異世界という世界の軸
この世界は一つではない。根源を同じとして世界には軸が存在する。
ラジオの周波数で内容が異なるように、軸がずれると世界の内容がずれる。
同じ場所であって同じ場所でなく、軸同士は干渉を受けない。
似て非なる軸の異なる世界。それが異世界である。
「軸の異なる世界……」
少女とアリエスは、それぞれ軸の異なる異世界の住人だという。宇宙からみて俺たち地球の人間が異星人であるように、それぞれの世界が異世界というわけだ。
「そして、君はその本来干渉できない軸に干渉できる、前例の無い極めて稀な能力を持っている」
少女の表情は真剣そのもので、目を真っ直ぐに見つめる。
いや、そんな見つめられたらさすがに照れる……。
「それが、地下鉄で俺が見た光景ってことか」
心の動揺を必死に隠しながら、冷静に対応する。
少女と忍者が激闘を繰り広げていても周りの人間は無関心。それはそうだ、見えないのだから。
「でも、それがどうして、俺が元の世界に戻れないことになるんだ?」
「それは私が説明しよう」
アリエスは細身の剣を床に突き刺す。
「これがお前が本来いるべき軸だ。だが、自爆の影響によって」
アリエスは軽く剣を横に叩く。剣は刺さったままだが、斜めになる。
「少しだけ軸がずれた」
「それは分かるけど、なら、また叩けば元に戻るんじゃないか?」
「はぁー……」
うわー、こいつ馬鹿だなぁってため息つかれた。
「なら、元に戻してみろ」
と言って、刺さった剣を指差す。
「え? そんなの簡単に――」
コツンと叩くと剣は縦に近くなった。
「ほう、それがお前の言う元に戻った状態か?」
――くそ! そういうことかよ。
叩いてズレた剣を全く同じ位置に戻すのは容易じゃない。手に持って慎重にやるのでも難しいのに、叩いて一発でなんて、完全に戻らない。
「そういうことだ。お前は全く同じ爆発を全く同じ距離で全く同じように受けない限り、完全に同じ軸には戻れない」
「爆弾を作れってか?」
「そうじゃない。それにあれは爆弾ではない」
「は?」
「あれは圧縮された魔力による爆発だ、火薬などの爆発ではない」
「なに、どういうこと? 魔力?」
一気にファンタジーじみてきた。いや、異世界の時点で既にファンタジーだけどさ。
「この世界には、根源があると言ったろう?」
「ああ」
「その根源の力が魔力だ。分かりやすく例えるなら、火山や地熱だな。根源の魔力は地表に染み出すというか、滲み出る。あたしらはそれを使っているんだよ」
「それならまあ、分かりやすいけど」
「魔力は世界に干渉できる力でもある。だからこそ、圧縮された魔力の爆発によってお前の軸はずれたんだろうよ」
「俺に干渉する能力があるからか?」
「そういうことだ」
「はぁ……」
なんだよそれ、いきなりこんなファンタジーを受け入れろって? 無理だろ……。
「今すぐ受け入れられないのは分かっています」
頭を抱えていると、元気づけるように少女が近寄って言う。
「ですが、巻き込んだのはわたしです。責任を持って君を元の世界に返す。だから、信じてください」
右手を胸に当て、信じてくれという少女の目は、とても真っ直ぐで淀み無く、なにも言い返せなくなる。
「分かったよ……分かった。とりあえず信じるよ、半信半疑だけど」
「ありがとう!」
床に頭突きする勢いで頭を下げられ、慌てて「いいよ、そんな」と顔を上げるよう促す。
「でも、どうやって元の世界に戻るんだ?」
「そうだな、とりあえず私の世界へ行こう」
「はい?」
「私の世界は科学文明が発達している方でな。助けになれると思うぞ?」
そういえば、アリエスはどうして俺に協力的なんだろ? なんか協力してくれとか言われたような気もするけど。
「分かった。そうしよう」
とにかく今は付いて行くしかない。
「よろしくな」
「うん、よろしく」
アリエスと握手すると、目眩のような感覚に襲われる。
「あれ?」
「どうしたんですか?」
「ああ、いや。なんでもない」
この感覚、どっかで……?
記憶を辿ろうとすると、目の前に光の球が浮いているのを見つける。
「なんだこれ?」
触れようとして、アリエスが「触るな! 伏せろ!」と鋭く叫んで倒れ込むように俺と少女を床に伏せる。それとほぼ同時に、目と耳が光と爆音によって機能を失った。




