急襲、決意。
サリヤがマッハの勢いで飛び出して10分ほど経っただろうか、話し声が近づいてくる。
「ほら早く〜!」
「こら待て、そう急かすな」
あの声はサリヤだな。もう一人は渋い男の声だ。一体誰を連れて来たんだ?
「ただいまー! ほら見てパパ! この方が大魔法師よ!」
「あ……?」
パパかよ! 分かります。どう見たって大魔法師になんて見えるわけが――
「だ、だだだ、だい、だ、大魔法師様だってー!?」
いやいやいや、おかしいだろ! なんでそうなるんだよ!
「いや、だから俺は――」
「分かってます! 分かっております……! 事故で記憶が無いとのこと!」
おいおいおい、今度は記憶喪失だって?
「記憶喪失の輩なんて何処の馬の骨とも知れねぇ怪しいやつぁ泊められるわきゃねぇ。そう思ってましたがとんでもない! 大魔法師様であれば一日どころか一年だって構いません! なんなら娘と結婚して一生ここに――」
「えっ!? やだパパったらー!」
恥ずかしがるサリヤの右ストレートがクリーンヒットして、パパは壁にめり込んだ。
「ぐがが……っ、ど、どうですかうちの娘は……。つ、強いでしょう」
「生きてますか……?」
パパさんは頭からドクドク血を流しながらにこやかにサムズアップして見せた。
「えーと、それじゃあとりあえず、お世話になろうかな……?」
「よっしゃー!! そうとなりゃあ歓迎会だ! サリヤも手伝いな!」
「あいよ! パパ!」
この親にしてこの子ありか。
* * *
うつらうつらと船を漕いでいると、いきなりやかましいブザー音か耳元で鳴り出した。
「うわぁぁぁー!?」
びっくりして驚いて叫んでしまったが、幸いサリヤもパパさんもいないみたいだ。
「な、なんだ?」
指で耳に触れると、ピッと電子音がしてブザー音が消える。
『あーあー、聞こえるかなー?』
「その声……!」
『やあ、元気してるかな? 秀臣くん』
「なんだよこれ、通信装置か? いつの間に……って、それより今まで何してたんだよ! こっちは大変だったんだぞ!」
『まあまあ落ち着いて。通信装置は君に会った時に取り付けておいたんだよ。それに、だったってことは落ち着いたんだろ? それを言うならこっちだって大変なんだよ』
「大変って?」
『陛下が動き出したんだ』
「――!」
『どういう事態か分かってるよねー、君。陛下に直接会った数少ない生存者の一人なんだから』
「どうしてそれを!?」
『言っただろう? 君のことは随分と前から見ていたって』
「そうだ。前も言ってたよな、それ。どういう意味だよ!」
『まーだ分からないの? そろそろ彼女の声も聞こえるだろうし、君は君の役目を果てしてくれればいい。だーいじょうぶ、ちゃーんと迎えには行くから! あははは!』
「ちょっ、待てよ! 俺の役目って――ああくそ! 切りやがった!」
前から俺のことを知っている。それに夢のことも。――いや、あれは夢であって夢じゃなくて、だからえーとあーと、
「ああもう! 今はそんなこと考える場合じゃない! どうにかしないと!」
だが何を? 力を満足に扱うことも出来ず、武器も無い。グラサンはあの調子じゃ期待できないし……ならアギリを――
そこまで考えて思考を止める。
アギリは確かに強い。自分がボロボロになってもお構いなしに俺を守ってくれた。でも、だからこそアギリに頼るのはなるべくよそう。もうあんな姿は見たくない。俺が……俺がアギリを守れるくらいに強くなるんだ!
その時、外から悲鳴が聞こえてきた。
「なんだ!?」
慌てて外に出ると、逃げ惑う人々とそれを追いかける黒光りするエイリアンのような化け物がいた。
「なんだありゃ……あ!」
逃げ遅れた一人の婦人が躓いて倒れると、化け物は素早く察知してその婦人のところへ行き、爪で脚を突き刺す。
「きゃー!! た、たた助けぅグェ〜!」
捕まった婦人は黒光りする化け物にムシャムシャと食べられてしまった。
「クッハハハ! なんだこの世界は、まるで歯応えのない。グレムリンの餌場だな」
「なんてことを……!」
あのゴキブリみたいな醜悪な化け物がグレムリンだって? エイリアンのほうがまだ納得できるぞ。
どうにかしたいが、グラサンもアギリもいない。こんな状況じゃどうしようも――
『そろそろ彼女の声も聞こえるだろうし、君は君の役目を果てしてくれればいい。』
彼女の声……。
俺が力を使う時の前兆のような、あの不思議な声。そろそろ聞こえるって、いつ聞こえるんだよ!
「大魔法師様!」
何も出来ずに指を咥えて見てるだけの俺の後ろから、元気で明るい声がした。
「サリヤ! それにパパさん!」
「パパさんだなんてよしてくだせぇ、棟梁でいいですぜ」
「大工さんだったのか」
道理でガッシリした体だと思った。
「それで、アイツはなんですかい?」
「分からない……あの化け物を、マスターらしき男はグレムリンと呼んでいたけど」
「グレムリンって……パパ、まさか!」
「ああ、だとしたら神殿が危ねえ! 大魔法師様! サリヤを頼みます!」
「え? あっ、どちらへ!」
「神殿よ。パパは棟梁だから、神殿を守りに行ったのよ」
「神殿を……」
そういえば、あの神殿はここのシンボルだって言ってたな。
「ま、まあ、大魔法師様は私が守りますから!」
気丈に振る舞ってはいるが、明らかに強がっているのが分かる。涙目になりガダガタと震えている。
俺はそっとサリヤを抱きしめる。
「あっ……」
「大丈夫だ。大魔法師の俺に任せろ。サリヤは俺が守る」
「……うん!」
涙を拭いて、サリヤは笑顔を見せる。
そうだ、こんな所で悲観して絶望してる場合じゃない。俺がサリヤとアマドライトを守るんだ!
*続く*
陛下が動き、新たな敵が襲来。
秀臣はサリヤを、アマドライトを守れるのか?
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