ちょっとした取引
「なんだ……?」
アリエスの振り下ろした剣は、少女の喉元でピタリと止まった。アリエスが芸術的な寸止めをしたのではない。止められたのだ。
――どうしたんだ? 腕が動かない。
まるで、肩から先が空間に固定されているかのように、微動だにしない。
――どういうことだ?
魔導屋は不思議そうにアリエスの腕を見ている。グランはなにがあったのか分からない様子でこちらを見ている。そして――。
――こいつが?
コウコウセイとかいう少年が、少女に向かって必死に手を伸ばしている。
我々の姿が見えることがすでに異質だが、しかしだからといってこんな能力があるのか? どう見ても巻き込まれただけの一般人に?
だがそれ以外、この状況を説明できるに足る要因がない。まさか、この少年はアレに関係しているのか?
こうして思案したところで結果は出ない。ならば……。
「少年、安心しろ。女を切り捨てるつもりはない」
アリエスは、出来るだけ少年に顔を近付ける。
「ちょっとした取引をしようじゃないか」
少年は、アリエスの意図を汲み取れずにいるようで、次の言葉を待った。
「この女を助ける代わり、私に協力して欲しい。もちろんタダとは言わん。望みをいくつか叶えてやろう。おそらく、君の世界では不可能なことも、我々には可能だ」
少年の目が、少女とアリエスを交互に見る。
分かりやすいな、この坊やは。
「さあ、どうする? 条件を飲むのなら、この娘の安全は保証しよう」
逡巡した結果、少年から力が抜ける。同時に、アリエスの腕も自由になった。
「おっと」
いきなり戻った勢いで、少女を傷つけるところ、危なく刃を戻す。
「魔導屋、一緒に来てもらおうか」
「ヒッヒ、なんだか面白そうですねぇ、商売になるならいいですよ。ヒッヒ」
「商談成立だな。グラン!」
後ろに控える大男を呼ぶ。
「こいつを運べ」
アリエスはグランに少年を渡した。
「こんな奴、なにに使おうってんだ」
「そう言うな、思わぬ掘り出し物かも知れんぞ?」
アリエスは少女を担ぎ上げる。改めて身体を見るが、致命傷は負っていないようだ。
「ふむ、運が良かったな。いや、悪かったか」
アリエスとグラン、魔導屋はその場を後にした。
* * *
――遠く離れたビルに、その人影はあった。
「対象は移動。はい、気づかれていません。……了解、引き続き監視します」
誰かに報告をすると、その人影は空に溶けるように姿を消した。




