中編:なりきりシンデレラ
中編です。お昼の学校が舞台。でも雨降ってます。
霊府高校の一角にある休憩所。
ソテツやクスノキなど様々な樹木に覆われた中にある木造の休憩所は、告白スポットとして、霊府の生徒の間のみならず、この地域の人々に有名だ。
昼下がり。
朝と打って変わって土砂降りの雨が降っている中、雨を避けるように休憩所で向き合っている二人がいる。
「ごめんなさい。あなたとは付き合えません。まだ、あなたのこともよくわからないですし……許してください」
私は今日も勇気を出して告白してきた下級生のお願いを、申し訳なさそうにして断る。
「そう…ですか……お時間取らせてしまってすいません、爪紅先輩。」
そう言って立ち去る下級生の姿は、どこかしょんぼりしていて、ココロの罪悪感を、ちょっぴり刺激する。
「高校に入って通算何十回目かな…でもやっぱり慣れないなぁ……」
そう、私はひとりごちる。四年前の自分には、そもそもこんなことは一度もなかった。
そう、四年前までは……。
私立霊府高校三年、爪紅玲奈は、今や霊府のアイドルと呼ばれるほど、校内男子生徒の人気は高い。しかし、そんな彼女も、最初からアイドルだったわけではなかった。
中学生の頃までは、彼女は今よりも地味で、目立たない子だった。
教室の真ん中で、比較的陽気でクラスの中心にいるような女の子達がキャッキャしながら話している姿がとても羨ましいと感じていた。
しかし当時の彼女は「どうせ自分には……」と思って諦め、教室の隅の席で一人読書するような毎日を過ごしていた。
今の彼女の姿とは、まさに対照的な過去だ。
――そんな自分を変えるきっかけとなったのは、卒業式の日。
クラスメイトが打ち上げの話や卒業文集の余白にメッセージを書きあったりするのを傍目に、私は足早に帰宅の途へついていた。
そこで偶然立ち寄った書店で、私はある雑誌を手に取った。
『これで今日からあなたもシンデレラ!高校デビュー特集!!!』
それは、10代後半の女性向けの雑誌だった。
私からは縁遠いような煌びやかな少女たちが、雑誌を彩っている。
その雑誌を見ていた時、ふと私のココロに、一つの思いが、湧き上がる。
「私も……なれるかな?」
その思いは、すぐさま行動に移される。
貯金をはたいて、ネットで有名だった郊外の美容院に行き、髪をモカブラウンに染め、長髪に軽くウェーブをかけてもらう。かわいさを強調するために、右腕に水色のシュシュを、左手に小さな金色の腕時計をつける。
校則にうるさくない霊府高校だからこそ、出来たことでもあった。
――その結果は、入学してすぐに現れた。
喋りかけてくれる女子生徒が続出し、気づけばクラスの女子グループでも大きなところに属していた。
彼女の周りには、人が絶えずいた。
――それは、中学校の頃の自分とは、対照的に過ぎる結果であった。
クラスメイトと話したり、昼ごはんを一緒にしたり、勉強を教えあったり……中学の頃には無かったことを経験して、彼女は気づく。
「私は―寂しがり屋だったんだ」と。
――だから、なのかもしれない。
彼女はこの居場所を失いたくなかっ
た。
SNSや情報サイトで日々の最新情報を集め、雑誌で最先端のファッションを追いかけ、クラスメイトがオススメした人気俳優が出るドラマも必ず見た。クラスメイトと遊びに行くとも欠かさなかった。
そうすることで、必死で居場所を確保しようと、彼女は努力していた。
キーンコーンカーンコーン。
予鈴が鳴り響き、はっと彼女は我に帰り、慌てて時間を確認する。
「……うわっもう十三時半!五限始まっちゃう!」
彼女は、回想を断ち切り、立ち上がり、急いで教室へと向かう。
――その脳裏には、なぜかあの洋服屋のマネキン人形の姿が、浮かんでいた。
【次回予告】
後編:「人形少女」
彼女が抱く、違和感のような「何か」の正体とは……?