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セイクリッド・アークス  作者: そらり@月宮悠人
抗う者達
22/30

遅いです

 アギリはまっすぐに疾走すると、ディメルの顔へ剣先を突きだす。


「おやおや、なんとも勇ましい」


 が、剣先は届かず、ディメルの鼻先で止まってしまった。


「あなたの剣は私に届くことはないんですよ」


 アギリは大きく一歩下がろうとしたが、ディメルの魔法に捕まってしまう。


「くっ!」


 動きを封じられたアギリは見えない力で後ろの校舎へと叩きつけられる。


「アギリー!」


 助けたくても、動きたくても、なにもできない無力な自分が恨めしかった。こういう時に限ってあの不思議な力は眠ったままだ。


「おい! なんとかできねぇのかよ!」

「ん? あと2分ぐらいで連絡できるよ」

「そんな悠長に言ってる場合か!」

「まあまあ、君はアギリを知らないだけだよ。心配することはない」

「はあ?」

「あなたは動かないでください」

「――なっ!」


 いつの間にか横に立ってるアギリに驚く。校舎には確かに叩きつけられた跡があった。


――いつの間に……。


 アギリはダメージなどまるで感じさせず、風のようにディメルへ向かうと、目にも止まらない疾さで駆け回る。


「ほう、今度は魔法を当てられないよう翻弄しながら牽制ですか。また無駄なことですね」


 ロッドが輝くと、周囲に冷気が漂う。


「これは耐えられるかな?」


 次第に地面が凍り、アギリの動きも鈍くなる。


「ハァハァハァ……」


 刀を持つ手が震える。ディメルの周りだけが異常に寒くなっているようだ。


凍結領域コールド・フィールド。範囲を限定すれば絶対零度の環境も作れますよ。なんなら、この学校の敷地まとめて永久凍土にしてさしあげましょうか?」

「くっ……」


 アギリは刀を鞘に収める。


「ふむ。未知の敵に相対し、急激な環境変化にも冷静さを失わない。なかなかの逸材じゃありませんか。そちら側にいるなんてもったいない。どうです? 貴女も陛下にお仕えしては?」

「ふ、ふざける……な」


 凍えながらもなお、アギリはその場を守り一歩も引かない。


「そうですか、惜しいですねぇ、あなたほどの戦士なら陛下もお喜びになったでしょうに」


 ディメルがアギリにロッドを向ける。


「おいこら! アギリ! もういい戻れ!」


 たまらず叫ぶが、もう遅かった。アギリは動くことすらできない状態らしい。


「やれやれ、やはり一筋縄ではいかない相手ですね」


 グラサンは銃を取り出すと、アギリに(・・・・)向けて撃った。


「なっ!」


――こいつ、仲間を!?


 だが様子がおかしい。着弾するとなぜかアギリの体がぼうっと赤く光り、アギリは何事もなかったように立ち上がる。


「大丈夫ー? うおっ!?」


 グラサンが呑気に手を振ると、さっき秀臣に投げられたのと同じ刃物が投げられ、間一髪グラサンは銃で防ぐ。


「ちょっとー!? アギリさん今の本気だったよね!?」

「遅いです」


――一体どうなってるんだ?


「行きます」


 アギリは、周りが凍っていることもお構いなしに再び動き回る。


「不思議そうな顔だね」


 ぽかーんとしていると、グラサンは得意げなドヤ顔をする。


「殴るぞ」

「まあまあ、彼女に撃ったのは魔力を消すルバーと、身体能力強化のブーストという特殊弾だよ。ルバーで相手の魔法を消して、ブーストで攻める。彼女のサポート専用に開発されたものさ」

「そんなものがあるなら――」

「なんで最初から使わないって? そんな便利なものじゃないさ、なんせ最大持続時間が3分だからね」

みじかっ! ……奥の手ってやつか」

「そういうこと」


 確かにアギリの動きはさっきまでと比べ物にならなかった。ディメルの弾丸は全く当たらず、それどころか刃が届いた。


「なにっ?」


 ディメルも驚きを隠せないようで、初めて動いた。


「やりますねぇ、対策をしていたというわけですか」


 ディメルがバリアのようなものを展開しても、アギリはガラスを砕くようにあっさり突破する。アギリ自身に魔法がかけられず、小さな攻撃は通用しないため、防御に回った。


「仕方ありませんね、多少の被害は止む無しといきますか!」


 地面に大きな魔法陣らしきものが浮かび上がる。


「アギリさん防御!」


 グラサンが叫ぶと、アギリは瞬時に下がる。


紅き女神の嫉妬クレオイオ・ル・ルージェ


 ゴロゴロと雷鳴のような音がして空を見ると、赤い雲が頭上を覆っていた。


「なんだありゃ……」

「火神君伏せて!」


 グラサンに言われるまま伏せると、ポツポツと雨が降り始めた。


「雨?」


 よく見ると雨は赤く、地面から煙が出ている。


「あらゆるものを溶かす高等魔法の一つだ。絶対にバリアから動くな」


 いつの間にか、半透明のドームが三人を包んでいた。雨は傘を伝う雨粒のように流れ、ドームの中は守られていた。


「頑張りますねぇ……では、これならどうです?」


 ズガンッ!

 耳をつんざくような音が響いた。


「なんだ!?」


 音がした方を見ると、地面に穴が空いていた。


「惜しいですねぇー、結構コントロールが難しいんですよこれ」


 ピカッと光ると同時にまたズガンッ! と地面に穴が空く。衝撃が凄まじい。これは――。


「雷か!」

「これはまずいねー、こんなのじゃ防げないよ」

「呑気に言ってる場合か! 早くなんとかしないと!」

「うるさいですね、蹴飛ばしますよ」


 アギリは本気だから怖い……。


「お、連絡が取れた! 帰るぞ!」

「どうやって?」

「まあ見てな、動かないでね」


 足元に魔法陣が浮かぶ。


「転送? 逃しませんよ!」

「まったねー」


 グラサンは笑顔で手をふる。雷撃が落ちるとほぼ同時に、三人の姿が消えた。


「……やれやれ、逃げ足は速いですねぇ。まあ、楽しみは取っておきますか」 


 ディメルの姿が空気に溶けるように消え、赤い雲は晴れて元の天気へと戻った。


     *     *     *


――地上本部 転送室


「ふぅ、なんとか逃げきれたねー」


 グラサンを外して、汗を拭う。

――あと一瞬遅れていたらどうなっていたことか……。


「これからどうしますか?」

「そうだなぁ、とりあえず秀臣君は保護できたし、あとは上の判断を仰ごうかね」


 二人が報告に向かおうとすると、出迎えのスタッフが不思議そうに「あの、ターゲットは一緒ではないんですか?」と聞く。


「ターゲット? 秀臣君ならそこに……」


 いるはずの彼の姿はどこにもなかった。


「……どこに?」


 隣から冷気にも似た殺気が漂う。


「あれー……?」

「……」


 アギリが無言で斬りかかるのを銃で必死にガードする。


「ちょっと! 危ないってー!」

「なにしてるんですか? また始末書増やしたいんですか?」

「ちゃんと探すから! 物騒なものは仕舞って! ていうかここ戦闘禁止だから〜!!」



*続く*

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