拐われるカガミ
雷撃が容赦なくアリエスを襲う。
「くッ!」
防御しながら回避するばかりの防戦を強いられる。
「アリエス……」
目の前で繰り広げられる激戦を見て、秀臣は足が竦む。
なんで俺はこんな世界に巻き込まれたんだ? 一歩間違えれば命が危ないのに……。
地下鉄での一件は戦いとしては認識が薄かった。イベントかなにかのように――今でも思える。それは多分、少女が守ってくれていたおかげなのだろう。
だが、今この場には守ってくれる人がいない。アリエスは戦ってくれているが、秀臣を守るためではなく戦場を生き抜くために戦っている。
「ハァッ!」
アリエスの剣撃が飛ぶ。一撃必殺を狙うかのような大振りはあっさりと躱され、雷の矢で囲まれる。
「アリエス、お前ってこんな無策な奴だったか? 弱くなったな」
シュミットが手を振ると、雷の矢が容赦なくアリエスに襲いかかる。土煙で見えなくなるほどの攻撃に、秀臣は絶望した。
アリエス……そんな!
「ギズ、行こうぜ。ターゲットはそこのガキと女だけだ」
「シュミット、お前は詰めが甘い」
アリエスに背を向けて歩こうとしたシュミットに、ギズが冷静に指摘する。
振り向くと、そこにはかすり傷ひとつ負っていないアリエスが立っていた。
「なに……!?」
「シュミット、この程度で私を倒せると思っていたか」
アリエスの姿が消える。
「クソッ! どこだ!」
「この程度も追えないのか、未熟者め」
背後を取ったアリエスはシュミットの首に手刀を当てた。
「がっ……」
呻き声を上げてシュミットは倒れた。
「さて、あとは貴様だけ―――」
「動くな」
ギズは秀臣を人質に取っていた。
「アリエス…!」
「カガミ…! ……ギズとやら、どうやら貴様はプロらしいな。目的のためならば手段は厭わない」
「当然だ。お前も甘いな、アリエスとやら。少年を一人守ることすらできないか」
安い挑発だが、アリエスの判断を一瞬鈍らせるのには十分だった。そのため、一歩踏み込む速さよりも、ギズが空間移動するほうが早かった。
「カガミ!」
アリエスの手は、虚しく空を掴んだ。
一歩、届かなかった。
「くッ……!」
「どうしたんですか?」
後ろから声をかけたのは、あの少女だった。
「……グランは?」
「大丈夫です。二人は気づかないで行ってしまいましたから」
冴島とフィギーに逃げると見せかけてずっと隠れていた少女は、そのまま二人が去るのを待ち、アリエスのもとへと合流した。空間移動魔法はあるが、グランを連れてとなるとやや厳しい。そのため、姿を消す魔法で隠れていたのである。
しかし冴島という男は侮れない。危うく隠れているだけということがバレそうになった。
「ところで、あの人はどこに?」
少女は秀臣の姿がないのに気づく。
「奴に連れ去られた」
悔しさに拳を固くするアリエスに、少女はかける言葉を見つけられなかった。と、男のうめき声が聞こえ、そっちを振り向く。
「この人は?」
「ああ、シュミットと言う。腐れ縁というやつだな」
アリエスはシュミットの胸ぐらをつかむと、足が浮く高さまで持ち上げた。
「さあ、吐いてもらうぞ」
「……なにをだよ」
「決まっている。カガミをどこに連れていった?」
「知らねえよ」
アリエスはじっとシュミットの眼を見る。5秒ほど見てからパッと手を離す。
「痛って!」
もろに尻を地面に打ったシュミットは痛みに悶える。
「やはり知らないか。……魔導屋!」
呼ぶと、隅っこから「ヒッヒ」とあの不気味な笑い声が聞こえてくる。
「お呼びで?」
「追跡はできているか?」
「もちろんです。ヒッヒ」
やり取りについていけない少女は「なんの話ですか?」とアリエスに訊く。
「崩落したあの場所で魔導屋に言っておいたんだ。『もし追手が来たら必ず少年か女を連れて空間移動するはずだから、お前の魔導具で追跡をしてくれ』とな」
「ヒッヒ、ちと高いですよぉ?」
「構わん。金なら出す」
「え? てことは、あの人が連れていかれるって分かってたんですか?」
「ああ。追手の気配もあったしな。こいつだとは思わなかったが」
呆れたようにシュミットを見る。
「……おや? 案外近いですね」
手のひらサイズのガラスのような玉を見て魔導屋が言う。
「どこだ?」
「ここから十キロほど西へ行った所ですよ。追跡には気付いてないようですが……どうするんで?」
ニヤニヤしながらアリエスを見る。
「決まっている。奴らを叩く」
「ヒッヒ、おっかねぇ」
「魔導屋、後払いでよければもう少し付き合ってもらえるか?」
「それはいいんですがね、お高くなりますよぉ?」
「構わん、行くぞ。お前はどうする?」
アリエスは少女に確認するように問う。
「行きます!」
「うむ、良い返事だ。追跡には気付かれていないらしいが、念のため走って向かう」
「走るんですか? あたしは苦手なんですがねぇ……」
「どうせ空間移動の魔導具も持っているんだろう? 私が運んでやろう」
「おや、親切ですねぇ。いいんで?」
アリエスは空間移動の魔導具を持つと、少女と敵アジトへと向かう。
「ここは荒廃した場所ですね」
少女は走りながら周りを見て呟く。
「ああ、ここは昔内戦があってな。今では人っ子一人いない。アジトや隠れ家としては最適だな」
そこかしこに見える人のいた跡。なるほど、無法地帯というわけだ。
半分も走らないところでアリエスが止まる。
「どうしたんですか?」
前方にいる十数人の男たち。ホームレス……というわけではないだろうが、綺麗な身なりとは言えない連中が行く手を阻む。
「そこお二人さん、なにを急いでいるんだい? ヘッヘッヘ」
下卑た考えが丸見えな男たちは、アリエスと少女を囲む。
「お前、半分やれるか?」
アリエスが小声で少女に訊く。
「いいですよ」
少女は剣を抜き、背後からの攻撃をいなして一人を倒す。
「あなたとなら、遠慮なく戦えます!」




