表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の檻  作者: 天水しあ
第二章「東の島――日の沈まない島――」
6/23

「真昼の影」

「あいつらって?」

「あの、――飛行団」


 穏やかに微笑んでいたショアの顔から表情が失せた。

「ああ、あの連中か」

 吐き捨てた声には、明らかな侮蔑があった。

「東の島にはいないみたいだけど、何で?」


「いや、寝る前にここらで騒いでたなって思い出して。さすがにもう、いないか。一ケ月だもんな」

 カナンは口早にごまかし、ふと足元に目をやった。影が短い。

 空を仰ぐと、背にあったはずの太陽が頭上にある。


「ああ、『昼』に入ったんだ」

「ついさっきね。朝と昼の境界って分かりにくいもんね。空の色は変わらないし」

 ショアはいつも通り柔らかい声で返してきた。さきほどの尖った声が嘘のようだ。


 飛行団は、島内にある様々なバンドの中で唯一、参加者以外ほぼ全ての島民から冷ややかな目を向けられる存在だ。「口にするのもイヤだ」という反応は、決して珍しいものではない。だが。


『飛ぶ!』

 確かに聞こえた。そんなことを言うのは飛行団しかいない。だけどあの声は……。


「でも、分からないよ」

 その妙に明るい声に、自分の目が空を彷徨っていたことに気づき、カナンは慌てて声の主を見た。ショアが、悪戯を企む子供のような顔をしてこちらを見ている。


「誰もルカが消えるとことを見たわけじゃないしさ。あれじゃない? 誰にも気づかれないところで一人こもって、自分の人生について考えてみるって、誰でも一度はやるじゃん。カナンはまだだっけ? 僕はもう終わったって、言わなくても分かってるか」

「……」


 軽やかな声が、さらりと「あのとき」に触れる。


 五年前、「姿が見えない」とみんなが心配する中、ようやく西の島に姿を現したショアは、浜辺にしゃがみこみ、波が寄せても、引いても、まったく表情を変えずに虚ろな目を虚空に彷徨わせていた。

 どうにか海から引きあげたものの、ショアは浜辺から動かなかった。


 飲まず、食わず、語らず、死んだように手足を地に投げだしていた。どんなに空の星が美しく瞬いても、月光が優しい光を投げても、彼の目は夜の水平線に向けられたままだった。目を離したら居なくなってしまうんじゃないか――抜け殻のようなショアの姿は、退屈すら覚える平穏の時しか知らなかった、カナンを含めた仲間たちを震撼させた。


 何の反応がなくても話しかけたし、あまりの無反応にうっとおしがられてるのかなと迷い、そうこうしているうちにショアを囲んでいた仲間が一人減り、二人減り、やがてカナンだけになった。


 仲間は去り際、『一人にしてやったらどうか』と必ず声をかけてきた。中にはカナンを一緒に連れて行こうとやっきになる者もいた。


 彼らは半ば強引にカナンを浜辺の先にある木立に連れていくと、

『いいかげんほっといてやれよ。ウザがられてるの分からねえ? お前はショアの気持ちより、自分が大事なんだろ。「仲間を絶対見捨てない」っていう自分を守ることがさ。所詮は自己満足だろ』

『だってあんな、明らかに様子がおかしいのに、ほっておけない! もし何かあったら』 

『そのときはそのときだろ』

 温度のない声がそう言ったとき、つかみかかりそうになった。必死に自分を抑え、そうして改めて気づかされた。


 ここは楽園だ。

 だけどここにいるのは、神でも天使でもないんだ、と。


『なんとでも言え』

 カナンはそう言って踵を返した。『この偽善者が!』という声には振り返らなかった。


 何も感じなかったわけじゃない。『自己満足』『偽善者』の言葉は何度も自問自答していたものだったから、少しずつ、でも確実に胸を抉った。

 やっぱり俺が間違ってるのかもしれない……思いながら戻ると、浜辺にショアの姿がなかった。


 慌てて探した。そうしたら海に入っていく彼の後ろ姿が見えた。驚いて、後を追った。足がもつれて何度も転んだ。偽善も、自己満足もなく、ただ捕まえなければと必死だった。


 やっと追いついて、腕をつかんだら、信じられないくらいの強さで振り解かれた。もういい、もう全部放棄したい、だから消えたいんだと泣き、わめき、暴れ出すショアを、自身も泣きわめきながら必死に止めた。


 ――必死過ぎて、その後のことをよく覚えていない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ