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奇妙な隣人

「お子さんといえば、103の御嶽みたけさん。あそこは3人家族なんだけどね、そこのお子さんがまたできたお子さんでね。

 3歳なのにすごく大人びているのよ。お父さんもお母さんも共働きだから、ちょくちょくあたしが遊び相手になったりしているんだけどね」


 チリリン。


 鈴の音が近くで聞こえる。

 振り向くと小さな男の子が立っていた。


「そうなんですか。あの、あそこにいる子供さんですか」


 私が向けた視線の先の小さな男の子は、おかっぱでうつむいて上目づかいでこっちを見ていた。

 肌は病的に白くて、病院の白いカーテンを思わせるような弱くてはかなそうなイメージ。


 チリリン。


 男の子の近くでまた鈴の音が響く。


「そうそう、早苗さなえくんよ。早苗くん、おはよう」

「おはようございます、大家さん」

「紹介するわね。こちらは今日から裏野ハイツに越してきた、日影飛鳥さんです。日影さん、この子が今お話した御嶽みたけさんの早苗くん」

「初めまして、お姉さん」

「あ、初めまして。えらいわねきちんと挨拶ができて」


 私が早苗くんの頭を撫でようとすると、早苗くんはそれを叩き落とした。


「ごめんね早苗くん、初めて会うのになれなれしかったかな」


 3歳児にも大人の対応。えらい私。よく我慢した。


「あら、早苗くん若くて元気なお姉さんだから、恥ずかしいのかなあ。」


 土野の婆さんが余計なことを言う。

 早苗くんはうつむいたまま固まってしまう。


「すいません、うちの早苗が何かしでかしましたでしょうか……」


 少しビクついた感じの男の声が聞こえる。


「そんなことないですよ御嶽みたけさん。早苗くん初めて会うお姉さんに照れちゃってるのよ。可愛いわねえ」


 また土野の婆さんは口に手を当ててクツクツと笑う。


「そうなんですか。あ、僕103の御嶽みたけです。こっちは僕の妻」


 男の人の隣には少し清楚な感じの、またおとなしそうな女性が立っていた。

 どちらも30代といった感じかな。

 私らの年代みたいな愛だの恋だのでキャッキャしているのとは違う、大人の夫婦といった感じがする。


「どうも初めまして。203の日影です。よろしくお願いします」


 形通りの挨拶にこれまた及第点の愛想笑い。


「今度この近くの大学のキャンパスに通うことになりまして。近くていいところはないかなって探していたんです」

「でも、大家のあたしが言うのもなんだけど、木造で築30年のこの部屋によく来てくれたわね。歓迎するわ」

「リフォームもしてあって綺麗でしたし、初めてですけど一人暮らしでも便利な立地に思えたので」


「そうよねえ、コンビニも近いし、ちょっと高台にあるけどバスもあるし駅まで行けば都会まで電車で一本ですものね。

 それにこの部屋、洗面台が独立しているでしょう? お化粧するのにいいのよねえ。私もそれでここに決めたんだもの。

 あら、そのお洋服も可愛く着こなしているのね。若くて元気そうな方だし、私も今どきのオシャレとか教えてほしいわあ」


 おっとりしたような感じに見えたけど、結構おしゃべりな御嶽みたけの奥さんだった。


「それにほら、出費はなるべく少ない方がいいわよねえ」

「はい?」

「大家さんの前で言うのもなんですけど、お家賃が安いのは家計を守る主婦としてはとてもありがたいわあ」

「これこれ、大家さんに聞かれてるぞ」


 御嶽の旦那さんの方が、奥さんの額を軽くデコピンする仕草でおどける。


「あとは102の青山さんだけど……。青山さん、いる? 折角だから出てきなさいよ」

「大家さん、いいです、いいですよ。また改めてご挨拶に伺うので」

「青山さんはね、ずーっと部屋にいるの。それこそ一年中っていうくらい。

 そりゃあ買い物とかには出るけどね、泊りがけで部屋を出るのは年末に一日二日くらいよ」

「そうなんですか」


 そんなプライベート情報なんて別にいらないんだけど。


「青山さーん、いるんでしょ? 出てきなさいよ、若くて元気なお嬢さんがお待ちなのよ」


 何度となくここの住人から聞いたフレーズ。

 若くて元気って、そんなにいいものかなあ。

 確かに顔立ちは平均的かもしれないけど、可愛いとか綺麗とかは誰も言ってくれないのは気にしないことにしよう。


 古い建物ながら手入れはよくされているらしく、102のドアが音もなくゆっくりと開いた。

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