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私が頑張るとみんな死んじゃいますわ  作者: 孤独
ジャニー・立早のRPG編
9/57

シィエラとパンパン

魔物と戦うことに恐怖はある。彼等の攻撃に触れれば確かに痛いと感じるからだ。だけど、最初だけを耐え抜くと自然と馴染んでいく。

逆に多様な形態を持つ魔物と向かい合う事は刺激をもたらし、自信なるものを得た。

上達への一歩目は自分が楽しめるかどうか。二歩目に自分が気付かなくとも上達すること。



ウキウキできるって幸せだ。



「ちょっ、ちょっと待ってよ」



パンパンは初めて三歩目、四歩目と、……ドンドン歩けたわけだが、足元をまったく確認していなかった。初めて身につけた武器がとても馴染み、通いなれた魔物ではなくもう1ランク上の魔物と戦った途端にこれだ。まさか、群れで襲ってくることはパンパンの頭になかった。ダガーでは大勢の敵と戦うことには不向きであり、パンパン自身もタイマンでの戦闘経験ばかりを積んでいるため、対策が浮かばない。

鎧の防御力で命を守っているが、攻撃に転じられる度胸と勇気がなかった。ダガーの攻撃が外れたらどうしょう、一撃でどれだけのダメージを与えられるだろう。などの考えが浮かばないほど、状況に混乱して防御という逃げを選び続ける。



「だ、誰か助けて!」



おそらく、勇気を選んだらパンパンは死んでいた。

パンパンが選んだのは命乞いと、この場の苦しみを的確に現した短い悲鳴であった。もっとも広範囲に及ぶ技とも言えよう。

パンパンの悲鳴が呼んだのは自分よりも装備がまるでなっていない女性だった。しかし、彼女の持っている強さはパンパン達や川城とはまったく別ベクトルの怪物。

女性から放たれる白く耀いた"糸"が魔物達を瞬時に絡めとった。



「大丈夫かしら?」



それはどっちの?

第三者の視点があればそう答えがでるほどの悲鳴ともがきを露にする魔物達。

決して糸による絞殺ではない。そちらのパワーは感じ取れない。



「!だ、誰ですか!?」

「シィエラ・レイストルよ。悲鳴をあげたのはあなたでしょ?」



パンパンは蹲りながらも、自分を助けに来てくれたシィエラを見つめた。女性のことなんてまったく分からないが、素直な感想はとても美しい人物であった。露出し過ぎな危ない服着ていいの?



「すぐに済むわ」



シィエラから放たれる糸は自分の能力、"無駄名努力"を伝染させる経路を目的としている。つまりは純粋な能力のみでの攻撃だ。糸に絡められた魔物達は倒れるというより、立てなくなることが正しい。歯向かう力そのものを奪い取り、生命力を生き延びるための狩猟に捧げる魔物達の美を粉砕。

優しく花を摘むってやる殺し方ではなく、花を育ててあげるという綺麗な表情を出しながら熱々のお湯をふっかけながら殺していく拷問。

パンパンは改めてシィエラの装備を見たが、まるで一般人の装備。なのに自分とは違い、特別な力を有していることに腰が抜け、シィエラの攻撃を受けていないのにも関わらず立つ事ができなかった。




「大丈夫?」

「は、はい」

「なら立ちましょうね。腰抜けくん」




パンパンに対して、心配そうな顔と言葉を出すシィエラ。差し伸べる手にパンパンは地面で汚れた手で起こしてもらおうとしたら



「あなたの手は要らないわ」

「え?」

「お金を寄越しなさい。この手は土に塗れたあなたの手が触れていいものじゃないの」



命は助かったが、ゲームオーバーに等しい行ない。パンパンはシィエラの鋭利な棘ある言葉に複雑な表情をしながら、持ち金をしっかり全額シィエラに払った。しかし、シィエラはパンパンの全額に哀れみと呆れを感情に込めて


「これだけしかないの?」

「うっ」

「あなたの命ってこの程度の価値なのね。あなたは人間標本になった方が値がありそうよ」


助けられてはいけない人物に助けられた事を確信したパンパン。

ちなみにシィエラの言った人間標本とは死体の公開を意味しており、人間という構造を細かくかつ大切に保存されて、いずれは世界中のみんなにその姿を晒すという、死んでもその醜態を偉大にされる極刑である。シィエラの元いた世界では興行としてなっており、シィエラの殺し方は綺麗な外見のままにするため、高く死体を売っていた。



「ご、ごめんなさい!今はこの程度ですけど……また払います!いくらでも払いますから!」

「あーあ、そんなこと言っちゃうのね。なら、10人のお財布をパクッて私に渡しなさい。それで許してあげるわ」

「ええっ!?す、スリをしろと」

「いいじゃない、たかが10人のお財布を盗むだけよ。億万長者より簡単で値段は低いのよー」

「いや、でも、そんな悪い事」

「悪い事をしなさい。じゃないと、私はあなたの金額に許せないわー」



シィエラはパンパンの容姿から大まかな性格を読み取った。

この手の努力家は金額を要求するより、行動を要求した方が苦しんだ顔をする。別に無茶じゃない程度だが、良心を突く命令だ。それにお金を要求しても、持ってこれる金額には限りがあるのは分かる。



「お、お金にしてください!」

「ダーメ」

「な、なんとかお願いします!」

「そんなに嫌がるから、苦しいことをしてこそ恩返しっていうのよ」

「ううっ」



パンパンは次に逆らうと殺されるという予感がした。絶体絶命だったが、

魔物に襲われ、人に助けられ、その人に脅され、その次の展開は魔物に助けられるだった。すぐにまた変わるわけだが、



「!あら」

「うああぁっ!」



シィエラに驚いた声を出しているとも言える。しかし、震える手足と冷たい汗は現れた巨大な魔物のせいだ。可愛らしい兎が馬鹿デカイ上に二足歩行を可能とし、さらには木々や石、岩などを削って作り出す原始的な防具と武器を身につけている。

愛らしい生き物がブサイクな洋服を纏っているわけだが、魔物なりの美術だからこそ可愛らしさがある。巨体であってもシィエラは目を耀かせて純粋な心からの言葉を兎に送る。



「きゃ~~~、可愛いぃぃっ!半殺しにしたらどんな声を上げるのかしら~~!」



岩などを削るということは兎の持つ歯と爪が鋭利であることを示し、たった一匹では完成することができないとも言える。



「トリート・ラビットだ!このエリアのボスだよ!ヤバイよ、ヤバイ!見つかった!獰猛で……」


パンパンが混乱した声を出しまくっていたが、それが掻き消えるほどの奇声を兎は上げた。混乱から意識が飛びそうな声にパンパンは耳を防ぐことに専念。一方でシィエラは相変わらず兎に恋をしている表情を見せる。


「も~ぅ。そんなに大きくて可愛い声出さないでいいのよ」


シィエラが兎と戦おうとした時、パンパンが意識を回復させてシィエラに助言する。しかし、それ以外何もできる気がしない。



「き、気をつけてシィエラさん!今の叫びはきっと仲間を呼んでいる!」

「!あら、そうなの」

「群れで生息するから相当な」



全てを言い終わるまでに2人は兎の群れに囲まれており、なおかつその囲いはさらに増えそうな気配であった。パンパンが言葉を止めて泣き出そうと表情を崩した。

一方、シィエラは群れになったことを見て先ほどの笑顔が消えた。



「こんなに兎が揃ったら可愛さに序列がないわ」



値段が同じ洋服が沢山並んだコーナーを見るように、冷ややかな目を向けるシィエラ。


「ギャップがあるから楽しいのに、ざ~んねん」


パンパンは魔物に襲われ、シィエラに助けられ、シィエラにカツアゲ+上乗せされ、魔物に助けられて、魔物に襲われ、再びシィエラに助けられようとした。

装備がまともじゃないのに彼女の異常な強さはこの世界にあっていけない。いや、召喚されたという経緯があるため、パンパンにとってはどちらの世界にも存在してはいけないと感じられるものを見た。

トリート・ラビットを倒せている者は強さランキングが150位以内であれば沢山いるが、こいつ等全てを倒すとなると単独では不可能。逆にこっちが疲弊してしまって餌食となってしまう。NPCの攻略法によればこいつ等のリーダーを倒すことで統率が取れなくなり、勝手に逃げていくという。


なのにシィエラは余裕の表情を見せながら、100を越す魔物の群れを相手にパンパンを守りながら。トリート・ラビットのリーダー格を倒すなどというゲームのような攻略法を用いずに、とんでもなく単純な発想。



「全員、どんな鳴き声をあげるの、か・し・ら」



殲滅という選択であった。


シィエラから伸びる糸が兎に絡まっていく。少しでも触れれば、これまで魔物として生きてきたそれらが破壊される。多くの人間や獲物を屠り、武器まで作りだす力強く器用な爪がボロボロになったり、歩くだけで折れる骨になってしまえば単純な言葉しか発せない魔物も、総括して悲鳴という熟語のみを喋った。

また糸だけでなく、シィエラの格闘能力。動きと技術はなってはいないのだが、"無駄名努力"が加われば武器よりも、殺傷を用いる徒手である。糸に触れるだけでも強力に能力が働くが、直接はさらなる能力を生み出してあらゆる抵抗や防御を無駄にし、攻撃する。

結論。



「ビリビリお皮が剥げたわね。中は美味しそうな肉と魅了してくる赤い川が中に広がっているわ」



シィエラは10分と掛けずに兎達を死体に変えた。パンパンは命を救われた代わりに強いトラウマが植えつけられた。



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