共闘 -Trusted
「はぁッ!」
カウンター気味の斬撃がモロに入る。秀臣は苦痛の表情を浮かべることもなくガード姿勢でアリエスを見る。
「全く、化け物だな。体力が切れることはなく、痛みも感じることはないか」
ちらりと、倒れている少女を見る。
あいつのことだ、おそらく策を練っているのだろう。
この短期間で、随分と少女を理解できたと感じるのは、共闘によるものだろうか。アリエスにはその経験があった。
あいつが突破口を見出すまでは、カガミもどきをいなすしかないか。
と、その意図に気付いたかのように、秀臣はくるりと踵を返し、少女のほうへ歩み寄る。
「ちッ!」
背後から切りかかるが、まるで後ろに目があるかのように歩きながら避ける。次に足を狙うが、それも軽い跳躍で避けられた。
「本当に化け物だな」
仕方ない。と剣の切っ先を秀臣に向ける。
「エルセーレ・オ・ルージェ!」
秀臣の周りに透明な無数の刃が浮かび、高速で秀臣へと飛んでいく。多角射撃のような突きに秀臣も膝をつく。
「さすがの貴様も耐えられまい……くっ!」
切り札の一つであるこの技は、魔法による剣の連撃。アリエスの魔力では日に一度が限度である。だがアリエスの必死さを物ともせず、秀臣はなおも再び立ち上がり、今度は弱ったアリエスへと振り向き、止めを刺そうとナイフを構える。
「フッ、残念ながら終わりのようだな」
ナイフを振り下ろそうとしていた秀臣の体が、ゆっくりと力なく崩れ落ちる。
「遅いぞ」
崩れ落ちた秀臣の背後には、複数の魔法陣に囲まれた少女の姿があった。
「あら、お楽しみを邪魔してはいけないかと思って」
「あの技で駄目なら、もうお前を援護できなかったぞ」
「よく信じてくれましたね」
「お前のそれを見れば分かる。まあ、見なくても分かっていたがな」
少女の足元には膨大な計算式と血の跡があった。指で荒れた大地に式を書いていたのだろう。服を破って包帯代わりに指に巻いていた。
「どうして分かっていたんですか?」
少女は包帯をしていない方の手をアリエスに差し出す。
「グランをどうやって倒したのか。アレは力でどうにかできる奴じゃない。だとしたら、魔法に長けていると考えるのが妥当だろう」
アリエスは少女の手を取って立ち上がる。
「この少年もどきは明らかに魔法の類が絡んでいた。傀儡であるにしろ幻視にしろな。そして尽きることのない体力に痛みを感じない体。としたら、こいつを倒せるのは私ではない」
少女を見るアリエスの瞳には、信頼の光があった。
「行くぞ」
歩き出すアリエスに、少女は思わず「少し休んだほうが」と声をかける。
「お前はサポートとしても優秀だ。だから私は遠慮なく行ける」
構わず進むアリエスを「無茶言わないでよー」と呆れつつも笑顔で少女は追いかける。
* * *
「ほう……」
苦戦していると思いきや、アリエスという女剣士は時間稼ぎをしていたわけか。
映像を消して椅子へと戻る。
「あの女は?」
「分かりません。監視の話によれば、あの少年と一緒にこちらの世界に来たという話です」
ギズの話が本当であれば、あの女は……。
「フッ、ついに現れたか」
「なにか?」
ギズは小さく呟いた陛下に聞き返すも、陛下は「なんでもない」と答えた。
「博士、例の計画を実行に移す」
「アレを? まだ時期尚早では?」
「いいや、機は熟したよ」
杖の宝石がキラリと輝くと、床に複雑な魔法陣が光り現れる。
「陛下……これは?」
「君に見せるのは初めてかな」
建物が大きく揺れ、崩壊する――と思うと、周りがグニャグニャと歪んで景色が変わる。廃墟と思われた場所が壮麗な部屋へと変化した。
「ようこそ、神殺しの宮殿へ」
* * *
――ここは……?
薄ら目を開けると、眩しい光と赤い色が視界に広がる。
「アリエス……?」
目の前に血塗れで倒れているのは、アリエスと少女だった。
「目が覚めたかね」
秀臣の後ろから声が聞こえた。寝ている身体を起こして振り向くと、玉座のような椅子に座る男がいた。
「愚かだと思わんかね? 絶対王である私に刃向かおうなど……自殺と同義だというのに。いや、私に殺されるのだから、意味ある死か」
――この男はなにを言っているんだ?
「ああ、状況を把握しかねている顔だね。いいだろう、私が説明してやる。なに、至極単純な話だよ。君は巻き込まれたのだ。そして無謀にも、私に刃向かい、返り討ちにあったというわけだ」
話を聞いている秀臣の足を、アリエスの手が掴む。
「に……げ……」
「アリエス!?」
「ほう、まだ生きていたのか。その生命力には感心する。だが……」
男の持つ杖に付いている大きな赤い宝石が光ったと思うと、アリエスが苦しみだした。
「うぁぁッ!!」
見えない圧力にアリエスが押し潰されている。
「アリエス!」
「ハハハッ! いい声で鳴くじゃないか」
「てめぇ……ッ!」
立ち上がろうとするが、力が入らない。
「やめておけ。立ち上がれたとして、お前になにができる? それこそ蛮勇というものだ」
俺は、誰も守れないのか? 助けられてばかりで、俺は……!
――助けたい?
誰だ……?
頭の中に、直接声が響く。この声どこかで……。
――助けたくないの?
助けたい……けど、俺はなにもできない……。
――そう思ってるだけ。私は知ってる、あなたのことを。あなたも知っている、私のことを。
――さあ、あなたにしか果たせない使命を。
眩い光と共に、意識が途絶えた。




