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セイクリッド・アークス  作者: そらり@月宮悠人
Prologue
13/30

挟撃

「あっぶね」


 フィギーの銃が吼えた跡はなにも残っていなかった。


「バカ野郎! 女を消してしまったら元も子もないんだぞ!」


 冴島に叱られ、フィギーは肩を竦める。


「いいじゃん、ちゃんと残ってるんだか――らぁっ!?」


 なにかがフィギーの鼻先を掠めて壁に突き刺さる。


「……なんだ?」


 手のひらに収まるほどの小さな剣が壁に突き刺さっていた。


「短剣? にしても小さいな」


 引き抜こうとしたフィギーを「止せ!」と冴島が止める。

 二人が短剣に気を取られている隙に、少女が物陰から物陰へと素早く移動する。


「ちぃッ!」


 フィギーは武器を元の状態に戻すと数発、光の弾丸を打ち込む。これも魔法によるものだが、先の光線とは違い、威力は拳銃ほどに小さい。


「オヤジ、どうする?」

「なーに、身構えることはない。奴さんはけが人だ」


 走り方や足音で冴島は相手の状態を見て取った。


「だが、追い詰め過ぎるのは良くない。窮鼠(きゅうそ)猫を噛むと言ってな、下手な刺激は逆効果になるのさ」


 冴島は黒光りするごついリボルバー拳銃を構えて様子を窺う。


「オヤジの世界の(ことわざ)だっけ?」

「ああ」


 けがをしているな……と言っても、向こうも相当場慣れしている。それは冴島の直感だった。フィギーの目を見て合図を送る。アイコンタクトによる挟撃の合図だ。


――了解、タイミングは任せる。


 フィギーは頷き、できるだけ足音を殺して位置につこうとする。そこへまた短剣が飛んでくる。だが見当違いの方向へと飛んでいった。


――気配だけじゃ当てられないか。暗器使いにしちゃなってないな。


 勝利を確信したフィギーは、そのまま位置へとつく。それを確認した冴島は呼吸を合わせ、アイコンタクトで合図を送る。


――行け!


 それを受けてフィギーは低く跳んで少女へ数発撃ち込む。だがあっさりとかわされ、少女は冴島の方へと逃げる。その死角から冴島は退路を断つように現れる。


「お嬢ちゃん、ちっとはやるようだが、けがをしてちゃあ動きが甘い。降参してくれねえか?」


 少女の後ろからはフィギーがあのアサルト形態で待機している。


「……そうね。確かに分が悪いわ」


 ゆっくりと両手を上にあげる。


「そうだ。そのままゆっくりと手を頭の後ろへ。膝を地面につけて」


 まるで刑事のような口調で冴島は少女を確保しようと動く。


「……でも、勝利宣言には早いんじゃなくて?」

「なに?」

「フォルツァ」


 少女が呟くと、さきほどの短剣から少女へ光の糸が伸びる。


「アンディクゥ」


 一瞬にして糸が縮み、少女が反対の壁へと移動する。


「しまった!」


 冴島が銃を構えるも、少女は微笑み、言う。


「さようなら、またお会いしましょ。――デルツェ」


 少女は忽然と、その姿を消した。


「ちッ! 逃げやがった」


 フィギーは足下の小さな瓦礫を蹴り飛ばし、苛立ちをぶつける。


「逃げ足だけは早いってやつだな」


 冴島は銃を脇のホルスターへとしまう。


「どうするよオヤジ、追いかける?」


 フィギーも銃を腰のホルスターへしまう。


「いや、止そう。……フィギー、なにか引っかからないか?」

「引っかかるって、なにが?」

「嬢ちゃんの行動だ」

「行動って……交渉決裂したから逃げて、俺に退路を断たれてこっちに隠れて……んで消えた。逃げただけだろ?」

「ただ逃げるだけなら、俺たちをここまで引きつける必要はない」


 なぜ彼女はここまで俺たちを引きつけた? 短剣で牽制したのは戦うためじゃない? なら逃げるため? ……いや違う。なにかを見落としているんだ。決定的ななにかを。


 元刑事である冴島の勘がそう告げていた。


「オヤジー、早くあいつらと合流しようぜー」


 考えながらそこらを歩き回る冴島にフィギーは飽きたというように提案する。


「……そうだな、あとで考えるとしよう」


 冴島は短剣が突き刺さっていた辺りを睨みながらも、一旦諦めて移動することにした。


「下はまだやってるのか?」

「さあねー? ギズのおっさんがしっかりやってくれてれば、終わってるかもね」

「坊ちゃんが暴走してなければ、か……」


 やれやれ、と冴島は頭を掻く。


「嬢ちゃんは逃げちまうし、これ以上の面倒はごめんだぜ」


 二人は入ってきた壁の穴から再び外へと下りた。

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