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たまにはこういうのも悪くない。

 あぁ、泳ぎたいな。

 私はぷかりぷかりと湖に浮かぶ蛇を見ながら切実にそう思った。


 段々と春の薄寒い風が少なくなってきて、日中は半袖でも大丈夫な気温になった。折角目の前に綺麗な湖があるんだから、泳いでみたい気持ちになるのもわかるだろう。

 私は引き出しの奥にあった何年も使っていなかった水着を取り出した。おばさんが温水プールで泳ぐために着る、あれですよ。色気もくそもない?蛇の前だからそんなの気にしないから。

 水着に着替え、きちんと水中メガネまで装着した私は蛇を呼んだ。


「すいませーん、私も少し泳ぎたいんで手伝ってもらえませんか?」


 大して大きい声を出さなくても蛇には何故か聞こえる。蛇は私の声を聞き取って、ふらりと私の方を向いた。そして物凄い勢いで戻ってくる。


「わ、速いですね。わざわざすいません」


 別にそんなに急いでいなかったのだけどな。私は蛇にぺこりと頭を下げた。蛇は私を上から下まで見ている。これは珍しいものを見るような目だ。

 やっぱり水着を見たことがないのだろうか。私は水着を説明しようと口を開いた。


「あ、これは水着といって--」

「随分と色気のない水着であるな。今どきの女子が着るものではないであろうに」


 蛇は私を見てフッと鼻で笑った。小学生でももっと男心を擽る水着を着ているそうだ。私の水着姿じゃ誰も誘惑できないってか。悔しい。


「しかし泳ぐというのは解さないな。足がつかぬというのに」


 蛇は顔を部屋の床にのせて言った。私もそう思って蛇を掴んで泳ごうとしていたのだけれど、蛇は首を振った。


「もし手を放してしまったら?それに我が気づかないでそのまま泳いで行ってしまったらどうするのだ」


 どうやら蛇は心配性だったらしい。どこかの母親のようだ。


「でも泳ぎたいです。落ちたら助けてって言いますから」


 珍しくしつこい私に蛇は迷いだす。


「それはそうだが、しかし、危ないであろう」

「頼みます、まじで泳ぎたい気分なんです……蛇さんならすぐ助けてくれるでしょう?」


 しばらく考えこんだ蛇はやっと頷いた。やったぜ。ちょろいぜ。

 早速水に足を入れようとした私を体であしらい、蛇は私に頭を突き出した。


「泳ぐのは許可できぬが、我に乗ることを許そう。気を付けて乗るのだ」

「……」



 大人しく蛇の上に乗って水上散歩をすることにしたのだが、泳ぐのとはまた違って楽しい。私は時折身を乗り出し過ぎて落ちそうになったが、そのたびに蛇に注意され長い胴体で押し戻された。


「楽しいですねぇ、水上散歩」

「我は落ちないかが心配だ」


 最初は落ち着かなかったが、蛇はゆっくり進んでくれているから余裕が出来た。鼻歌なんて歌ってみる。

蛇は慎重に振り向いて私を見た。目が少し細められている。


「だがたまにはこういうのも悪くない」



 これがデレというものだろうか。うかつにも蛇にときめいてしまった私は、蛇から手を放してしまい湖に落ちた。慌てる蛇に救出され、口の中に入れられた。真っ暗で何も見えない。


「うむ、これでもう落ちる心配は無くなった。最初からこうすれば良かったのだな」


 蛇が話すたびに口が開いて、明かりが見える。いつ間違って食べてしまうか心配にはならないのだろうか。不思議だ。

 満足そうに喉を鳴らす蛇に、私は口の中は嫌とは言えなかった。……普段偉そうなやつのデレって怖い。心底そう思った。

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