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24.あ、見送りは結構です。

 

 目を見開いてお互いに硬直しているわたしたちに、ダンが「知り合いなのか!?」と驚きの声を上げる。が、いま一番驚いているのは間違いなくわたしなので、返事をすることもできなかった。ライナルトもわたしの顔を穴が開くほど凝視している。しかし、我に返るのは彼の方が早かった。


「……な、なにしてんだよ。こんなとこで」

「あ、あなた、こそ」

「……ダン、こいつ知り合いだったのか?よそモンじゃねーか」

「あーそれはだな……」

「まさかうらぎったのか!?」


 突然ものすごい剣幕でダンにつかみかかろうとする。すぐにダンからゲンコツを食らっていたけど、わたしは意味もわからないまま混乱するしかなかった。


「っざけんな。目当てのモンも手に入った。そのガキは関係ねーよ。ただの――……し、知り合いだ。お前こそソイツとどういう関係だ、ライ」

「………今日からうちの店で働いてる」

「ッ、はぁ!? ンな事してる場合じゃねーだろ、おまえんとこ!」

「っ、ねーよ!でも、スヴェンが何考えてんのか、わかんねえんだよ、おれ」


「あ、あのー」


「ッ、チッ。あいつは店を守る気があんのか」

「わかんねえ。知らねえよ!でも、俺は守るぞ」

「……ライ」


「ちょっと、」


「おいライ!ちゃんと手に入ったぞ、ほらコレ」

「あ、見して。……おおお!!すげーじゃんか、ヤッカス!」

「へへん」

「すっげー!見直したぜ!これどうやって手に入れたんだ!?」

「えっ、それは――」


「ほーんと。どうやって手に入れたんです? 『土地売買契約書』なんて」


 ライナルトの後ろからのぞき込み、ソレを指してわざとゆっくり強調しながら尋ねた。するとようやくわたしの存在を思い出したのか、彼らはビクッと肩を跳ねさせ固まってしまう。そんな彼らに向かってにっこりと笑みを向けた。そっちはわたしの話を聞かないかもしれないが、わたしはいつだってそっちの話を聞いてるのだ。


「あ。たかが『知り合い』程度のわたしじゃ、教えてくださらないかしら」

「お、おい――」

「残念だけど、今日は出直した方がいいわね。あ、見送りは結構です。『安全な大通り』をとおって帰りますので、物騒な『事件』なんてまさか起きないと思いますし。また明日にでも『友人と一緒に』伺いますから、そのときは教えてくださいね。他人が所持してるはずの土地売買契約書なんて『どうやって』手に入れたのか――」

「「すみませんでした!!」」


 ライナルトが唖然とした様子で見守る中、ダンとヤッカスは勢いよく頭を下げた。………ちょっといじめすぎたかな。反省はしてる。後悔はしてないけど。



 **


 ミッドガフドは人の出入りが多い町だ。出稼ぎにくる商人、品物を運ぶ馭者、珍しい商品を求め近隣都市からやってくる人々など、町の商業戦略が成功を収め、活気と賑わいを見せている。しかし、そこに住む地元民は少なく、実態はフィーネとあまりかわらない田舎町であった。


 ――これが、わたしの知っているゲームのミッドガフドだ。街でなく町と呼ばれる規模であり人口をもつ、主人公の最初の目的地。


「この町にこんな人が増えたのは最近なんだ」


 床の上にあぐらをかき、俯きがちに話してくれた内容から、わたしはミッドガフドに到着したときのことを思い出していた。予想以上の活気と人の多さに驚いたのだ。しかし、それはゲームから受ける印象とは違うからだと思い、納得していた。けど、ライナルトの様子から察するに、そんな単純な話でもなかったらしい。


「最初はよかった。物がなんでも手に入る。人が増える。ケーザイコーカもある、って。みんな、喜んでた」


 彼の言う『みんな』は、元からミッドガフドに住む地元住民を指すのだろう。そこに『よそもん』が含まれていないことは明白だった。


「でも、だんだん変なヤツらが増えてきやがって、俺たちの町を荒らし始めたんだ」

「……変な奴らって?」

「町の店をつぶしたりとか」

「壊しに来るの?」

「そうじゃなくて――金で、えっと」


 ライナルトは困ったようにダンを見上げる。助けを求められたダンは彼の言葉を補うように言い換えた。


「金で、店のある土地を買っちまうのさ。二度と商売できねーように」

「それは……気の毒だけど。でも、買うことができたのは、売ろうって思うお店側の意思もあったからじゃないの?」

「ちげーよッ!」


 同業他社によくある合併吸収や、競争の話かと思った。もしそうなら、冷たいようだがわたしたちにはどうしようもない。客は、まったく同じ商品なら少しでも安く買いたいと思うだろう。だからこそ店側は、高くても品質を上げたり、品質をそこそこ抑えても安い物をつくったりして、客に選ばれるよう努力するのだ。それをしなかったり、報われなかった店から衰退していく。その結果店を手放すことになったとしても、他の成功したお店を恨むのはお門違いというか、間違っていると思った。薄情だと思われるかもしれないけど。


 しかし、それを指摘する前に、ライナルトが叫んだ。まるで悲鳴のように。


「あいつらッ、わざと店の前で騒ぎおこしたり商品にナンクセつけたりしやがったんだ!もう商売できねえ、店たたむしかねえってとこまで追い詰めて!そんなときに、土地だけ買いたいって、店は続けていいから、なんて言われたら!飛びついちまうだろ!?藁にもすがるだろ!? くそッ」


 バンッと忌々しそうに床を殴った。身に迫った様子から、わかってしまった。これはただの、『みんな』の話じゃないのだ。重くなる空気の中、ヤッカスが肩をすくめる。


「……店を続けてもいい、なんて嘘だったってこった。まあしょせんは口約束だしな。実態はそこを更地にしちまうんだよ。抗議しようにも、事実土地は売ったわけだから、俺たちにはその権利すらねー」







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