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21.異様に疲れる一日だったわね

 

「じゃあ、二人とも同じ店のために戦ったってこと?」


 ハンスの純粋な疑問が、容赦ない一撃となってライナルトを貫く。


「ッ、気づくかよ! だってコイツ、どー見てもよそモンだろ!?」

「まあ、見たことない剣も持ってたしね……」

「そう! 見たことねぇ剣を……」


 一応助け船は出してみるが、余計にダメージを与えてしまったらしい。力が抜けたようにへなへなとテーブルに突っ伏してしまった。その頭上に、スヴェンが追い打ちをかけるように拳を落とす。


「ッ、ってえ!!」

「ライ! 余計な騒ぎを起こすんじゃねぇっつってんだろーが!」

「っ、ッせえな!だいたいテメ―が俺になんの話もしねーでこんなヤツら雇ってっからだろ!?」

「『こんなヤツら』に負けてのこのこ帰ってきたのはどこのどいつだ!」

「ッ!」


 悔しそうに唇を噛むライナルトに、スヴェンは呆れたようにため息をついた。子ども相手にそんな言わなくても、と思うが……なんとなく口を挟みにくい。キツい言葉の裏側にちゃんと親しみがあるのを感じるからだろうか。


 数分前。帰宅して、とりあえず話をすることにしたわたしたちは、店の奥に続いていたスヴェンとライナルトの家に招かれていた。

 テーブルを挟んでわたしたちの前に並ぶ彼らを、複雑な思いで見遣る。後ろに流れる灰緑の髪と、ライオンのたてがみのように立った金髪。二人は、粗暴な口調などはたしかにそっくりだと思うけれど。


「なあ、二人は家族なのか?」


 わたしたちの疑問を代表するように、セドリックが問いかけた。二人は同時に顔を上げ、目を瞬く。


 ――ああ、なるほど、確かに。兄弟には見えないけど、『家族』には見える。


「……ああ」


 静かに、だが確かにそう答えたスヴェンは、再びライナルトの頭を抑えつけた。今度は拳ではなく、開いた手のひらで。


「ライナルト・ヴェッカーだ。……コイツが迷惑かけたらしいな」

「え、いや。……オレのほうこそ仕事中だったのに、ごめん」

「……フン。明日からはウチの剣を貸してやる。担いで歩け」


 気怠そうに立ち上がり、スヴェンは奥へと引っ込んでしまった。ライナルトはまだ顔を上げないが、わたしたちは早々にお暇しようと顔を見合わせる。スヴェンが去り際に彼の髪をクシャリと撫でたのを見て、大丈夫だと思った。


 彼らが『家族』であることは疑いようもなかった。



 **



「なんだか、異様に疲れる一日だったわね」

「そう? ぼくは楽しかったよ」

「オレも!」


 いくら体だけ若くてもやっぱりわたしはおばさんなんだなと実感する。一泊5ジェニーの安宿に帰る道中、吐いた弱音は誰にも共感されなかった。なんかごめんなさい。ほぼ一日カウンターで店番してただけなのに……。さらに気分が沈み、足取りが重くなる。ゆっくり帰りたいと思ったけど、両脇を固める二人に手を繋がれていて、まるで連行されているようだ。


「……わたし、もっと頑張らないとね」

「アイリーンはがんばってるよ」

「そうでもないわ……ほんとにそうでもないの」

「……なんでそんなに落ち込んでるんだ?」


 え?と顔を上げる。落ち込んでる?わたしが?


「………おれが、心配かけたから?」

「ちっ、違うわ!いや、心配はしたけど!」

「………もしかして、ぼくも心配かけたから」

「違うったら! 心配はしたけど!」


 不思議そうに、でも心配そうにわたしの顔をのぞき込んでくる二人に、申し訳なさがこみ上げてくる。



 ――わたしはこんなに優しい彼らを、今まで『ゲームのキャラ』として接してきたのか。



(そっか、わたし、ずっとこれがひっかかってる)



「アイリーン?」

「……ごめん。ちょっと。ちょっとだけ休みたい」

「わかった」


 立ち止まったわたしに不満そうな顔をすることもなく、二人は自然と人の波から外れてくれた。昼間より人が少ないのは、だいぶ夜が近づいているからだ。だから先に帰ってもいいと伝えても、それはイヤだと明確に拒否されてしまった。……あ、ダメ。わたし、落ち込んでる時に人に優しくされるのってダメなのよ。意味分かんないのに泣きそうになるっていうか。


「どうしたの?どこか痛い?」

「お腹すいたのか?」


 そうだとも違うとも言えず、口を結んだまま首を横に振った。困ったように顔を見合わせる二人に、わたしは何度も口を開いては閉じ、開いて、また閉じる。だけど、いつまでもまとまらない考えを抱えるのがつらくて、もう言ってしまいたかった。本当に彼らのことを考えるなら、それが正しいんじゃないか。


 わたし、前世の記憶があるの。ここはゲームの世界で、あなたたちはゲームの登場人物だった。いずれ世界を救わなきゃいけないから、フランを信用しちゃ駄目。彼はラスボスだから。


「……あ、あのね」

「うん」

「実は、」


「だれか!捕まえてー!!ドロボーよ!!!」


 甲高い悲鳴とざわつく周囲に、一瞬で空気が張り詰めた。




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