本当にごめんなさい
廃墟となったビルの一室。壊れた天井から差し込む月明かりが、舞台のスポットライトのように一部分を照らす。だがそこにいるのは俳優ではなく、気を失ったまま椅子に座る秀臣だった。
20代ぐらいの女が、水の入ったコップを手に少年へ近づく。
赤いコートに漆黒の髪を後ろで結わえ、切れ長の目はそれだけで獲物を殺せそうなほどに鋭い。秀臣を崩壊した地下鉄から運び出したアリエスである。
「起きろ」
コップの水を、飲むではなく、秀臣に浴びせる。
「う――ッ!」
朦朧としながらも、意識が戻った秀臣は、目の前に立つ赤いコートのアリエスを見る。
「『コウコウセイ』、これはお前の名か?」
「……んなわけねーだろ」
「だろうな」と納得したように頷き、アリエスはその場に座る。
「どういう経緯でああなったのか、説明できるか?」
秀臣は立ち上がろうとして、腕が後ろ手に椅子に縛られていることに気付く。
「念のためだ、少年。どうこうする気はない」
不満そうに座ると、一人いないことを思い出す。
「おい、あの子はどうした?」
「あの子? ああ、あの女ならグランが見ている。心配するな、あっちもどうこうする気は――」
アリエスが言いかけた時、後ろの壁が発破されたかのように破壊された。
「グラン、なにをしている」
壁の向こうから出てきたのは、銀髪の少女だった。
「……グランをどうした」
声のトーンを落とし、剣に手を添えてアリエスが問う。
「別に、殺しちゃいないわよ」
警戒するアリエスを気にも留めず、少女はキョロキョロとなにかを探す。
「……いた」
アリエスを無視して、少女は秀臣のところへと歩み寄る。
「……」
「……」
二人は黙って見つめ合う。
秀臣は、改めて少女の美しさに惹かれた。銀の髪は月のスポットライトを受けてキラキラと輝き、紺碧の大きな瞳は見る者全てを引き込むかのような魅力に満ちている。背は中学生ほどだが、その姿は圧倒的に大きく見える。
「ごめんなさい」
少女は、いきなり頭を下げた。
「へ?」
いきなりの謝罪に、秀臣は戸惑う。
「一般人である君を巻き込んでしまった……。これはわたしの責任です。本当にごめんなさい」
「いやいや、顔を上げてよ。俺は気にしてないからさ」
正直、今思い出しても訳の分からない出来事ばかりだし、早く家に帰りたいとかも思うが、こんなに深刻になられても困る。
「相当気にしているようだな」
横からニヤニヤと笑みを浮かべたアリエスが割り込む。
「どういうことだ?」
なぜここまで気にするのか分からない秀臣は、アリエスに尋ねる。
「お前はもう、お前の世界に戻れないんだよ。その女のせいでな」




