サリヤとの出会いと嫌な予感
――どこだ、ここは……。
「痛っ!」
起き上がろうとすると、ひどく頭が痛む。頭痛というよりは、ぶつけた痛みのような……。
ゆっくり起き上がる。暗くて何も見えない。
「おーい」
声を出すと、洞窟のような反響音が返ってくる。
「マジでどこだよ……痛っ!」
動かすと頭が痛む。これはしばらく安静にしてないとダメかもしれない。
「でも腹減ったしな……」
そもそもなんでこんな暗闇の洞窟にいるのかを考えた。
たしかイカれた魔法使いみたいな奴と学校で戦った――といっても主にアギリがだけど。それからグラサンが連絡できたとか言って、目の前が真っ白になって……。
「ダメだ、そこから記憶がない」
記憶を辿っていると、ふと一人の少女の顔が浮かぶ。
「あれはやっぱり夢なんかじゃなかったんだ」
一気に色々な出来事がありすぎて整理できていなかった情報を、落ち着いて少しずつ整理していく。
異世界での出来事があって、教室で目が覚めたらディメルとミレーによる唐突な襲撃。タイミングを見計らったかのようなグラサンと毒舌ロリっ子アギリの登場。
そして時折聞こえるあの声。脳裏に響く、頭に直接声が届くような感じの声。どこか懐かしく安心できるような、あの声は確かに教室で目が覚める前にも聞いた。
「俺に、アリエスとあの子を助けられる力があるってことなんだよな」
あの声が言うには俺の中にすごい力があるらしい。未だに信じられないことだけど、それよりも信じられないようなファンタジーな世界をもう嫌というほど体験した今なら、むしろそんな力が自分にはあるんだという確信のほうが現実味があった。けど、力があるとして、どうすればいいのかさっぱり分からない。
グラサンの言葉も妙に気になった。
『君のことは随分と前から見ていたからね』
「随分前からって、いつからだよ……おれが生まれた頃から見てたってのか?」
整理しようとすればするほど、分からないことが増えていく。仕方ないから思考を途中で切り上げた。分からないことだらけではあるけど、少しは整理できた。
「よし、とりあえずここから出よう」
洞窟なだけあって地味に寒い。頭はまだ痛むが、いつまでもいたら風邪を引いてしまう。外が極寒の可能性もあるが、そしたら引き返すしかない。
ゆっくりと慎重に進む。のどが渇いてきてから気付いたが、洞窟のわりに空気が乾燥気味で水の音が一切無い。もしかしたら洞窟とは違うのかも知れない。
もうどれくらい進んだのか、ようやく壁に触れることができた。
「よし、あとは壁伝いに行けば」
よくある迷路の攻略法よろしく壁を頼りに進む。もしかしたら戻ってるかも知れないが、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。空腹と喉の渇きで体力がゴリゴリ削られていくのが分かる。
「もう、無理……」
体感時間でおよそ1時間。ヘトヘトになり、限界を迎えた身体は力を失い倒れ込んだ。
――すまん、アリエス。俺はどうやらここまでのようだ。
薄れゆく意識の中、最後に誰かの声が聞こえたような気がした。
* * *
目が覚めると、そこは洞窟でもなければ学校でもなく、どこかの家の一室のようだった。天井からはいくつかの蝋燭のような灯りが垂れていて、動く範囲で周りを見るとタンスのような家具やぬいぐるみもあり、女の子の部屋に見える。
「あ、目が覚めた?」
声の主が上から覗き込む。この部屋の主だろうか、茶色い髪が顔にかかってくすぐったい。
「キミ、倒れてたんだよ。覚えてる?」
「……そうだ、たしか洞窟で力尽きて」
「洞窟?」
女の子は思わず聞き返す。
「もしかしてと思ったけど、キミって旅行者かなんか?」
「旅行者?」
「うん。だって神殿知らないなんて、この辺じゃ子供でも知ってるもの」
「神殿だったのか」
「ていうか、そもそもどうやって入ったの?」
「分からない。気付いたらあそこにいて、なんとか出ようとしたけど、結局倒れちゃって」
「……もしかして、スパイじゃないわよね?」
「はぁ?」
「スパイじゃないって、証明できる?」
「まるで悪魔の証明だな……。スパイだとしたら、倒れる時に情報が漏れないよう自決してると思うけど」
「うーん、一理あるわね」
悪魔の証明じゃなかったようだ。
「まあ、スパイならそもそも裸じゃないわよね」
「は?」
「それも覚えてないの? キミ素っ裸だったのよ?」
「はぁ!? えっ、えー!?」
「なにいまさら。大丈夫よ、別に見慣れてるし」
「えっ……」
「勘違いしないようにね」
秀臣の眉間にビシッと指を突きつける。
「私にも事情ってものがあるの。いいわね?」
「あ、お、おう」
「よし、とりあえず食事にしようか」
そこでようやく空腹なのを体が思い出して腹が文句を言い出した。
「あっはは! 正直ね。待ってて、すぐ持ってくるから」
――なんなんだ、一体?
見たとこ彼女は俺と変わらない年頃だ。部屋のセンスといい、ごく普通の女の子としか思えない。
「スパイか……」
どうやら、ここは日本ではないことは確かなようだった。
* * *
「クオリクの神殿?」
山盛りのパンやスープを頂きながら話の続きをする。なんでこんなに作ったんだ……。
食べる前にお互い自己紹介もした。彼女はサリヤ・イーケンスという名前で、なんと年下の14歳だった。確かによく見れば幼さの残る可愛らしい感じだ。
「そう。クオリクっていう神話があってね、その神話を元にして作られてるのよ」
「どういう神話なんだ?」
「簡単に言うと、女神ヘケが統治する世界を妬んで滅ぼそうとする邪神アズがいて、二人の争いを主軸に描かれたお話よ」
「へー、そんな神話があるのか。どこの世界や神話も嫉妬で滅ぼそうとするのやめろよな」
「ほんとよねー。まあ神殿って言っても特別な力があるわけじゃないんだけどね。子供の遊び場にもなってるし」
「それいいのか……?」
「もちろん怒られるわよ」
あはは! とサリヤは笑う。
笑顔がまさに太陽のように明るいと思ったのは初めてかも知れない。
「あの神殿はね、特別な力は無いんだけど、この国のシンボルなの」
「そういや、ここってどこの国なんだ?」
「そういえばカガミって記憶無いんだっけ。ここはリキミトっていう国よ」
「んー……聞いたことないな、アジアではなさそうだけど」
「アジア?」
「うん。かといってヨーロッパのほうでもなさそうだし」
「ヨーロッパ?」
「……もしかして、知らなかったり?」
「うん、全然知らない」
あー、これはアレですか。アレですね。
「一つ確認するけど、ここって地球じゃないよね?」
「チキュー? ここはアマドライトって世界よ」
――ですよね、ええ。
「また別の異世界かよぉぉぉ!!」
「きゃぁ! もういきなり大きな声出さないでよ! びっくりしたぁー」
「あ、ごめん」
「もう……ていうか、今、異世界って言った?」
「言ったけど?」
すると、いきなり手を握られたかと思うと、キラキラ輝く目で「大魔法師さんならそうと言ってくださいよー!」とキャラが一変した。
「いや、え? なに?」
「もう恥ずかしいなぁ〜!」
「だから魔法師ってなん――」
「あっ! こうしちゃいられないわ! みんなに報せなくちゃ!」
サリヤは一方的に勘違いすると、嵐のように去っていった。
「なーんか嫌な予感するな……」
*続く*
お久しぶりの更新です。変わらず不定期ですが、赤髪のルーディックと同時並行に更新していきます。
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