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3.わたしも十分チビなんですけど

 鳥が鳴いている。


 パチリと目を開け、ガバリとその身を起こした。アイリーンは寝起きがいいらしい。起きてすぐだというのに意識ははっきりとしていて、ぐるりと室内を見渡す余裕もあった。ひどく殺風景な部屋だ。わたしが6年間生きてきた場所。あの扉を開けると、いつもわたしより早起きな父が料理をしていて――


「……今日から一人なのよね」


 正確には昨日からだが、とにかくバタバタしていて一人という実感がないまま終わってしまった一日だった。夕食もセドリックが一緒だったし。


 寂しくないかと聞かれれば、嘘だ。今までアイリーンとして生きてきた記憶は確かに存在する。わたしは父に愛されていた。大事に育てられてきた。

 けれど、前世で生きた二十数年の中で、一人暮らしをして生きてきた数年間の記憶も確かにあって。


(というかゲーム通りなら、お父さんはわたしを捨てたんじゃなくて、守った)


 ストーリーがすすむにつれて明らかになっていった真実を思い出し、ぶるりと身を震わせた。大切な娘を人質にとられ、従わざるを得なかったのだと。ぎゅっと拳を握り、それでも貴方を許せない、と父に向かって吐き捨てるように言ったアイリーンの悲痛な顔は、ゲームながら見ていられなかった。


「おじゃまします!おはようアイリーン!」

「…………おはよう。セドリック、『お邪魔します』は家に入る前に言うのよ。部屋に入ってからじゃなくてね」

「あ、そっか。ごめんな」


 突然開いたドアに驚き、考えていたことが霧散する。暗い気持ちになりかけていたところを彼の裏のない笑顔で癒され、明るい現実へと引き戻してくれる。やっぱり彼は主人公なのだ。

 素直に謝ることができるセドリックは、神父でもある父親にしっかりと教育を受けているため、基本的には礼儀正しい男の子だ。ちょっと抜けたところはあるけど、人好きのする笑みは将来それさえも自身の魅力にかえて人に信頼される好青年となるだろう。


「今日は早いわね。今起きたところだから、遊ぶのはもうちょっと待って欲しいんだけど」

「アイリーン、父さんがうちに来てくれませんかって」


 穏やかだった心臓が一気に跳ねた。ぎょっと目を剥く。なんのフラグよそれ!?


「神父のオツメテ?があって、ミッド……なんとかってとこに行くんだってさ。その間チビたちの面倒見るの手伝ってほしいんだよ」

「わたしも十分チビなんですけど……」

「ん?」

「いえ…。そう、神父のお勤めね。行き先はたぶんミッドガフドかしら」


 ミッドガフドはこの村――フィーネの村を南下した小さな町だ。商業が発達しているので人の出入りは多いが、そこに住む地元民は少ない。フィーネとあまり変わらない田舎町だった。そんなことを素早く思い出す。もちろん前世のゲーム情報だ。


「つまりラスボスは不在……なら大丈夫かな」

「らすぼす?」

「わかった。すぐに用意するから……あの、ちょっと部屋を出てくれる?」

「? なんで?」

「なんでも」


 背中を押すようにして無理やり追い出した。つい最近まで同じ部屋で着替えるどころか一緒に風呂に入っていたような気さえするが、精神年齢がほぼ三十路になった今、さすがにもう無邪気だった子どもには戻れそうになかった。



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