょっとくらいは関係あるけど。ゲームクリアしましたから。フィーネの村を襲うのが国の反逆者どもで、皇女の敵なのよ。フランが裏で手引きして――ってあれ?じゃあ、フランが王都に行くのってやばくない?


(いや、そもそもなんで、フランは王都に行ったんだっけ……?)


 たしかフランだけでなく、その時期は世界中から王都に人が集められていたような――


『……王都に緊急の招集がかかったとかで、――』


 そう教えてくれたのはヤッカスだっけ。現に今も、ミッドガフドの巫子は帰らない。


『急ぎ王都に向かわなければ―――』


 フランの言葉の、真意って……?


(………あ、)


 思い出した。


「……崩御」


 息だけで呟いたのに、フランはめざとく反応し、わたしに目を向ける。曖昧な笑みを返し、もう一度皿に手を伸ばして、味のしないパンを口に投げ込んだ。


(そうよ、国王の死期が近いんだわ!ゲームではもう亡くなってる人だったから気付かなかった……)


 ゲームでは、すでに皇女の父が現国王であり、皇女の祖父は死亡していた。重い病にかかって。

 わたしたちの――ローレンシア王国の国王が、病にかかるのは今のタイミングだったのだ。だから世界各国から巫子を招集している。巫子による光属性の魔術で国王の病を治そうとして。……でも、神父であるフランを呼び寄せているということは、おそらく国王はもうそれほど長く――


「ハンス。どうですか? 私と一緒に王都へ」


 フランはハンスの返事を急いだ。本当に時間がないのだろう。わたしは自分が尋ねられているわけでもないのに、なぜか心臓の音が早まったのを感じた。――ハンスは、どう答えるんだろう。

 考え込んでいたハンスは口を閉じたまま息をのみ、視線を泳がせて――わたしと、目を合わせると、


「……ぼく、いきません」


 まっすぐに口にした彼の言葉に、迷いは感じられなかった。



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