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セイクリッド・アークス  作者: そらり@月宮悠人
Prologue
14/30

拐われるカガミ

 雷撃が容赦なくアリエスを襲う。


「くッ!」


 防御しながら回避するばかりの防戦を強いられる。


「アリエス……」


 目の前で繰り広げられる激戦を見て、秀臣は足が竦む。


 なんで俺はこんな世界に巻き込まれたんだ? 一歩間違えれば命が危ないのに……。


 地下鉄での一件は戦いとしては認識が薄かった。イベントかなにかのように――今でも思える。それは多分、少女が守ってくれていたおかげなのだろう。


 だが、今この場には守ってくれる人がいない。アリエスは戦ってくれているが、秀臣を守るためではなく戦場を生き抜くために戦っている。


「ハァッ!」


 アリエスの剣撃が飛ぶ。一撃必殺を狙うかのような大振りはあっさりと躱され、雷の矢で囲まれる。


「アリエス、お前ってこんな無策な奴だったか? 弱くなったな」


 シュミットが手を振ると、雷の矢が容赦なくアリエスに襲いかかる。土煙で見えなくなるほどの攻撃に、秀臣は絶望した。


 アリエス……そんな!


「ギズ、行こうぜ。ターゲットはそこのガキと女だけだ」

「シュミット、お前は詰めが甘い」


 アリエスに背を向けて歩こうとしたシュミットに、ギズが冷静に指摘する。


 振り向くと、そこにはかすり傷ひとつ負っていないアリエスが立っていた。


「なに……!?」

「シュミット、この程度で私を倒せると思っていたか」


 アリエスの姿が消える。


「クソッ! どこだ!」

「この程度も追えないのか、未熟者め」


 背後を取ったアリエスはシュミットの首に手刀を当てた。


「がっ……」


 呻き声を上げてシュミットは倒れた。


「さて、あとは貴様だけ―――」

「動くな」


 ギズは秀臣を人質に取っていた。


「アリエス…!」

「カガミ…! ……ギズとやら、どうやら貴様はプロらしいな。目的のためならば手段は厭わない」

「当然だ。お前も甘いな、アリエスとやら。少年を一人守ることすらできないか」


 安い挑発だが、アリエスの判断を一瞬鈍らせるのには十分だった。そのため、一歩踏み込む速さよりも、ギズが空間移動するほうが早かった。


「カガミ!」


 アリエスの手は、虚しく空を掴んだ。

 一歩、届かなかった。


「くッ……!」

「どうしたんですか?」


 後ろから声をかけたのは、あの少女だった。


「……グランは?」

「大丈夫です。二人は気づかないで行ってしまいましたから」


 冴島とフィギーに逃げると見せかけてずっと隠れていた少女は、そのまま二人が去るのを待ち、アリエスのもとへと合流した。空間移動魔法はあるが、グランを連れてとなるとやや厳しい。そのため、姿を消す魔法で隠れていたのである。

 しかし冴島という男は侮れない。危うく隠れているだけということがバレそうになった。


「ところで、あの人はどこに?」


 少女は秀臣の姿がないのに気づく。


「奴に連れ去られた」


 悔しさに拳を固くするアリエスに、少女はかける言葉を見つけられなかった。と、男のうめき声が聞こえ、そっちを振り向く。


「この人は?」

「ああ、シュミットと言う。腐れ縁というやつだな」


 アリエスはシュミットの胸ぐらをつかむと、足が浮く高さまで持ち上げた。


「さあ、吐いてもらうぞ」

「……なにをだよ」

「決まっている。カガミをどこに連れていった?」

「知らねえよ」


 アリエスはじっとシュミットの眼を見る。5秒ほど見てからパッと手を離す。


「痛って!」


 もろに尻を地面に打ったシュミットは痛みに悶える。


「やはり知らないか。……魔導屋!」


 呼ぶと、隅っこから「ヒッヒ」とあの不気味な笑い声が聞こえてくる。


「お呼びで?」

「追跡はできているか?」

「もちろんです。ヒッヒ」


 やり取りについていけない少女は「なんの話ですか?」とアリエスに訊く。


「崩落したあの場所で魔導屋に言っておいたんだ。『もし追手が来たら必ず少年か女を連れて空間移動するはずだから、お前の魔導具で追跡をしてくれ』とな」

「ヒッヒ、ちと高いですよぉ?」

「構わん。金なら出す」

「え? てことは、あの人が連れていかれるって分かってたんですか?」

「ああ。追手の気配もあったしな。こいつだとは思わなかったが」


 呆れたようにシュミットを見る。


「……おや? 案外近いですね」


 手のひらサイズのガラスのような玉を見て魔導屋が言う。


「どこだ?」

「ここから十キロほど西へ行った所ですよ。追跡には気付いてないようですが……どうするんで?」


 ニヤニヤしながらアリエスを見る。


「決まっている。奴らを叩く」

「ヒッヒ、おっかねぇ」

「魔導屋、後払いでよければもう少し付き合ってもらえるか?」

「それはいいんですがね、お高くなりますよぉ?」

「構わん、行くぞ。お前はどうする?」


 アリエスは少女に確認するように問う。


「行きます!」

「うむ、良い返事だ。追跡には気付かれていないらしいが、念のため走って向かう」

「走るんですか? あたしは苦手なんですがねぇ……」

「どうせ空間移動の魔導具も持っているんだろう? 私が運んでやろう」

「おや、親切ですねぇ。いいんで?」


 アリエスは空間移動の魔導具を持つと、少女と敵アジトへと向かう。


「ここは荒廃した場所ですね」


 少女は走りながら周りを見て呟く。


「ああ、ここは昔内戦があってな。今では人っ子一人いない。アジトや隠れ家としては最適だな」


 そこかしこに見える人のいた跡。なるほど、無法地帯というわけだ。

 半分も走らないところでアリエスが止まる。


「どうしたんですか?」


 前方にいる十数人の男たち。ホームレス……というわけではないだろうが、綺麗な身なりとは言えない連中が行く手を阻む。


「そこお二人さん、なにを急いでいるんだい? ヘッヘッヘ」


 下卑た考えが丸見えな男たちは、アリエスと少女を囲む。


「お前、半分やれるか?」


 アリエスが小声で少女に訊く。


「いいですよ」


 少女は剣を抜き、背後からの攻撃をいなして一人を倒す。


「あなたとなら、遠慮なく戦えます!」

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