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40.やっと初期レベルに到達した

 

 セドリックたちより遅れて、とてつもなく疲労感を顔ににじませたダンとヤッカスが戻ってくる。外でなにがあったんだろう……と心配して声をかけようとしたところで、ハンスがそういえば、と口を開いた。


「アイリーンも魔術が使えたんだね」


 目をパチパチさせる。わたしの反応をどう捉えたのか、ハンスは得意げに教えてくれる。


「フラン様が言ってたんだけど、ぼくたちみたいな子どもが魔術を使えるのはすごくめずらしいんだって。アイリーンは光属性の魔力だから、もっとめずらしいと思うよ」

「ひかりぞくせい」

「うん。ケガや病気を治したり――」

「そう!!そうなのよ!!!わたし魔術が使えるようになったの!!!」


 彼が言い終わらないうちに、やったー!!と飛び上がる勢いのまま、わたしはハンスに抱きついた。喜びに声が弾み、年甲斐もなく興奮してしまう。だって魔術よ!すごい!!嬉しい!ゲームみたい!!


「やっと初期レベルに到達したー!みんなのおかげよ、ありがとうハンス!」

「っ、ちょっ、」

「魔術のことで聞きたいことがいっぱいあるの! まずどうやったら“覚えた”ってわかるの? 術に名前はつけないの? 詠唱ってどんな?」

「え、えっと、あの――っ」


 初めて手品を見て大騒ぎする子どもみたいに、わたしは息を荒くしてハンスに詰め寄った。驚いたように全身を硬くするハンスは、顔を真っ赤にして声を詰まらせている。たぶん目をギラつかせたわたしが怖いんだと思う。申し訳ないけど、でも嬉しいんだもの、魔術!!ゲーマー時代の血が騒ぐのよ!!


「……アイリーン、オレは?」

「へ?」


 初めての魔術に夢中になっているわたしの肩に、ポンと手が置かれた。振り返ると、怒ったような顔のセドリックがすぐ後ろに立ち、口を真一文字に結んでいる。……ああ、とすぐ思い当たり、笑みを広げてみせた。


「もちろんセドリックもよ。ありがとう」

「……ほんとにそう思ってる?」

「ホントだって! 二人がいたから強くなれたのよ。前衛のセドリックがいなかったら、後衛のハンスは呪文を詠唱できないでしょ?」

「じゃあハンスから離れて」

「え?」


 なにが「じゃあ」なんだろう。いきなり話がとんで、目を白黒させていると、固まったままのハンスの後ろにいたスヴェンがボソッと呟きを漏らした。


「……独占欲の強すぎる男は嫌われるぞ」


 ――独占欲? 誰が? 誰に??


 聞きなれない単語に口を開けて呆けていると、セドリックも聞き覚えがなかったようで、わたしと一緒に首を傾げていた。スヴェンがニヤリと口端を歪め、もう一度繰り返す。


「嫌われるぞ」


 状況的に、セドリックに言ってるんだろうか。でも、セドリックに独占欲なんて、一番遠い概念じゃない……? 彼ほど博愛主義はいないだろう。スザンナのことといい、彼は敵にも情けをかけてしまうくらいなのに。


 しかし、セドリックは顔を真っ青にして、わたしたちから二歩、三歩と離れていく。最後は逃げるようにバッと後ろに跳びずさった。『嫌われる』って言葉に反応してるのか……スヴェンも意地が悪い。


「スヴェンさん、あんまりセドリックをいじめないで」

「事実だろ」

「どくせんよくってなに?」

「"こいつはオレのもんだから誰も近寄んな"って思うことだ」


 ハンスも知らない言葉をセドリックが知ってるわけがない。ますますセドリックに独占欲なんてありえない――と思ったが、スヴェンの簡単な説明に、あれ?と首をもたげた。………まさか?


「………セドリック。あなたもしかして、」

「ち、ちが……っ!」

「相棒が取られそうでイヤだったのね」

「、えっ」

「なるほど……。前衛のセドリック、後衛のハンスでいいコンビだったのに、わたしが入ってきたら邪魔。ああ、そっか!だから『ハンスから離れて』なのね―――――ってなんでよ! わたしも仲間に入れてよ!! せっかく魔術が使えるようになったのよ!? もう足手まといにならないから!」


 今まで完全にお荷物だったことは認めるが、これから先はきっと役に立てる。そう宣言して、意気込みをアピールした。なのに、セドリックだけでなくハンスまでなぜか微妙な顔をして、やがて顔を手で覆ってしまう。まるで全身で絶望を表現してるみたいな……なによその態度は。そんなにわたしが信用ならないと言うの。


「間違いなく役に立つわよ!ライナルトを回復させたのだって、わたしのヒールが炸裂したんだからねっ!」

「いや、あれヒールじゃねえだろ。もともとケガは治ってたし」

「“巫子の祈り”だったよな?あれ」

「なぁアイリーン、相棒を探してんなら俺がなってやろーか?」

「ライ、今はややこしいからやめとけ」


 ダンとヤッカスがなにやらヒソヒソし、ライナルトは突然手を上げて立候補し、スヴェンがそれを横から止める。なぜかその会話にセドリックとハンスも加わるそぶりを見せて、部屋中を声という声が飛び交う。


「あ、そうか。おい、イイこと思いついたぜ、アイリーン」

「え?」

「一儲けできんぞ」


 その騒がしい中、わたしを呼んだのはスヴェンだった。ニヤリと悪巧みしてそうな凶悪面に、久しぶりに心臓が恐怖の警鐘を鳴らす。……改めて思うけど、スヴェンの見た目だけは絶対にカタギじゃない。ヤのつく人だ。


 わたしは非常に悩んだ末、スヴェンの案を採用することにした。この町のためにもなる、と言われれば強く拒否しづらい。後日、法に触れないかを町の偉い人にも確認したところ、逆に頭を下げられてしまったので、それならばと引き受けることになったのだ。


 その日からわたしは働き始めた。

 期間限定、ミッドガフドの巫子(仮)として。




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