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嘘の可否

作者: 黒猫
掲載日:2017/05/26

「僕は、やっていません。本当に彼女の靴に泥がついていたのですか?」




一人の少年が、ぴたりと静まり返った教室で話している。


容姿端麗の凛々しい彼は、皆の注目の的であった。


現在、帰りの会の真っ最中。


だが、ある一人の少女の靴が泥まみれになっていたことから長引いているのだった。


私達、小学6年生は家庭訪問の時期となり今日は、掃除をし終わった後、4時限で帰れることになっていた。


だが、事態は掃除時間に起きた。



靴箱の掃除を行っていた一人の少女が、とある人物の靴がやけに泥で汚れているのを不信がり担任に伝えたところ、持ち主の少女は、今日は、一切昼休みも学校から外に出ていないことが判明したのだ。

そのために、犯人探しをしなければならないことになったのだが。


雨が降りだしたのは、午後。

それはつまり、朝、彼女が登校して泥まみれになったことには繋がらず、誰かが意図的にやったと言わざるおえないことになる。



それが、先程の少年ということに現在なっているのだが、これにはわけがある。



靴箱の掃除をしていた少女と被害者の少女は、仲が良く昼休み図書館に毎日通っているそうなのだが、今日は、雨だったのにも関わらず、傘を持ってきていないことに気付いた。

彼女達は、どれくらいの雨なのか確認するべく掃除に行くチャイムが鳴っている最中に玄関から確認したと言っているのだった。


その時は、上履きのまま見に行ったそうなのだが、一度靴に履き替えて見に行くかどうか悩んでいる時にお互いの靴を見たと話しており、何とその場面では被害者の靴は、綺麗だったと言う。



あいにくの雨の中、外で遊ぶのはそれでもめげずにドッチボールをする男子ぐらいで、その靴を確認したのは、掃除のチャイムが鳴っている場面と言っているのだから、その時にザワザワと帰ってくる男子が彼女の靴に泥をつけてもおかしくはない。

だが、靴箱掃除の少女がある一言を今、この場で言ったことにより彼に白羽の矢が立つことになったのだった。



「………私、見ました。柿沼君が清香の靴を泥につけてるところ。」



この言葉が、皆を凍りつかせ帰りの会が長引き担任をも困惑させてしまっていると言ってよい。


だが、彼にはそんな覚え一切ないようで。




「柿沼、やったのなら、今、言った方がいいぞ? お前も悪意があってやったわけでもないんだろ?」


担任の眼鏡先生、いや、立花先生が賢明に彼に語りかけているが首を縦に振る様子はない。


だが、清香ちゃんの友人であり、柿沼君と共に靴箱掃除をしている恋菜ちゃんは、引かないと言わんばかりの表情を強めているのだった。



普通に考えて、柿沼君がやった証拠は、恋菜ちゃんの証言だけで、物証はないし、監視カメラもないんじゃ、解明は出来ない。


他の皆も、意見は別れているようで。



「柿沼が悪いっていう証拠はねぇじゃん!」


「清香ちゃんのこと、柿沼君好きだったんじゃない?」


「先生ー! 速く帰らせてくれよ。家庭訪問の時間くるんですけど!」


実際のところ真相は、分からないし私、探偵じゃないし、後者の意見と同様、速く帰りたいな。


そう思っていると、いきなり不気味な笑みで柿沼君が笑いだしたのである。


辺りがまた、凍りつくように静まり返る。



「すいません。皆の反応が面白かったからつい。」


反応?


何の反応だよ。


そう不信に思ったのだが、次なる彼の言葉にますます不信感が募ることになったのだった。


「冴木さんが言うように三好さんの靴を泥につけたのは、僕です。どんな反応するのか見たかったから。被害者や第一発見者、後、回りの皆の。」


立花先生の眼鏡が何もしていないのに、ずれ落ちる程、ホラーだったしこの場にいる全員が、ドッキリなんじゃないかと思ったはずだ。




それぐらい彼が悪魔に見え、同じ人間とは感じられなかった。












柿沼君が、例の一件を認め、彼女に即謝ったために、帰りの会はすぐ終わることができた。




同級生達は、事件のことをよく分からないまま柿沼ってそんなやつだったんだ、危ないオーラはあったけど、格好いいやつは、やっぱ何かあるよな、という考えで、家にそれぞれ帰って行った。












私は、一人、納得出来ないでいた。















何か妙に引っ掛かるのだ。



柿沼君は、最初、やっていないと言っていた。

だが、途中で諦めたかのように罪を認めている。








これは、誰かが突き止めないと何も無かったことになるのかもしれない。




そう思った私は、帰り支度をしていた柿沼君を呼び止めた。



「何で、嘘を認めたの? 本当は、何もやってないんじゃないの?」



すると、彼は、真っ暗闇のランドセルをからいながらこう言ったのだ。




「本当のこと知りたいなら、君が僕の家の家庭訪問始めといたら? 立花先生、予定より1時間遅れて来るって言ってたし。」




家庭訪問?



私、先生じゃないんだけど。




去ってしまう少年を前に、真相を知りたい私は、慌てて後を追いかけることしか出来なかったのだった。










外に出ると、雨は本格的に降りだしていた。

これは、傘をささないとずぶ濡れだ。


だが、目の前にいる少年は、そのまま歩いて行ってしまう。



えっ?


待ってよ、傘は?



「おーい! 柿沼君! 傘ささないと濡れちゃうよ!」



「学校休めるから別にいいよ。」



いや、そういうことじゃなくて。

てか、こんなこと言う人だったかな。





私は、自分のランドセルから折り畳み傘を出し、彼に渡した。






「これ、使って。風邪引いたら、やばいよ。」








「インフルエンザになる恵みの雨だったのに。でも、ありがたく使わせて貰うよ。」








いつもの爽やかな柿沼君に戻っていたが、どこか台詞に棘があるように思えてならかったのだった。







あれから、歩くこと10分。

目の前には、年期の入った一件の家が見えてきた。

まるで、武士でも住んでいるのかと言うような屋敷。

どうやら、ここが彼の自宅のようだ。

イケメンが住むにはギャップがありすぎるが、それはさほど問題ではない。



本当のことを知りに来たんだ。





柿沼君がさっさと家に入るのを私も必死に追いかけると、そこには父親らしき人物が待ち構えていた。











「あれ、担任ってかなり若いんだね。それに、ちっちゃい。」








「こいつ、俺の同級生、小6。担任、眼鏡って言ったじゃん。バカ兄貴。」



ふわっとした黒髪に目尻が垂れている、こちらの青年が柿沼君のお兄さんってのには、かなり驚いたけど、何だか学校にいる時と比べると………










キャラ変わってない?











「なんだあ。そうだよね、ランドセルからってるし。でも、大人に間違われるのって結構嬉しくない? 僕、すっごくそういうの好きだった。」


「誰もお前の好きなことなんて、聞いてねぇし。」



柿沼君は、どうやら、お兄さんには、Sっけ混じりになるようだ。


さっきも思ったけど何だか発言に棘がある。



当のお兄さんには、響いていないみたいだけど。



「で、君は? 何か用事があってここに来たんだろ? 良太が女の子連れて帰ってくるなんて今まで一度もないし。」


何だかかなり、目が光輝いているように見える。

私に興味を持ってくれているようだ。


とりあえず、今日起きたことをお兄さんにも話した方がよさそうだよね。



本題に入れないし。








「良太が嘘ついたんでしょ?」







話を始めようとしたら、満面の笑みでいきなり、目の前にいる青年にそう囁かれたのだった。











「どうして分かったんですか? 私、まだ何も話していないのに。」



「何となくかな。君、推理小説とか好きそうだし。」



えっ?


と、思い自分の鞄を見るとその隙間から新薔薇蓮花シリーズが見えてしまっていた。



「それって、今、話題になってる池柱琉羽って人の推理小説でしょ? 面白いよね、僕もファンなんだ。」



彼が指差した方角には、ずらりと並んだ本棚があり、そこには、推理小説が数多く存在していた。


その中に新薔薇蓮花シリーズもあったのだった。


すごいな、この人、探偵みたい。



そう思っていると、柿沼君がムスッとしながら話し出した。



「別に嘘言ったわけじゃねぇし。俺の本当のことを言ったまでだよ。」



俺?


一人称も変わってない?


でも、嘘を言ってないって……。





「君さ、名前何て言うの?」



え?



あ、そっか。

柿沼君のお兄さんに名前、名乗るの忘れてた。



「浅井です。浅井瑠花。」




「瑠花ちゃんさ、嘘の可否についてどう思う?」






嘘の可否?






何か、よく分からない方向に話が言っているような気がするのだが………。










「それって、嘘を吐くことに賛成か反対かってことですよね?」





「そうそう。瑠花ちゃん的にはどっちなのかなって。」




それは……。




「反対ですよ。嘘は、良くないです。」



すると、柿沼君のお兄さんは、大いに頷いた。

そして、また、質問を投げ掛けられたのである。



「じゃあさ、嘘を吐かなければならない局面は絶対に無いって言える?」




それは、一体どういうことだろう。


自分や人のためになるように嘘を吐くことはあるよねと言いたいのだろうか。


かなり考え込んでしまった私を助けるかのように、柿沼君が笑いだした。






「別にそんな真剣に悩むことでもないだろ。嘘吐いたらどうにかなる程、人間なんてもろくないんだから。」




だが、彼のこの一言であることが判明した。



「柿沼君、やっぱり、嘘吐いてたんじゃん。」



「は?」



「嘘吐いても何とも思わないってことでしょ?」



すると、彼は、首を傾げてこう言ったのである。



「じゃあ、逆に聞くけど、嘘を吐いて何を感じるの?」




予想外だった。



まさか、ここまで彼が狂っているとは。




私のため息を聞くなり、お兄さんが慌ててフォローし始める。



「良太は、嘘を本当のことのように考えられるんだよ。そこが、瑠花ちゃんとは違うところかもね。」


「どういうことですか?」


「ほら、嘘を吐くとさ、人間って罪悪感を感じるじゃない? でも、それがないんだよ、良太には。あれ、色んな意味で危ない感じになっちゃったな。」



全然、フォローになってないけど。



柿沼君って、もしかして、サイコパスになりやすいんじゃ……。



「だからね、難しいの無しにしてつまり、僕の弟は、嘘を自分の世界で正統化出来るんだよ。」



嘘を正統化?



「自分の世界は、一生人には見えないだろう? だからこそ、人間は、自分が思うまま自由に生きられるし思想もそれぞれ違う。良太は、嘘を本当のことだと解釈することによって人生を生きやすくしてるんだ。だからこそ、嘘に賛成なんだよ。」




ちょっと待ってよ。



生きやすい世の中にするなら、嘘を吐いていいって言いたいの?



「それは、間違ってます! だって、誰かがその嘘によって迷惑に思うかもしれな」



「俺のことを人から見た存在ってあんま気にしないから、どうでもいいし。それに、自分の世界での考え方大事にしたいから。」




何で……何で、そんな簡単に嘘が吐けるの……。


じゃあ、清香ちゃんの靴に泥をつけたのは誰なのよ。




「嘘の可否ってさ、人によって変わるんだよね。良太みたいに、嘘に罪悪感を感じない人間もいれば、瑠花ちゃんみたいに後ろめたさが残る人もいるわけでしょ? だからこそ、一概には言えないんだけど……。」



ピンポーン!




玄関のチャイムが鳴り響いた。


「良太の担任かな?」



柿沼君のお兄さんが、扉へと迎いこちらへ連れてきた人物は、立花先生ではなかった。



少女が二人。



その内の一人は泣いてしまっていた。



清香ちゃんと恋菜ちゃんだった。



どうしたのだろう。


そう思っていると、いきなり柿沼君の方を向き、二人とも謝ったのだった。


「ごめんなさい! 私がやったのに……清香の靴に泥をつけたの私なのに……。」



恋菜ちゃん……。



彼女の背中をずっと擦っている仲のよい友人達の間に、一体何があったのだろう。


「ねぇ、君。靴は、どうしたの? 」



柿沼君のお兄さんに言われて気付いたが、恋菜ちゃんの靴は、何と教室で履いている上履きだったのだ。



「こ、これは……。」




顔をがだんだん赤くなってきている。

咄嗟に何か袋を隠したように見えた。


どういうことだ?


すると、彼の目尻が上がった。



「汚したくなかったんでしょ? 新品の靴。今日、下ろしたばっかりだったんだよね?」



え?


彼女の方を見ると黙ったまま、下を見ていた。



構わず、あの男は話し出す。



「靴箱の掃除ってさ、僕が小学校の頃、靴棚を綺麗にする人と、床を綺麗にする人にわかれていたような気がするんだよね。その時に、借りたんじゃないのかなって思ってさ。もちろん、彼女には内緒で。自分の靴が少しでも汚れるのが嫌だったから。違うかな?」



まだ、黙っているところを見るとどうやら図星なのだろう。


「でも、おかしくないですか? 玄関の床を掃除するぐらいで、あんな泥まみれになります? 全体的に浸かってましたよ?」



そう、清香ちゃんの靴は、完璧に泥沼に嵌まったかのような汚れ方だったのだ。



しかし、どうやらまだ推理は終わっていないようで。


「はい! ここで問題です!ドッチボールをした少年達は、どうやって泥まみれの靴を流すでしょうか!」


え?


いきなり問題?


「ホースの水だろ。群がって気味悪かった。」



「良太正解! つまり、今日の昼休みにホースを使った男子達が今の発言でいたことが分かったよね。」


「チッ……。」



誘導したんだ。


今の台詞を言わせるために。



柿沼君のお兄さんって一体……。



「ここからは、僕の推測だけど、ホースを使った男子達は、水を止めるのを忘れたまま、掃除場所へと行ってしまった。そのことに気付いた恋菜ちゃんは、水を止めようと外に出た結果、校庭に降り注ぐ雨と、彼らのせいで出来てしまった泥沼により靴が汚れてしまった。こんなところかな?」




その言葉を聞き終わった途端、恋菜ちゃんは、今度は、清香ちゃんの方を見て謝った。



「ごめんなさい! 本当のこと言ったら嫌われると思ったから……。もう、友達じゃいられなくなるって……。」



泣き出してしまった彼女の背中を、清香ちゃんは、擦っている。



「そんなことするわけないじゃん。あれ、恋菜がすっごく喜んでた靴。東京にいるお母さんから貰ったんでしょ? 大切な物を汚したくないのは、皆一緒だよ。私を頼っていいんだから。秘密になんてしないでよ。」


「清香……。」



美しい友情劇だ。



あれ、でも待てよ?



二人とも傘を持ってなかったんだよね?


何で、全然濡れてないの?


誰かに借りたとしても、恋菜ちゃんは濡れてるんじゃ……。



だって、掃除の時間、外に……。




「あっれー、玄関にあったこの黒傘、さっき良太が帰って来た時にはなかったけどな。」



柿沼君のお兄さんが何やら満面の笑みで、一本の傘を持ってきた。



あれ、傘持っていってたんだ。




ん?



お兄さん、何で髪が濡れてるの?



外に置いてあったんだろうか。



つまり?



「はい、私達、柿沼君に傘を返しに来たんです。後、嘘を吐いてくれたお礼もかねて……。」



「いいよ、そのことは。雨強くなってるし、さっさと帰った方がいいんじゃない?」



その言葉を言われた二人は、キャーといい放ち彼に頭を下げて玄関へと向かっていったのだった。



もしかすると、これは……。



私は、彼女達を追って行った。



「ねぇ、柿沼君が傘を貸してくれたの?」



すると、恋菜ちゃんは、頬を赤らめて頷いた。


「ホースを直す時も?」


「うん……。」



「嘘を吐いて庇ってあげるから、靴は、泥に浸かったまま水で流さない方がいいよって言ったのも良太?」



あれ、いつの間に、お兄さんいたの。



「最初は、やっていないって否定した方が信憑性が高くなるって言ったのも良太?」



すると、彼女は、物凄い勢いで、頷いたのだった。



「あの子は、良太に惚れちゃったね。」


「ですね。」




二人の少女が去った後、私達は、しみじみと話し出した。


まさか、柿沼君がそんな人物だったとは。



自分のために嘘を吐いたんじゃない。



何だかんだ言って、人のために嘘を吐いたのだ。





「いいやつじゃん。」



「何か言った?」


後ろを振り向くとそこには、鋭い目付きでこちらを見ている柿沼君の姿があった。


威圧的過ぎるんですが……。



「速く告白しないと取られちゃうかもよ。人間の、人に対する反応なんてとある行動や出来事により変わっちゃうんだから。」



人の反応……。




そう言えば、嘘を認めた時、柿沼君、こんなこと言ってたっけ。



『冴木さんが言うように三好さんの靴を泥につけたのは、僕です。どんな反応をするのか見たかったから。被害者や第一発見者、後、回りの皆の。』



あれって、どういう……。



「ねぇねぇ、今の出来事で、嘘に対する考え方変わったりした?」



いつの間にか目の前には、柿沼君のお兄さんしかいなかった。


また、目を輝かせている。



「『柿沼 純平 嘘の可否について』大学で論文を作ってるんだ。小学6年生の意見だけ、どうしても聞きたいんだよ。」


何で、小学6年生の意見だけなの?



「うーん、そうですね、場合によっては、嘘を吐かないといけない時があることが分かりましたし、答えは……。」



「うん。」



私は、溜まりに溜めてこう言った。

「可否で。」





「え?」




純平さんは、意味が分からないと言った顔をしている。



「だから、可否ですよ。両方とも意見としてはあり得るってことです。」



すると、彼はため息を吐いた。


だが、どこか楽しそうにも見える。



「逸材発見だな。良太は全く参考にならないから、丁度良かった。」


「それって、どういう意味ですか?」


目の前には、柿沼君が鍋を準備している。


どうやら、彼は、料理も作るらしい。



何か目配せしているような……。


『て、つ、だ、え。』



彼の口がその言葉を発しているような感じがする。



てか、何で私がそこまで?


と思ったが、純平さんの言葉を聞いて、そうは思わなくなったのだった。




「だって、良太のやつ、僕と全く考え方が一緒なんだもん。兄弟ってそんなところまで似るのかな? 何だか、つまんなくてさ。」



私は、学校での柿沼君の態度を思い浮かべる。

どう見ても、家で鍋を作っている人物とは、違う。



むしろ、学校にいる時の柿沼君は、純平さんに似ているような気がする。


人の反応のこととか、言ってたし。



あの発言がもし、嘘だったとしたら、こうも考えられる。













柿沼良太は、柿沼純平を演じている。












でも、何のために……?



これは、お兄さんも気付いていないみたいだし、私が調べてみようかな。



柿沼君に俄然、興味が湧いてきた。





「手伝うよ。何、切ればいい?」


私が彼に駆け寄ると、包丁を持ったまま早口でこう言ったのである。


「人参、大根、白菜、昆布、椎茸、えのき、こん……」



「覚えられるか!」




彼の笑顔を初めて見た。



学校では見ることの出来ない、ほがらかな笑みだ。


柿沼君が、どういった人物なのかは今はまだ分からない。



だけど、きっと、純平さんと全てが同じなわけはない。


彼も彼なりに生きているのだから。



それを私が証明して見せる。




『夕方17時のニュースをお伝えします。本日、15時頃、波増駅近くの歩道で立花弭間さんが、何者かによって殺害されました。立花さんは、小学校の家庭訪問に行く最中に事件に巻き込まれた疑いがあるとされ、現在、警察が全力で捜査を行っている模様です……。』







立……花……先生?



どうして……。




何で、殺された……



「嘘の可否の次の論文、何にしようかな。」




純平さんは、何の興味も引かぬまま、ソファに寝転がっていた。


彼が持つ水滴が、辺りに飛び散っている。




そう言えば、柿沼君の傘を玄関から持ってくる時、お兄さんは、何故か濡れていた。


波増駅までは、ここから3分もかからない。


ましてやその前の歩道なんて……。



殺害が出来る範囲内だ。



でも、一人では無理かもしれない。



協力者がいるのかも……。



それは、一体…誰…。





柿沼君は、何も言わずに無心で料理を作っている。



恐らく、彼は知っていたのだろう。



この物語の結末を。





















次の日。







学校に登校すると、教室の中が騒がしかった。




立花先生が亡くなったのだから無理もない。





そんなことを考えていると、女性の教師がある人物を連れて教室に入ってきた。



皆、慌てて席へと着く。



柿沼君は、頬杖をつきながら前を見ていた。





だが、私の目は、隣にいるあの男を逃さなかった。






「立花先生のことは、今、警察が捜査してくれています。次の担任は、急なことでまだ決まっていなくてね。こちらの横にいる彼は、大学院生で教師を目指しているのよ。だから、いい機会だと思って、このクラスの担任を受け持って貰うことになりました。他の先生達も全力でサポートするから、皆も助けるのよ。」





何で…何で…いるの?






ここは、学校……なのに。





「柿沼 純平です。皆さん、よろしく。」


















同級生達は、柿沼君のお兄さんが担任ってすごくない?と騒いでいるが、私は、あの男を追いかけた。






あの化け物を野放しにしてはいけない。






「ねぇ! 浅井さん! 待ってよ。」




後ろからは、話題になっている柿沼君が追いかけて来ていた。


いつもの彼に戻っている。



だが、私は、構わず前にある闇を引っ張った。







「痛いな、もっと、優しくしてよ。瑠花ちゃん。」




「何で、教師なんですか?」




その言葉に彼は、高らかに笑い出した。



「だって、子供達を教壇という場からずっと見守っていられるでしょ? 楽しいじゃん。」



私は、後ろにいる柿沼君の手を強く握り締めた。




こんな男の近くにいては、絶対にいけない。



私は、無我夢中で思ったことを口にした。





「純平さんを、演じなくていいから。まだ、戻れるよ。自分に。」


「浅井?」




我に返った柿沼君が、不安そうに私を見ている。




何もかも奪われてしまうような気がした。





学校という第2の居場所も大切な人達も。





この一人の男に……。





「論文の題名、思い付きました。」





「え? 本当に?」





無邪気に微笑む彼は、もう、あの人間にしか見えなかった。





「……『虚像人間』自分を論文の対象にしたらどうですか?」








私は、柿沼君を連れてその場から逃げ出した。





どこか遠くに行きたかった。





もっと、遠くへ。




全身が怖くて震えている。




でも、行かないといけない。







あいつの手が及ばない世界へ。












































「子供は、大人の操り人形。遠くになんて、いけないよ。」

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