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15.絶対違うと思うわ

 フィーネの村の南にあるミッドガフドの町は、小さいながらも商業が盛んである。食べ物から薬から宝飾品から、フィーネにはないあらゆるものが王都や大都市から届くのだ。そこでは、遠方から出稼ぎにきた子どもから大人まで大勢の人が働いていた。


「つまり自分でモノをつくらなくても、どこかのお店で品物を売る手伝いをして、お給金を貰えばいいのよ」


 ミッドガフドに向かう道中で、わたしはハンスに説明していた。売り子のバイトだと言えたらいいのだが、それじゃ伝わらないだろう。


「子どもでも雇ってくれるのかな」

「そこは交渉次第ね。でも、子どもが楽しそうにオススメしてくれるものって、ものによっては興味を持ってもらいやすいと思うわ」


 というような利点をアピールすれば案外なんとかなる気がするのだ。あの町は開放的だし、新しい考えや品物を頭から否定しない柔軟さがある。行ってみる価値はあると思っていた。


「なあ!この肉も売れるんじゃないか!?」


 ズルズルと何かを引きずりながら、セドリックが戻ってくる。襲ってきた魔物を退治してくれていたのだ。一匹だったし、何より最弱と名高いピヨピヨという魔物(鶏サイズのヒヨコみたいなやつ)だったので、完全に任せっきりになってしまった。絵面的にも心臓に悪かったし。今だってとてもじゃないが直視はできない。


「う、売れるかもだけど……加工はしなくちゃね」

「かこう?」

「うーん、焼いてチキンにするとか」

「焼くのか? 火属性の魔術ならハンスが使えるよ。な!」


 振り返るとハンスはこっくりと頷いた。両手を前に広げ、小声で何か呟く。これがいわゆる呪文詠唱だ。


「ファイア」


 発動の合図とともに手元が光る。何もない空間から野球ボールサイズの火の玉が飛び出し、ピヨピヨ(退治済)に命中した。黒焦げになったヒヨコ(大)、正直かなりキツい。


「よっしゃー!」

「これで売れるといいね」


 わたし、ちゃんと勇者の仲間やれるのかしら……。

 ま、まあ、徐々に慣れていくわよね。きっと。おそらく。たぶん……。


 それより、とわたしは彼らを見る。剣技を身につけたセドリックと、魔術の才能を開花させたハンスの成長ぶりは、目を見張るものがあった。


 セドリックはさすが将来主人公になる男というべきか、軽い身のこなしで子どもサイズの片手剣を自在に操っている。今でさえピヨピヨ相手に後れをとらないのだから、プレイヤーがド下手でもない限り、将来チュートリアルで苦戦するようなことにはならないだろう。


 ハンスは、なんとわたしと同じ、希少な魔力持ちだったらしい。土属性と火属性の魔術なので、遠くの土を盛り上がらせたり、砂を浴びせたり、火の玉を投げたりすることができるそうだ。一ヶ月で身につけたとは思えないほどの即戦力である。将来世界を救う仲間として勧誘した方がいいんじゃないかと本気で思う。


 今のパーティで一番の役立たずは間違いなくわたしだ。


「わたしも魔術が使えたらなぁ……」

「はは……それ、ヒルデも言ってたよ。今回もすっっっごくいっしょに行きたがってた」

「…………寝てる間に出てきたのはやっぱりマズかったかしら? でも連れてくわけにもいかないし」

「危ないからね。よかったと思うよ」

「きっと父さんがなんとかしてくれるって!それよりさ、オレ前より強くなっただろ? アイリーンがミッド――…なんとかに行くって言ったら、父さんがもっと強い剣をくれたんだ!」

「そ……そう。まあ、アレよね。よかった、わよね……。そうよ、フラン……様、にも感謝、しなくちゃ。うん。二人がついてきてくれたから、わたしにも経験値が入るんだしね、うん」

「その、けいけんち?っていうのはよく知らないけど。さいしょ子どもだけで村の外に出してくれるのかなってちょっと心配だったんだけどさ。父さんが『アイリーンと一緒なら行ってもいいですよ』って言ってくれたんだ」

「はははは」


 一瞬で前言を撤回したくなった。ラスボス様の考えてることがまったくわからない。


「きっとフラン様もアイリーンのことがすきなんだね」

「絶対違うと思うわ。っていうか、『も』って何よ。あなたたちわたしのこと好きなの?」


 軽い冗談で聞いたのだが、ふたりは何の躊躇いもなく頷いた。我ながらまったく可愛くない性格だと自覚してるので、皮肉か?と思ったけど、「あたりまえだろ」「すきだよ」と返す彼らに毒気を抜かれる。子どもってすごい。こわい。わたしにもこんな純真な時代があったのかしら……もう思い出せないわ。遠い昔の記憶すぎる。


「あ」


 少しやさぐれていると、ハンスが小さく声を上げ、前方を指さした。つられて目を向ける。


「もうすぐだな!」


 言わずもがな、わたしたちの目的地――ミッドガフドが見えてきた。おしゃべりはここまでにして、誰からともなく足を速める。太陽はとうに真上にのぼり、じりじりとわたしたちの背中を焼いていた。




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