初めての力 -Start up
陛下って、あの変な男の……ってことは、やっぱり夢じゃない!?
「なにをしているのですか?」
気配もなく、その女は現れた。黒縁のインテリメガネを掛けてスーツをビシッと着るキャリアウーマンといった感じだ。
「なにって、陛下をお迎えに」
「この少年のどこが陛下ですって?」
女に言われてディメルは俺をジロジロと見る。はぁー、と大きなため息をついて俺の首をつかみ持ち上げる。
「ぐぅ……!」
ジワジワと力が加わり、首が締めつけられる。
マズイ……!
「すまんね、私はド近眼なもので。どうやら間違えたようだ。ミレー、こいつも殺していいのかな?」
「それはどうでしょう。陛下ではありませんが、我々を見ることができるということは、ある程度の力があるのか、もしくは軸がズレている異端者でしょうか。いずれにせよ貴重なサンプルです。生け捕りにして本部へ転送しましょう」
サンプル? 実験体にされるってことか!?
「しょうがないね」
パッと手を離され、廊下の硬いコンクリに強く尻を打った。
「ってぇー!」
「やかましいね。騒いだり暴れたりしたら殺すから」
おいおいおい冗談じゃない! 誰か助けてくれ!
大声で叫びたいところだけど、絶対殺されるから、心で叫ぶしかなかった。
「それじゃミレー、あとは頼んだよ。私は引き続き任務を遂行する」
「分かりました。くれぐれもやり過ぎはよしてくださいね。後処理が大変ですので」
返事の代わりに手をヒラヒラさせてディメルは屋上へと向かう。
どうしよう、このままじゃ……。
なにもできない非力さに無性に腹が立つ。あの夢のような世界でアリエスは、少女はどうなった? なんで俺だけ自分の世界に帰って来れたんだよ。
「さて、行きましょう」
脱力している俺の服を掴んでズルズルと引きずるミレーとかいう女は、ぐったりしている俺の友人を放置したまま帰ろうとしていた。さっきの転送とやらをするのだろうか。
「おい、俺の友人は……」
声が震えているのが分かる。下手なことを言えば殺される。そんな恐怖が言葉も声も感情も臆病にさせる。
「ああ、あれは死んでいるでしょう。障壁も防具も無しにディメルの魔法を受けたのです。無事ではないはずですよ。所詮は脆い肉体なんですから」
当然のように言い切る。まるでこんな状況は慣れっこだと言うように。
「ふざけるなよ……まだ助かるかも知れないだろ!」
言い切ったところで喉元に教鞭のような金属の細い棒を突きつけられる。
「あのような状態の人間を何度も見てきました。その私が断言しましょう。あれは死んでいます」
嘘だろ……? あんな一瞬で、あれだけで、人が、死ぬ……?
「……あの変な奴は、なにをするんだ?」
「知らなくていいことです」
「また、人が死ぬのか……?」
「そうかも知れませんね」
俺には、なにもできないのかよ……!!
力が欲しい。友人を助けて、こいつらをぶっ飛ばす力が!!
アリエスと少女を守る力が!!
――あなたならできます。カガミ。
聞こえた! 今度こそ!
――覚えていますか? あの時、わたしに出会ったことを。
あの時? 君は誰?
――わたしからは言えない。そう、まだ思い出せないのですね。でも、あなたはわたしを望んだ。あなたは、わたしを必要としてくれた。
望んだ……そうだ、力が欲しい!
――そう。でもそれは、本来あなたが持っているもの。わたしは使えるように手伝うだけ。
……胸が熱い?
――見せて、あなたの力を。
「おい」
俺を引きずるミレーの腕を掴む。
「……なんのつもりですか?」
教鞭らしきものを持ち、明らかにこちらを威圧する。
「悪いけど、俺は行かない」
「そうですか……仕方ありませんね!」
教鞭が振るわれる。でも不思議と全く怖くない。俺には通用しない。教鞭らしきものは俺の顔を叩くと砕けて散った。
「なッ!?」
驚くミレーに、俺は思いっきりの右ストレートを放つ。
「吹っ飛べ! どこまでも!!」
ミレーは学校の窓も壁も関係なく、文字通りどこまでも吹っ飛んだ。




