陛下という男 -Still don't know
「はあッ!」
華麗な剣さばきで瞬く間に五人を倒すと、真後ろの気配に切っ先を突きつける。
「……フッ、その腕、やはりただ者ではないな」
少女の剣と交差して、アリエスの剣先が少女の鼻に突きつけられる。
「……自己紹介が必要でしょうか」
「いや、その必要は――ないッ!」
少女の後ろへ剣を振るう。
「がッ、はッ……!」
背後から忍び寄る男がアリエスの剣に倒れる。
「おそらくお前も別世界の出身だろう。それほどの腕前だ、敵になったら厄介だからな」
別の世界の人間が敵になる可能性、この少女も例外ではない。その可能性がある限り、互いを知ることは情に繋がり、それは有事に剣を鈍らせる。そのことをアリエスは誰より解っていた。
「そうならないよう、願っています」
今度は少女が躊躇いなくアリエスの背後にいる男を斬り伏せる。
「走れますか?」
「無論だ」
二人が再び走りだすと、どこに隠れていたのか、仲間と思しき男たちがひっきりなしに襲ってくる。それらを倒しながら、二人はペースを落とすことなく突き進む。
「伏兵でしょうか、さっきまでこんなに人がいた気配はありませんでしたが」
「伏兵にしては様子が違う。わらわらと湧いて出て来るかのようだ」
「誰がこんなことを……」
一瞬、シュミットとギズが脳裏をよぎる。
「いや、違うな……」
「え?」
「なんでもない。今は少年を救出することを考えろ」
「はい!」
* * *
「おやおや、まっすぐこちらに向かっていますね」
顔が隠れるほど深くフードを被った怪しげな男が、細い台座に浮かぶ水晶を見ながら報告する。
アリエスたちがいる場所よりずっと離れた所にある廃墟の一室。瓦礫が転がり天井には穴が空いている。そんな廃墟に似つかわしくない調度品や、臙脂色の絨毯などが置かれた一角があった。部分的に手入れが行き届いているその一角に、そのフードコートを着た男はいた。
「ほう、ここが分かるのか。よほど勘の良い奴らなのか……」
コートの男の背後に、少々仰々しい、まるで王様が座るかのような椅子に座る男がいた。短い黒髪を無造作にオールバックで固めており、ギラリと光る瞳は燃えるような紅。男はほんの少し眉をひそめ、目の前に横たわる少年、火神秀臣を見る。
「それとも、愛の力なのかな?」
言って、男は自嘲気味に嗤う。
「尾行られたな、ギズ」
王座の背後に控えていたギズが一歩前に出る。
「恐れ乍ら陛下、あれほどの長距離空間移動です。追尾系魔法の気配もありませんでした。それにここは魔導暗室。位置を特定するにも時間がかかるかと」
王座に座る男を、ギズは陛下と呼んだ。
「つまり、そのうちここがバレると、そういうことかな?」
陛下という男の言葉は、ギズに重くのしかかった。
「……申し訳ありません」
「ふむ。まあ良い」
男はゆっくりと立ち上がる。虚空に手を伸ばすとそこに杖が現れた。艶やかな真紅のシャフトにグリップには大きな宝石が光る。
「少し試してやろう」
グリップの宝石を正面に向けると、空間に円形の映像が現れる。そこには走るアリエスと少女の姿があった。
「さあ、ショーの始まりだ」




