境界線の狭間
――ここはどこだ?
暗い、暗い世界。上も下も分からない、方角も分からない。
――あなたは……。
声が聞こえる。儚げで優しい女性の声が。
――そう、ここに来てしまったのね。でも、ここはまだあなたが来るべき所ではない。
なにを言っているんだ? 俺は、なんでこんな所に……?
――あなたは今、狭間にいる。境界線と言ってもいい。でも、ここはまだあなたが来るべき所ではない。
来たくて来たんじゃない。
――そうね。あなたが自分で来られるわけはない。あの子に巻き込まれたんでしょう。
あの子……?
――それも、まだあなたが知るべきではないわ。
なら、俺はなにを知ることができる?
――なにも。あなたは、なにも知ることはできない。
ふざけてるな……。なら、戻してくれよ。元の世界に。
――ええ、それならできるわ。言い換えれば、それしか今はできないのだけれど。
そうかよ。……あんたは誰だ? 名前は?
――名は、あなたが知っている。いえ、あなたしか知らない。あなただけが、知っている。
知り合いか?
――いいえ、今はまだ。そうそう、覚えていたら、あの子に伝えて。
あの子?
――そう、あなたのとても大事な人。
俺の、大事な人……?
――これからのあなたを支えてくれる、とても大事な人よ。あの子に、心配しないで、大丈夫だからと。そう伝えて。
分かった。誰か知らないが、戻ったら伝えればいいんだな?
――お願いね。ただ、戻ると、あなたはここの記憶を忘れる。だから、思い出せたらお願いね。
マジかよ……約束はできないぞ。
――それでもいいの。あの子をお願いね。
暗い世界に、光が差す。眩しさに目を細める。
手を伸ばすと、意識がハッキリと、現実に戻る。




