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月で巡り合った君と


 「ふう、疲れた……。」

 そうつぶやいて私はソファーに腰をおろした。

 ここは月。地球は温暖化(CO2の増加)による水面上昇(島の沈没)と大気汚染で到底住める状況ではない。水上都市も計画されたが、完成が間に合わなかった。

 月だって、どこでも住めるわけではない。太陽の光が当たっている方は、暑くて住めたモノじゃない。その逆もまた然り。だから、比較的丁度良い自転軸の上でしか生活できないのだ。

 色々あってようやくここに落ち着いた。

 さて、私がここに落ち着くまでの話をしよう。


 **********


 約三年前。

 私はOL(オフィスレディー)として、日々働いていた。

 仕事の内容は主に企業の新商品開発。

 そこそこフレンドリーというか、開けているというか、自由な課だった。

 毎日、沢山の案が出ては没になっていった。没になった案もくっつけて新しい案にはしていったが。

「ねぇ、掃除機(歩くだけで)つきスリッパ(お掃除できちゃうくん)とかどう?」

「耐久性どうするのよ。それに、吸引力も電源も。」

「電源なら、単五電池繋げ(直列繋ぎ)たらどうですか?」

「だめね。直ぐに電池切れになる。」

「没かー。じゃあ、目覚まし振動つき枕とかは?」

「寝心地、どうするのよ。それに、まくら投げできないじゃない。」

「寝心地なら、枕詰め物の種類でなんとかなりそうですよ。」

「ってか、まくら投げ!? …やっぱり没かー。じゃあ、アイドルの声で起こされるまくらは?」

「予算、どうするのよ。それに、採算が取れないわ。」

「予算かー、キビシイナー。といってそこら辺にいる奴(安く済む売れてない人)捕まえてきて(連れてきて)も採算取れないし…没かー。あ、でも、旬の過ぎた女優俳優なら――」

 こんな感じである。実際に商品化されている物があったらごめんなさい。


 さて、話を戻そう。


 元とは言えば、気づいていたはずなのだ。

 あまりにも忙しい人間社会によって、時間感覚と共にわからなくなっていただけで。

 たまにだけれども、酸性雨が降り始めていたし、空調設備(クーラー)でごまかしていただけで、だんだん暑くなってきていたし。

 私たち人類がそれを強く認識したのは、南極の氷が急速に解け始めたのが報道されてからだ。

 ネット報道に振り回される。嘘や偽り、推測などを真実と思い込み、混乱は深まっていった。

 専門家たちは前々(まえまえ)から警告を発していた。しかし、誰も気にもかけなかった。

 気づいた時には、もうすべてが取り返しのつかない状況になっていた――。


 人間というのは勝手なものだ。

 ここ(地球)にはもう住めないと判断してからは、すごく素早い対応だった。

 二年という制限時間の中で、火星移住の話が一気に進んだ。

 どうやったのかというと、その頃には火星移住は試験的に始まっていた。

 3Dプリンターの応用で建物を無人で大量に作り、氷を掘り出して電気で分解し、燃料となる水素と酸素を取り出した。食料も出来た。野菜を作ったり、ミドリムシの存在も一気に注目された。

 進んだ科学で、不可能と言われた億に近い数のロケットを作り出し、タイミングを見計らって一気に火星に送り込んだ。


 もちろん、すべて順調に行ったわけではない。

 相当なロケットが発射に失敗したり、故障したり、爆発したり、突貫工事のために宇宙空間で穴が開いたりして相当な数の人が死んだ。素人しかいないので、まともな対応も出来ずに死んでいった。

 それに、地球に残る人々もたくさんいた。

 ロケットが次々に落ちるのを見ていて、恐怖に駆られる人、地球で死にたいという人、お金がないという人(ちなみに、火星移住は無償で行われた)……理由はさまざまだった。

 子供も問題になった。子供は無重量状態(()じゃありません、()ですよ)にいると成育に影響すると言われていたが、仕方がなく、長期間に及ぶ移動期間の間、その状態にさらされた。

 食料だって問題になった。


 何もかもがうまくいかなかったと言ってもいいかもしれない。

 そんなとき、国際連()が全人類から千人を選出し、地球復興プロジェクトというものが発足した。

 私は、当時の人口からいって、何百万、何千万という確率の中から貧乏くじを引き当ててしまった。

 見事に当選した。

 これまた沢山の人々が辞退する中、私は『面白そうだ』という理由だけで、大した意思や考えもなく承諾した。

 これが人生最大の間違いだったのかもしれない。

 まぁ、もし私が地球復興プロジェクトに参加していなかったら乗るはずだったロケットが今も行方不明なので結果としては良かったのかもしれない。

 そして、先ほど四日ほどかけて月に着いた。


 **********


 時刻は最初のシーンに戻る。

 深々と沈んだ高そうなソファーに癒されながら、ぶ厚く小さい窓から外を見る。

 青と緑が目立っていたはずの(地球)が、青の割合は多くなり、緑よりも茶色が目立っている。

 まだすべてのロケットが火星に着いたというわけでもない。

 まあ、当たり前なんでしょうけど。

 私の業務は明日からだ。

 といっても明日は歓迎会と担当の割り振りしかしないらしい。

 とにかく疲れた。私はそのまま寝てしまった。


 **********


 朝になり、二度寝防止機能付き目覚まし時計が鳴った。それを止め、顔を洗いに行く。外はいつも通り。自転軸の上にいるといつでも太陽が見える。白夜みたいだと思いながら、食堂に朝食を摂りに階下へ行った。部屋にも調理スペースはあるのだが、私は料理をしない…ってか、できない。

 食堂にはあまり人はおらず、散関とした状況であった。多国籍、多人種が混在する中で、自動的に高性能での翻訳が行われているが、この状況では確かめようもない。

 そもそもだ。私は地球復興プロジェクトに参加している総人数が少ないのではないかと考えていた。

 つらつらとそんなことを思いながらAI(人工知能)考案の『栄養バランスの取れた食事』を注文すると、私の普段(地球で)の食生活のひどさがありありとわかる。

 食事は、大量のサラダに鶏胸肉の酒蒸しに玄米ごはん。

「Oh…。」

 味付けは美味しかったので、ペロリと食べてしまった。

 食後のお茶を楽しんでいると、

「おはよう。君も日本人ですか?」

私の前の席にそこそこなイケメンが座った。

「えぇ、まぁ、そうですけど…。」

 その男は私よりも年上に見えた。これでも私、二十五(二十代)なんですけどね。

「おっと、これはすまない。私は内海(うちうみ) 悠介(ゆうすけ)だ。これからよろしく。」

「私は、小川(おがわ) 絵美(えみ)よ。よろしく。」

 先ほどの朝食を見られたのではないかと思い、心の余裕がなくなってぶっきらぼうになってしまった。もし見られていたら、超ショック(・・・ ・)だ。

「なんというか、健康的な朝食でしたね。」

「…はぁ、そうですか。(そこ触れるなボケぇ! それくらい察っせ! それくらい!)」

 私が無意識にキッと睨みつけると、彼は『ははは』と笑い、朝食を食べ始めた。

 彼の朝食も、ほぼほぼサラダだった。

「そちらも、素敵な朝食ですね。」

 私が皮肉げにいうと、

「ありがとうございます。これ、私が設定したんですよ。」

彼は悪びれもせず普通に返してきた。私は自分が恥ずかしくなり、さっさと食器を片付けて部屋にもどった。


 *********


 元イギリス時刻(以後通常時刻表示)午前十時、地球復興プロジェクト員はA棟視聴覚室に集められた。ぱっと見、日本人はさっきの彼一人しかいない。とは言え、プロジェクト員は合計で六十人もいない室内であった。

「私は元アメリカ人のマイクだ。よろしく。さて、今我々は選ばれた上に自分の意思でここにいる。そして、我々の生活を支えてくれている人がいると言うことを忘れてはならないのだ。油断大敵! ここは宇宙だ。その事を忘れるな。以上!」

 …凄いな! 最新の翻訳機能。

「では、これからの配属を発表する――」

 私の配属先は、地球にいた頃のように、ただただ案を出すことに専念する部署だった。地球の回復についていろいろと不毛なことをやるらしい(マイク談)。まあ、半分以上の三十名ほどがここなので。なのだが! なぜ! なぜ、あいつ(内海悠介)がここにいるんだ? 約五割(半分)の確率で私はハズレくじを引き当てたことになった。

 悪い事はこればかりでは無かった。部署の中でも二つに別れたのだ。

 大体一対二の割合に。私はその一の方に入った。もちろん、彼も私と同じ部署。

 ちくしょぉおおお! なぜだ、何故私はこれほどまでに不幸なんだ。

 こんなことなら、おとなしく火星に行っておけばよかった。

 そんなふうに思い始めていた。


 *********


 私は、彼が嫌いだ。

 だいきらいだ。

 久しぶりの休日に、窓の外を見ながらそうつぶやいた。

 ここ数日間は、顔合わせから入って本当にアイデアを出すことしかしなかった。

 こちらは割合から言うと『一』の方に入る。これは凡人どもが集まるものだ。

 あっちは割合から言うと『二』の方に入る。これはえら~い専門家の方々が集まっている。

 蒼い地球を見ながら、私はゆっくりと深いため息をつく。

 なぜだろうか。彼が私に接するときは悪気が無いように思える。

 なぜだろうか。私は彼のことが嫌いなのに。

 嫌だと言う事を全身で表現しているのに。こんなに禍々しいオーラを出しているのに。

 そういう天然っぽさがあるところが嫌いだ。また、彼は無自覚のうちに私に恥をかかせている。

 ……なのに、どうしてだろうか。

 彼といると、心が安らぐのは。

 彼といると、勇気がもらえるのか。

 彼といると――。


 目が覚めたら、机に突っ伏している私は、肩のあたりから背中側に毛布を掛けられていた。

 隣には、彼がいる。

「っ!?」

 あ、いいのか。ここ、共有スペースだし。

 私の個室に窓はないし。

「おはようございます。それと、寝顔ご馳走様。」

 にこやかに言うと、彼は立ち去った。

 そうか、と私は思う。


 これは恋なのかもしれない。



 了


読んでいただき、ありがとうございました。


久し振りに短編を書きました。


これ、実は五月から書き始めていたんですけれども実は(略)

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