戦いの始まり -Retun to war
「アリエス!!」
叫びながら立ち上がる。そこには見慣れた景色が広がっていた。
「どうした? 火神」
教壇に立つ教師、整然と並べられた机に向かう生徒、ここはまさに教室だった。いや待て、さっきまでアリエスが目の前に血まみれで倒れていて、あの少女も……それに訳の分からないことを言う、デカイ椅子に座って俺たちを見下ろす男はどこに?
「寝ぼけてるのか?」
寝ぼけてる? 夢……? さっきまで感じていた感覚、感触、感情。それら全てが夢だったっていうのか? 地下鉄の出来事からあっという間だったが、確かに俺はあの二人と……。
「あの」
俺が言葉を発すると、まるで異質なモノを見るかのような視線を受ける。いや、それはさすがに被害妄想甚だしいか。それでも、教師とクラスメイトが注目している。俺はそんなに深刻な顔をしているだろうか。
「ここは教室でしょうか?」
自分でもなにを言っているのか分からなかった。けど、教室は笑いを堪え切れないというように、少しずつ笑いが大きくなり、俺の緊張も一気に解けた。
「馬鹿なこと言ってないで、ちゃんと授業に集中しろ」
はぁ、と呆れるように教師は再び黒板に向かう。
なんだ、夢だったのか。……夢、だったのか? 今もこの手に残る、最後に抗った感触、感覚。脚に残るアリエスの手の感触。全てが、夢?
* * *
「明晰夢?」
友人と屋上で昼食を食べている時、夢の話をしたら、明晰夢なるものを聞いた。
「ああ、その夢の中では自由に動くことができて、なんでも思い通りになるってさ」
確かに、自由に動けた。だが、俺は剣と魔法の世界なんてファンタジー考えたこともない。
「潜在的にそういったファンタジー世界に憧れてる部分でもあるんじゃね?」
「そう、なのかな?」
「分かんねえよ。でも、明晰夢だとしたら、そういう部分があったから、剣と魔法の世界に入ったんじゃないか?」
そうなのかも知れない。別に剣と魔法のファンタジーが嫌いだというわけではない。RPGゲームだって好きだし。ただそういう妄想や想像をしたことがないだけで。
「今度スクエルから新作RPGも出るっていうし、そういうのも影響してるかもよ」
友人はサンドイッチを一定の速度で食べつつ、そう話す。
「俺だって考えたことないけどさ、実際、明晰夢を経験すれば、なにが起こるか分からないし、なにを考えるか分からない。せっかくだからファンタジー! とかさ、どうせならムフフなハーレム! てのも男のロマンじゃん!」
「ハーレムって……」
ははは、と苦笑いで返すと、「このムッツリが」と肘で小突かれた。
「ところでさ」
サンドイッチを全て平らげ、仕上げにパックの牛乳を一気飲みしてから真剣な顔で友人は切り出す。
「な、なんだ?」
「俺にも明晰夢を見る方法、教えてくれ!」
いや、そんなキリッとした顔で言われても……。
「俺だって分からないよ。それに、明晰夢だったって確証もないし」
「なら、それが明晰夢だろうとなんだろうと、その世界に行ける方法が分かったら教えろ!」
「なにする気だよ……」
「決まってるだろうが! ハーレム王国を建設するんだよ!」
屋上のフェンスの土台に足を乗せると、ガッツポーズをする。カッコイイ格好を決めて言うことかそれ。
「分かったよ」
なにもかもが消化不良で気持ちが悪い。明晰夢にしても説明のつかない部分だって多い。……いったいどうしたっていうんだ、俺は。
――カガミ
「!?」
空耳か? 今、確かに聞こえたような。
「どうした?」
友人が不思議そうな顔で俺を見る。
「今――」
言おうとして、留まった。『今、声が聞こえなかった?』なんて聞けるわけがない。聞こえてたら友人にも反応があるはずだし、それに声は確かに『カガミ』と言った。自意識過剰でなければ、俺を呼んだ。誰がどこから?
周囲を見渡すが、ここは屋上、誰かいたら分かる。なら外か? いや、ここまで届くなら友人にも当然聞こえるはずだ。それに、どちらかと言うと囁くような声だった。か細い女性のような。
「おい、大丈夫か?」
「……ああ、大丈夫だ」
現実としか思えない夢の記憶。幻聴にも似た声。分からないことだらけだ……。
ない頭をフル回転させていると、唐突にズンッ! と低く大きな音がして学校が揺れた。
「地震か!?」
二人で身構えていると、なにやら下が騒がしい。慌てて下に行くと、廊下が燃えていた。
「なんだこりゃ!?」
どうやったらこんな……爆弾か? そうだとすると、まさかテロ?
ただでさえ混乱している頭にまた謎が降りかかり、俺の頭はパンク寸前だった。そして、ただでさえパンク寸前の状態でそいつは現れた。
「おやおや、随分と脆いものですねぇ、建物も、人間も」
炎の中から出たきたのは、黒いローブを身にまとい、奇妙な化粧をした青白い顔の男だった。
「おや?」
男は俺をジロジロと見ると、舌なめずりをする。気持ち悪い……。
「君は私が見えるのですね?」
「は?」
――なにを言ってるんだ?
訳が分からず呆けていると、友人が消火器を持ってきた。
「訓練でやっただけだけど……おらっ!」
白い泡が勢い良く炎へと飛んでゆく。当然、青白い男にもそれがかかる。
「おい、さすがに人に消化液かけるのはどうかと思うが」
「人? どこに?」
その言葉にハッとした瞬間だった。
「下等種族が……!」
友人の体が宙に浮き、後ろの壁に叩きつけられた。
「がっ!」
そのまま力なく床に倒れる。
「おい!」
駆け寄って頬を叩くが反応が無い。気を失ってるだけだよな?
「なにをしているのですか? そのような下等種族に同情のおつもりで?」
青白い男の言い方が、いちいち癇に障る。
「なんだよ……なんなんだよお前は!」
精一杯の睨みも、やはり通用しないようで、青白い男は「ホッホッホ!」と嗤う。
「申し遅れました。私、本部よりお迎えに参りましたディメルと申します。陛下」




