正しい研究
――さて、どうする?
なんらかの攻撃によって、グレムリンが一匹やられた。まずはその攻撃手段を見ないことには始まらないからね。
テグィウスは標的の少年を注意深く観察した。視線、表情、その一挙手一投足に至るまでを全て観察した。奴は何をして、どうやってグレムリンを殺しているのか。
無数に解き放ったこの改造魔獣達をどう凌ぐ? どう捌く?
「さあ、最高のショーを見せてくれ!」
だが、少年は動かない。
――どうした? 諦めたのか?
まあ、この無数のグレムリンを相手にたった一人では無理があるか。つい興奮して大奮発してしまったが……考えたらただのガキだ。さっきのもまぐれ――
「“デアグロ・ギガ・エストレインジメント!!”」
「なっ!?」
その瞬間。まさに、その瞬間だった。
無数に召喚され遅い掛かろうとしたグレムリンを全て殺した。さっきのと同じような殺し方で。今度は全方位を全て一瞬のうちに――!!
あり得ない! 偶然なんかじゃない。このガキめちゃくちゃだ! それに、あれだけの事をして息切れもなければ顔色一つ変えやしない!
なんだ……何なんだこのガキは!?
「もう、終わりか?」
「――!」
不味い! 不味い不味い不味い不味い不味い!!
「くっ!」
こうなりゃ逃げるが勝ちというものだ。わざわざガキ一人に構って消耗戦することはない! 足止めにすらならんとは思うが――!
大きな召喚陣が浮かび、巨大化な改造魔獣が少年の行く手を阻む。
悪いな、お前はもっと大事に育てておきたかったが仕方ねぇ!
「大きければ止められると思ってるのか?」
足止めにすら、ならなかったな……。
8年間、手塩にかけて育てた改造魔獣がこのザマか……。
◆
俺の研究を馬鹿にした連中は腐るほどいた。将来性も有用性も分からずに、俺を否定しやがった。
「なんで分かってくれないんだろうな」
最初はいわゆる合成獣というやつを研究していた。いや、正確にはさせられていた。それが国のためだと。それが栄誉ある研究だと。
だがその実はどうだ? サンプル1万超えて未だに成功してねぇ。合成獣一体作るのにコストがどれほど掛かってるのか、分かってんのか? 一般的な会社員の年収相当の費用が一瞬で消えるんだぞ?
俺はすぐに行動して提案した。
「改造魔獣だと? 下らん」
一蹴だった。
計画書も提案書も何も見ることなく、概要を少し聞いただけで却下された。
まあそんなの会社じゃよくあることだ。俺の提案にインパクトが足りなかったのかも知れない。もう一度試してみよう。
「却下だ」
もう一度!
「却下」
もう一度……!
「……これ、君が考えたの?」
「――はい!」
初めて目に留めてもらえた!
「こんなこと考えてないで、早く次の合成獣のプラン考えてよ。もう一ヶ月も報告ないんだよ? こんな下らないことに時間を費やしてないでもっと――」
――そうか、そうだったんだ。
全ては無駄だった。無意味だったんだ。奴らには理解しようとする気が無かったんだ。
それなら話は早い。俺一人でやってやる。俺が正しいってことを、証明してやる!
それから半年で改造魔獣は完成した。元々基礎理論は完成していたから、作るのはさほど苦労はなかった。
合成獣に比べてコストは半分以下、失敗は無い。能力も桁違いだ。これでようやく奴らに証明できる。俺が正しいってことを!
――俺が気付いた時には、研究棟は火の海だった。
「なんで……」
やっと、半年かけてやっと完成した改造魔獣が燃やされる。
「いやぁ、災難だったねぇテグィウス君。まあ燃えてしまったものはしょうがない。元の研究に戻りたまえ」
「――!」
コイツ!!
後から知った。全て一人の権力者により仕組まれていたという事を。俺の研究は邪魔になる。だから全て無かったことにする――と。
そんな時だ、俺が陛下に会ったのは。
「あの素晴らしい技術は、君が?」
「……あんたは?」
「君が欲しいんだよ。君のその技術が。どうかな? 否定された世の中に復讐してみたくはないかね? そのために必要な物も全てこちらで用意しよう」
そんな嘘みたいな、夢みたいな甘い話があるわけがない。そんなことは分かってた。でも、今のまま居ても心が死んでいくだけだ。なら利用されたっていい。俺と俺の技術を欲してる奴がいるなら、くれてやろうじゃないか!
「いいぜ。あんた名前は?」
「みなは私のことをこう呼ぶ――」
◆
「ハァ、ハァ、ハァ……!」
参ったぜ、とんだ化け物を相手にしちまったもんだ。
「もうお終いか?」
「ハァ、ハァ、……ああ、もう降参だよチクショー。何なんだよお前は」
「火神秀臣。陛下を倒す者だ」
「なんだって!?」
聞き違えか? コイツ今――!
「俺は陛下を倒す。お前はどうする? どちら側だ?」
「別にどちら側でもねぇよ。俺は俺の場所が欲しかっただけだ」
小さな箱庭でもいい。改造魔獣の研究をしていられるなら、それだけで俺は……。
「この世界を壊すのが目的じゃないのか」
「ああ。適当に派手に暴れろって言われただけだ」
「ちっ! やっぱり狙いは――!」
「ところで、殺すのか殺さねえのか」
「は? もう殺意も敵意もないんだろ? 無関係な人を襲ったのは許せないけど、お前は無差別殺戮がしたいんじゃないんだろ。なら別に敵じゃない。もうグレムリンも終わりみたいだしな」
「ああ……終わっちまったよ、10年間の苦労が水の泡だ」
「終わってねぇよ」
「……は?」
秀臣は足元を指差す。そこには小さなグレムリンがテグィウスを守ろうとして立ちはだかっていた。
「コイツはお前を守ろうとしてる。アイツらも、俺に襲い掛かるというよりは、お前を守ろうとしてるように見えた」
「……!!」
「だから、お前はまだ立ち止まるべきじゃない。コイツらにはちゃんと感情があるんだろ? なら、お前は親としてやるべきことをやれ。で、もう人は襲わせるな」
コイツ……俺達のことをちゃんと分かって……。
「お前が根っからの悪人だったら、覚悟はしてた。でもお前はそうじゃない。なら分かり合える。そうだろ?」
「でも、お前に全部殺され――」
「ああ、アイツら死んでないから」
「は?」
「この力はな、殺す力じゃなくて守る力なんだよ」
「だってお前! さっき殺したって!」
「そうでも言わないと、俺の覚悟が決まらなかったし、それにあの時は手の内を晒すわけにいかなかったからね」
「じゃあ、アイツらは……」
「ああ、死んでない。一見死んでるけど、後で生き返らせるから心配しないでいい」
コイツ……なんて奴だ……。
「改めて、俺は火神秀臣。お前は?」
「……テグィウスだ」
秀臣が差し伸べた手を、テグィウスはしっかりと掴んだ。
*続く*
新たに発動した“守りの力”によって、テグィウスを撃破し話し合うことに成功した秀臣。狙われた神殿は無事なのか? 秀臣は間に合うのか?
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