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22.

 

 反射で声のした方角に顔を向けると、道にしゃがみ込んだ女性より手前に、こちらに向かい全力で走ってくるフードの人物が目に飛び込んでくる。とっさに近くに落ちている小石を投げつけようとしたが、わたしの前をセドリックとハンスが庇うように立ち、視界を塞いでしまった。


「ちょっ、」

「ストーン」


 素早い詠唱で男の前に土壁をつくったのはハンスだ。子どもの身長ほどの高さだが十分障害にはなる。フードの人物は勢いを止めきれず、突然現れた土壁に派手にぶつかり、前方に倒れ込んだ。その拍子に、持っていたバッグを取り落とすのを見て、あ、と思うより早く、セドリックがそれを回収していた。ハンスが詠唱を終えた時点で姿勢を低くして飛び出していたのだ。その彼も右手に剣を構え、相手の動きを牽制している。


「すご……」


 こんな小石で何ができるのだろう。わたしは振り上げていた右手を徐々に下ろし、目の前であっという間に解決した事件を見て唖然としていた。もはや余興かと疑うレベルであっけない。――あの優秀な二人に比べて、自分がいかに無力な存在であるか思い知らされる。


 そうして、いつになく弱気になっていたわたしは、気づけなかった。周囲の気配に。そして本来なら真っ先に考えるべきだったことに。


 なぜ、フードの人物は、わたしたちのいる場所に向かってきたのか。


「動くな」


 耳元で男の声を認識するころには、首に刃物が突きつけられた後だった。


「アイリーン…ッ!」

「おい動くな!小僧、その鞄を寄越せッ!」


 ああ、近くにもうひとり仲間がいたのか。ひったくり程度なら小物だなくらいにしか思わなかったのに、まさか子どもを人質にとるなんて。でも、この場では確かに効果的よね。たかが鞄ひとつと、幼い子どもの命。大衆がどちらを優先するかなんてわかりきってる。……わたしを連れて逃げようとするなら話は別だけど。


 疑う余地もなく命の危機に晒されているのに、頭の中は妙に冷静だった。理性のない魔物よりは行動を予測できるからだと思う。ひったくりをしよう、なんて考える連中はまず子どもを殺さない。この人質も予定外のもののはずだ。まさか仲間のひとりがたった子ども二人に足止めをくらうなんて思わなくて、思わずいちばん非力そうなわたしを狙ってしまった――というところか。癪だけど、その考えは正しい。


 不思議と怖くはなかった。が、あたりまえのように足手まといになっているという事実に絶望する。それに今にも倒れそうなほど顔を青くして動けないでいるセドリックとハンスのことが気がかりだ。また心配させて、わたしってほんと――――あ、やばい、ずっと我慢してたのに、


「こい!!」


 無事に鞄を回収した男は、フードの人物を呼び、わたしの首根っこを掴んだ。そのまま引きずるのが面倒になったのか、身体を片手で抱えあげ、この場を離れようとして――え?うそ?つれてくの?まさかわたしを!?


「ッ、なにすんのよ!」

「静かにしろ!」


 なんでわたしなのよ!という怒りと、なんで怒鳴られないといけないの、という悔しさとでとうとう感情が振り切れてしまった。決壊した。頬を、熱をもった何かが流れていく。


「アイリーン!!」


 呼んでくれた誰かの顔は、視界がにじんでよく見えなかった。



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