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「前世の記憶」  作者: 泉 恋華
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「同じ気持ち」

 それから泉先生とは毎日のように会いました。会う、というよりはばったり会ってしまうという感じでした。それも不思議なくらいに、

その毎日はとても幸せで日々の疲れが癒えていくようでした。


 ですがそんな幸せがいつまでも続くはずはないのです。


ある日から彼は姿を見せなくなりました。それも急にでした。あんなに毎日会った神楽坂にもお座敷にも彼の姿はありませんでした。彼が恋しくなることは何回もありました。そのたびに簪を手に取り彼の事を想い恋焦がれていました。辛くなる時もありましたが、彼も私と同じ気持ちでいるのかな、そんなことを思ったりしてまた毎日を過ごしました。

 

 また彼と出会うのも急にでした。それは町外れにある小さな神社でした。

置屋に帰る途中にありますので

「泉先生とまた会えるように神様にお願いしようかいねぇ」この神社は縁結びの神様がいて地元の人々に大切にされている神社でした。神社にはいりお参りしようと本殿に向かって歩くと、どこからかごにょごにょとした声が聞こえてきました。どこから聞こえてくるのか耳をすまして聞くと、それはすぐ真下から聞こえてきて、下を見ると

 泉先生が土下座をして拝礼していました。あの潔癖症の泉先生が地面に座り丁寧に手をつきそれはもう頭をこすり付けているほど深々と頭を下げていました。信じられない光景をまのあたりにした私は言葉を失い呆然としました。


 驚く気持ちを抑えてしゃがみこみ

「泉先生何してらっしゃるんですか?」そういうと彼は驚き飛びのきました。

「あ、あんたまた僕を驚かして!今度はなんだよ!!!!」

そういう彼は怒りつつも少し嬉しそうに見えました。

「なにをお願いしてたんですか?」そうたずねると彼は目を泳がせながら必死になにかを考えている様子で

「えーと、それは、、、、あっ!そうそう、新しく書いた小説の(高野聖)の成功を願ってたんだよ!」

最近会わなかったのはそのせいか、そう納得すると同時に新たな疑問が発生しました。

「でも、この神社、縁結びの神様ですよ?」そういうと彼はまた慌てはじめました。知らなかった、というはずはない、なぜなら鳥居のところに縁結びと書いてあるからです。

「泉先生には意中の女性がいるのですか?」と思い切って聞いてみました。それが図星で私の知らない誰かの名前を告げられたらきっと私はくじけてしまうでしょう。ですが聞かないということはできませんでした。どうしても今聞かなければ一生聞くことが出来なくなりそうだったので、

彼は「そんなこと聞いてどうするのさ。」と突き放したようにいいました。図星だ、そう思うと涙がとまりませんでした。彼を慕っていた私としては、彼の思い人は違う人で彼の心をとどめているのは私ではなく誰かも知らない女性、

胸が締め付けられるような感覚でした。


「あんたなんで泣いてるのさ」と心配そうに私の顔を覗き込んできました。そんな優しさに嬉しく思っていたのに今は彼の心はここにないのならこんな優しくしないでほしいと思う気持ちでした。泣き顔を見られたくない、そう思いその場から離れたくなり彼から逃げるように走り出しました。どこにいくのか自分でもわからないくらい必死に走りました。


 走りながら、出会う前に戻っただけだ、叶わない恋もあるのだから泣くのはもうやめよう。そう自分に言い聞かせました。走りつかれて足を止めるとそこは人気のない一本道で来たことのない道でした。日が暮れ始めうっすらと闇が深くなりはじめたころ、

「ちょっと!!あんたこんなところにいたの」後ろから誰かが走ってきました。私はすぐにその声の主が泉先生であることがわかりました。怒鳴りつつも心配していた、優しさの感じられる声、私の愛する人の声、

その声を振り切るように再び走りはじめました。ですが男性の彼と女の私の足の速さは当然私が負けているのですぐに手首をつかまれてしまいました。

「あんた、なんで僕からにげるんだよ、。」

そんな切なそうに話しかけないでほしい。そう思うなら手を振り払えばいいのに振り払う勇気もなく彼から伝わる温もりを愛しく思ってしまいました。

あぁ、私はこんなにも彼を好いているのだな、そう改めて感じました。

「僕がなにをしたっていうんだよ」

そう困ったようすで訪ねてくるのに耐えきれなくなり胸の内を打ち明けました。

「泉先生には意中の女性がいるのでしょう?」そう話すと彼は真剣な表情で

「いるけど、それがどうしたってのさ。」また胸が痛みました。分かっていても辛いことには変わりありませんでした。


彼は私の手を引き自分の方に向け向かい合わせになりました。真正面から彼の顔を見れなくてうつむきながら

「あなたを~...」なかなか言葉にならなくて声にならなくて黙っていると泉先生は手を離し私の顔をはさみ自分の方に向けました。泉先生の顔が息がかかってしまうほど近くにあり私の目を真っ直ぐに見つめられると誤魔化す事なんてできませんでした。


「私はあなたをお慕いしています」


やっと言葉にした達成感と同時にもう彼とたわいもない話も出来なくなるという絶望感も感じました。


 なおも手を離してくれない彼はふっと妖艶な笑みをうかべたかと思うと、

さらに彼の顔が近くなり目をつむると


唇に彼の体温を感じました。


口づけられた、そうわかった時にはお互いに顔を林檎のように真っ赤にしていました。なんで?嬉しい!そんな気持ちでいっぱいでした。


「あんたは僕の気持ちも知らないで、、勝手に想像したんだろ、僕があんた以外の女性を好いてるんだって」

その通りだったので頷くと彼はやっぱり、と呆れて

「僕が好いてるのはあんたなんだよ、早とちりしないでくれる?」

私は自分の耳を疑うほど驚き彼を見上げました。彼は照れているのかそっぽをむいていて空いた方の手で口を押えていました。


 じっと見つめている視線に耐えられなくなったのでしょうか。彼は手を私の背中に回し私をすっぽり包み込んでしまいました。

「僕は初めて座敷で出会った日からあんたの事が気にかかってたんだよ。」

はじめて知った事実に驚くより抱きしめられて心臓の脈打つ音が彼に聞こえてしまうんじゃないか、そう思うほど胸が高鳴っていました。


「あんたも同じ気持ちでいてくれてたんだね」

「泉先生こそ、私と同じ気持ちだったなんて。信じられないくらいですよ。」

そう告げると、彼は体を少し離して私と向き合いました。

「その呼び方やめない?」

「じゃあなんて呼べばいいですか?」

すると彼は少し照れくさそうに

「僕の本名は泉 鏡太郎っていうんだ。だからあんたも名前で呼んだら?僕もあんたのことすずって呼んでもいいかな?」

「は、はい!鏡太郎さん」

名前を呼ぶのは嬉しいがとても恥ずかしく呼ぶたびにいつも赤面してしまうのではないかと心配になりました。

「ちょっと、すず僕の名前呼ぶだけでそんなに赤くならないでくれる?」

そういう彼も頬をそめていました。

「鏡太郎こそ」そう微笑みかえすと

「ほら、いくよ」と優しく手を握って歩きはじめました。


 置屋までの道のりは短く感じあっという間についてしまいました。

「じゃあまたね、すず」

そういって手を離し行ってしまいました。私は彼が見えなくなるまでその場で見送りました。まだ手に彼のぬくもりが残っているようでそっと手を胸に置き彼の事を想いました。


 その日は幸せな気持ちを胸に床につきました。鏡太郎さんと恋仲になれたのが

私の人生の中で二番目に幸せな出来事でした。

今回は最初の神社の拝礼の仕方以外はすべてオリジナルで書きました。こんな展開があればいいなと思いこの話が私の話「前世の記憶」でとても重要な部分になると思ったのでいつもの倍の時間をかけて書きました。鏡太郎とすずの恋の本格的なはじまりですので今までの中で一番盛り上がる部分なので一気に読めるのでわ?

一番頑張って書きました!!!!

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