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神様っぽいことをしてみた。2

 蛇のおともで連れてこられた私は、お目当てのち〇おの今月号を蛇が物色している間に店長と話していた。


「最近とにかく忙しくて休む暇がねぇ」


 そう溜め息をつく店長はとても疲れきった顔をしていた。この地の主である蛇に恐れをなしてか開店当初は私達しか客はいなかったのだが、勇気ある村人が足を踏み入れてからはじわじわと人気がで始めて今に至るのだ。

 一番人気は懐中電灯らしく、これを求めて遠くからわざわざ来るお客さんもいるらしい。懐中電灯が人気商品とか、やっぱり異世界マジックだなーと思う。この店の売上を見たコンビニのお偉いさんが揃って首を傾げるであろう。視察に来ちゃったらどうしようなぁ……。


「客が来るのはありがたいんだがなぁ……3時間に1回くらいのペースでお宅の神さんに来てもらったらいい感じに休めるかもな」

「うちの神様意外とデリケートなんで、そういうのやめてくださいね」


 ハハハと笑う店長を私は軽く睨んだ。愛読書の影響でこの世の中で一番怖いのは、ドアを開けたら黒板消しが降ってくる事だと思っているくらいデリケートなんだから。トイレの個室から 水が入ったバケツが落ちてくるのは平気なのかと尋ねたら、水蛇だからそれは大丈夫と言われた。いいんだろうか。


「でも休む暇が無いくらい忙しいのは確かですよね。何かいい方法があるといいんですけど……」


 私は雑誌コーナーをウロウロしている蛇を見ながらそう言った。また無いのだとしょんぼりしている。最近では雑誌類もすぐ売れてしまうらしい。仕方ない、後で芋けんぴでも買って慰めてあげようではないか。


「たまにでいいから、代わってくれたりする奴がいたらいいんだがなぁ」


 たまに代わってくる人、ということは新しいアルバイトを加えるってことだよね。村の人達も慣れてきたことだし、そろそろアルバイトの募集してみるとかいいんじゃない?前の店長のように仕事関係で困っている人がいるんじゃないかなぁ。私がそう提案すると店長は嬉しそうに首を振った。


「いい肥料を仕入れたお陰で農業が栄えてな。小さな村だが今じゃ店とかも出来て賑わっているよ」


 前から威張っていた一部の奴らは相変わらずだがなぁ、と店長は苦笑しながら付け加えた。


「それにここで働きたいなんざ言う変わり者はいやしないさ」


 まだ蛇のことが怖いのだろうか。コンビニ帰りに祠を訪れる人は増えているからそんなことはないと思うんだけど……。私が俯くと店長は私の頭をぽんぽんと叩いた。


「村の奴らにも色々事情があるんだよ。どっちが悪いとかじゃねぇ。これは時がいくら過ぎようが、誰が何をしようが変わらないんだ。どうしようもねぇよ」


 神さん単品で来られたら俺もまだ無理だ、と店長は言った。


「お前がいるから神さんも穏やかでいられるのだろうな」


 だから神さん置いてどっか行っちまうなよ。たぶん店長の目はそう言っていた。


「おい店長、今月号の〇ゃおはもうないのか」


 ぼんやりそんなことを考えていると、蛇が不満げな顔をして私達の方に近づいてきた。


「おぅ、悪いな。折角来てくれたのに」


 店長は何事もなかったように蛇に笑いかけた……まぁ何もなかったんだけどさ。


「ところでさっきの話だが」


 蛇が店長をちらりと見て言った。さっきの話とは何ぞね。ていうか話聞いていたのかい。


「そのあるばいと、たるものを入れようぞ」

「結構話戻りましたね」


 うむ、と蛇は頷いた。私は脱力しながらも蛇にそのさっきの話、を説明した。


「でも都合がいい人いないみたいなんです。村の人に頼めないみたいですし……」


 私がそう言うと蛇は特に迷った様子も見せずに答えた。


「ではあちらから取り寄せればよいではないか」


 いや、何普通に在庫切れの商品を取り寄せるみたいなこと言ってるんですか。人ですよ、人間。きちんとした人権は用意しておかないと。これは経営者に必要な最低限の知識ですよ。忘れてるかもしれないけどこのコンビニ造りだしたのは貴方なんだからね!


「おぉ神さん、いいアイディアでもあるのか?だったら是非ともお願いしたいんだが」


 どうしよう、店長思ったよりノリノリなんですけど。蛇を止めろ、今すぐ。


「我に任せよ。すぐその”あるばいと”を用意してやる」


 蛇はそう言うと私が止める間もなく光り始めた。

 あれ、もしかしてこれって。確信に近い考えが私の頭をよぎった。

 もしかしてこれってあの時--コンビニを造りだした時と同じ光じゃないだろうか。


「……ふむ、こんなものか」


 光が止むとそこには呆然とする私と、期待で目を輝かせる店長、どや顔の蛇が当然いて。あれ店内何も変わってないじゃんと安堵しかけた私は、店の奥から聞こえた「うわっ!」という叫び声が聞こえて新しい犠牲者に何と言い訳をしようかどうかという素早い頭のギアチェンジを余儀なくされた。


「どうするんですかこれ。取り返しつきませんよ」

「どうするって言ってもなぁ。蛇さんがまさか人間を違う世界から呼び寄せちまうとは思わねぇよ」


 私たちの目の前には返品できないモノが座っていた。紹介しよう--彼の名前は佐藤太郎。ぴっちぴちの現役高校生である。


「男にぴっちぴちとかつけないでくれます?気色悪いんで」


 彼は冷たい声でそう言うと、早くこの状況を説明してくださいと私たちを急かした。私は店長とこれからどうしようかと目を合わせた。ちなみに今は彼を驚かさせないためにも、蛇はトイレに隔離している。爬虫類苦手とか言われたらパニックになって話聞いてくれなくなったら困るしね。


「えぇと、貴方は今日からバイトに入ってくれることになっていた佐藤くんだよね。こちら……気軽に店長って呼んであげてください。私はオーナー。よろしくね」

「オーナーって名前みたいに発音しないでくださいよ。普通に名前それじゃないでしょう。バリバリ日本人顔ですし」


 キレの良いツッコミに惚れ惚れするね。掘れそう、いえ惚れそう。


「今俺の名前知らないからって飛ばしたよねぇ!?」


 私の肩を掴んでゆさゆさする店長に、じゃあ私の名前は知っているんですかと反撃すると静かになった。っふ、甘いんだよ。


「シフトの希望とかは後で店長に相談してもらうことにして。この店で働く上での注意事項なんですが」


 佐藤くんは真面目な顔つきになった。偉い子。


「まず店に多少違和感のある人が訪れても何も言わずに微笑んでください」

「意味が分かりません」


 あちらの世界じゃよくスマイル0円と言いますでしょ、あれです。いやそれとこれとじゃ、などと佐藤くんはつぶやいているけどスルー。


「何があっても外には出ないでください。出入りは裏の入り口からでお願いします……大体以上ですかね、店長?」

「あぁ、後は俺がその都度教える」


 蛇の甘言に軽く乗ってしまった店長は、失敗を取り返そうと深く頷いた。精々頑張ってくれたまへ。


「おい、ちゅーはいがもうないのだ。そこにあった”ほろよいかくてる”が飲みたい」


 蛇がひょっこり顔を突き出してきた。なんで今出てきたよ。私はもうどうしていいかわからなくてため息をついた。佐藤くん大丈夫かね?


「うわっ!なんですかこの物体っ」


勿論ぎょっとした顔をされていました。そうだよね、かわいいーみたいなノリではしゃいでくれないよねぇ。もう少しで何事も無く佐藤くんを帰せたのに。私は仕方なく立ち上がった。


「……店長、ここは任せました。私はあれを何とかしてきます」

「了解」


 真剣な店長と私の間に蛇はまたひょっこりと顔を入れてきた。これ以上前進してこないで、佐藤くんが自分の頭を疑い始めちゃっているからね。


「さっき”あるこーるぜろぱーせんと”でおいしいと客が言っていたぞ」


 黙れ。ていうかあんた接客できたのかい。


「あちらの世界の”こんびに”に行った時と同じ風貌でいたら、恐る恐る”れじ”を頼まれた」

「じゃあ人前にいる時はずっとその格好しててくださいよ!」


 私は蛇をずるずる引きずってお酒コーナーまで行くと、蛇の頭をバシッと叩いた。


「痛いっ。動物虐待は駄目なのだぞ」


 蛇は頭をふるふると振った。


「神様は含まれません」

「ふっ……神の方が下とはな」

「何急にキャラ変えようとしてるんですか。もう遅いですよ、完全におとぼけキャラ地についてますから」


 なんと、と蛇はわざとらしくがっかりした素振りを見せた。多分蛇はすぐトイレから出てきて、私たちの様子を影から見ていたんだろう。それで新入りを見てしまって自分の場所が取られたとでも思ったんじゃないかな。んで佐藤くんのクールさを真似してみた。それってまんま……


「……お子様じゃんか」


もう三百十年以上も生きているおじいちゃんなのに、子供。


「む、何か言ったか?」


 チューハイを選んでいる蛇はこてんと首を傾げた。私は蛇に笑いかける。


「蛇さんにはまだその飲み物は早いようだと思っただけです」

「わ、我からちゅーはいを取り上げるというのかっ」


 私はお酒コーナーにへばりついて離れない蛇を引きはがしながら、私は隣にあるいちごミルクに是非ともシフトチェンジさせようと決意した。


(そのほうがかわいいもんね)

 てへぺろ。

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