神様に邪神が召喚される。
立早の召喚はいつも唐突である。細かく対象者を選べるというよりは条件に合う者の中から1人を選ぶというものであった。大田という苗字を持つ者を呼び寄せるというだけで、全世界の大田さんを呼ぶほどの力はさすがにはない。むしろ、その中にいる1人を確実にひきずりこむというのは対処のしようがなく、目撃証言を正確に出すこともできない。
非常に性質の悪いものであった。
「い、一体何が起こっているんだ!」
「これで何人目の行方不明者だ!?」
立早の異世界とは違う、その他全ての異世界では原因不明の行方不明者が続出し、あらゆる手段で情報提供を求めていた。しかし、情報提供を求めていても返ってくるのは正体不明の現象だけ。
自分の世界の他に別の異世界が当たり前のように存在するなど、凡人達には理解できない。キチガイと世界の事情を知る天才の類しかそれらを知らない。
見えもしない神様に世界中が恐怖したといってもいい出来事であった。
しかし、そんな情勢など立早には聞こえていなかった。彼にとってはこの世界がとても大切であり、他なんてどーでもいいから。こーゆう卑劣なことを行えて聖人と思っている表情も作りだす。
今や立早の世界には数万人の人間達とその他の生物が暮らすような環境になっていた。誰もが立早という存在に気付き、彼の力を見せ付けられ限られた自由で大人しくしている。命を大事にしている。
「!あら」
そんなある日。
立早は決して入れてはいけない人間を召喚してしまった。とにかく、偶然であった。
まさか、自分と同レベルの人間が存在するとは思ってもいなかった。神様が人間と同列であっていいはずがない。そうであるのだが、自分で連れて来てしまった。
「奇妙な手に掴まれたら、こんな世界に来てしまったわ」
"女神と邪神の二人羽織"という異名、"無駄名努力"という能力で元いた世界を荒らしたシィエラ・レイストルの召喚。
「私のところと似ている世界ね…………ふふ、どんなところかしら?」
彼女は召喚されたという事実をアッサリと受け入れてしまった。元いた世界がもう終わっていたに等しく、新たな出会いを求めていたからだった。だから、ちょっと嬉しい顔をしていた。
シィエラが召喚された地点は街であった。売り子もいて、子供達も遊んでいて、仕事をする者達がいた。自分が過ごしていて、見て来た街と同じであった。
「ふーん」
シィエラはぶらつきながら化粧品や洋服店を歩き回った。一方で派手な洋服を着こなしているシィエラに見惚れるエロガキや純情なおっさん達、なんて服を着ているのよっと思っている若い女性達もいた。
「い、いらっしゃいませ!」
洋服店の者達もシィエラの姿に、勧めるべき洋服の多さに困るほどだった。どれを選んでも美しいと容易に想像できる。
「まぁ、こんなにもありますのね」
「はい。ぜひとも、ご購入をお願いします。今なら3割引です」
「けど私、お金なんて持っていないの。だから」
男性店員の顎を優しくなでながら、
「タダで寄越しなさい」
店員を無理矢理、"無駄名努力"で立つ事すらできなくさせる。直接触れている方が能力の伝達力は増す。
「あ、あへはは」
「カバンはどこにあるのかしら。それと荷物持ちの奴隷が欲しいものだわ」
いきなり召喚されただけに何もかも準備不足のシィエラ。それを補うように洋服店を襲撃し、気にいった服と金品を巻き上げる。女の子らしいカバンを洋服店で頂いておく。
レオタードの服装は気に入っているため、着替えるつもりはない(ドレスは後で着よう)。それでも目にやったのは星型のサングラスであった。この組み合わせは似合わないと誰もが理解できるのだが、シィエラだけがつけることでとても似合う装備品となる。
コンパクトミラーで再度、その姿をチェック。改めて何をつけても似合っていると自信が出る。
「ふふん、バッチリね」
全身をチェックしていると、自分以外の人間の姿が鏡に映りこんだ。そいつはただシィエラを見ていた。
「お客様、暴力行為はお止めください」
「あら?あなたは何者かしら?さっき、居なかったわよね?2人もこのお店にいたかしら」
「新しくここに配属されました」
「そうなの。じゃあ、そこのゴミの片付けをお願いするわ。あと、私が手にした物はもらうわよ」
先ほど能力で倒した若い男性店員とは違っていた。ホモの香りを漂わせる筋肉を持っている男性店員。彼は言葉だけにしてくれた。シィエラは彼に襲われず、あっさりと欲しい物を手にしてお店を後にした。一体、奴はなんだったのか分からなかった。少しだけ違和感を持っており、店を出てからお店の方に振り返った。
「!えっ?」
先ほどシィエラが奪い取った星型のサングラスも、綺麗なドレスも、非力さとか弱さをアピールするカバンも、奪い取った金も、半殺しにおいやった若い男性店員も普通にお店の中に存在していた。
殺してはいないが、無事じゃ済まない攻撃を叩きこんだはず。
「ここの世界は少しおかしなところなのね」
出会っているのは人間であるが、人間とも言い切れない何かであった。