前編:マネキンドール
どーも。久しぶりです。
今回は連載ですが、前編・中編・後編の3話で完結(予定)します。
この物語は、第1作「真紅の人形師」で頂いた感想などから考えた結果、生まれた作品となっております。良ければそちらもどうぞ。
今回のテーマは「人間」と「人形」の境界です。
――どこまでも澄み切った青空が広がる朝七時。
放射冷却によって少し冷え込む秋空の下を、私は学校―私立霊府高校に向けて歩いていた。
高校のHRが始まるのは八時半。
私の家から学校までは、三十分もかからない。
それなのに、こんな朝早くから登校しているのには、二つの理由があった。
住宅街を抜け、大通りへと出る。
五分ほど大通りの歩道を歩くと、お目当ての店があった。
そこは、白壁の洋風なデザインがお洒落な、洋服屋だった。入口の扉には「close」の札が掲げられている。
この洋服屋が開くのは、あと三時間も後だ。
それでも、学校がある平日はいつも、この時間にこの店に立ち寄る。
「おはよう」
ガラス越しに、私は朝の挨拶をする。
声をかけた相手は、店の中にいるマネキン人形。人形だから、返事はない。
――ここのマネキン人形は、ちょっと特殊だ。
普通、洋服屋のマネキン人形が、装いを変えるのは、季節の変わり目と、新しい流行ファッションが生まれた時くらい。
しかし、ここのマネキン人形は一日として同じ格好をしていない。
――まるで、その日の気分で服装をコーディネートする、私たち人間みたいに。
今日のコーディネートは、秋を意識しているのか、からし色のベレー帽に、白いニットのセーター、黒いロングスカートという出で立ちだった。からし色のベレー帽がとても可愛らしい。
このマネキン人形を見ることが、私が早起きしてまで登校している一つめの理由。
「おーい、玲奈ーっ」
後ろから聴こえてきた声で、はっと後ろを振り返る。道を挟んで向かい側の歩道から、友人が手を振っていた。
ふと時刻を見ると、七時四十分。
ついつい、目の前のマネキン人形に見惚れていたようだ。
「やー、待たせたー?」
「そんなことないよー、私も今さっき来たところだしー」
「そっかー、今日は待ち合わせに間に合ってよかったよ〜」
私が朝早く登校する理由その二。
このゆるゆるとした雰囲気を漂わせた友人、望月灯里とこの洋服屋の前でいつも待ち合わせて、一緒に登校する約束をしているのだ。
「また見てたの〜、そのマネキンちゃん〜」
「うん、まぁねー。にしても凄くない?!毎日毎日、ファッション変わってるんだよ〜!」
「そう言われればそうだね〜、私寝ぼけてるからよくわかんないや〜」
――そこで、私はふと思ったことを口にする。
「ねぇ、灯里ちゃん?」
「なーにー、玲奈ちゃん?」
「このマネキン人形ってさー、誰の為に着飾ってるのかなー?」
その質問に、灯里はむむむ……と首を傾げたのち、少し考えてからこういった。
「んー、やっぱり、ここに通る【みんな】じゃないかな〜」
……みんな、ミンナ、皆。
…………みんな?
……あ、そっか……
「……そっか、そうだよね〜」
「……ん?どったのー?玲奈ちゃん?」
灯里の答えに、わずかに動揺する自分のココロを見て見ぬ振りして、私は答える。
「なんでもないよー?さ、学校にいこ、灯里ちゃん?ほらもう時間八時だよ?」
「うわ、ほんとだ、いこいこ」
私――爪紅玲奈は、友人とともに、再び高校へ向けて歩き出す。
(みんなの為に…か)
――友人の言葉が、何故か耳から離れなかった。
【次回予告】
「中編:なりきりシンデレラ」
乞うご期待!!!