VS神魔八英傑戦①
それは確かに戦闘であった。
「ミムラかのんがいれば楽々と片付くんだがな。散り散りになってると捜すのが面倒だ」
戦闘であるが故に非情。残酷。
授けられたチート装備、意志はなくても延命できた命。幸運といえるのに対峙した相手が明らかに不幸。戦えば生き残りが不可能となる悪魔だ。
あらゆる道具、あるゆる環境、あらゆる過程。人生の軌跡によって強くなるはずの生命体に対する全ての否定。絶対的な才能がそこにいた。
広嶋と対峙した忍者の体は10秒も経たず、縫い合わせて繋げることもできないほど、ボロボロでグロく無残な姿に変わった。地面に転がるのは忍者の形成を表していた部品と言えるほどだ。
装備のどうのこうので対応できる相手ではなかった。
広嶋は残り7人を捜しにひとまず街へと向かった。
「お」
街の方に向けばもう誰かがやりあっていると分かる爆発が起こっていた。広嶋の位置では誰が誰と戦っているかは分からない。
「大砲ノ武器カ」
街中でX76を襲った相手は大砲を武器とする女性であった。無論、立早の配下。
「見タ事ガナイ装備。強インダロウ」
分かっていながらも大砲の砲口が向けられても動かない。X76は力比べを望み、持っている最強の大砲を用意した。立早のチート性能とまともにやり合うのは敗北しかない。
お互いが引鉄を引いて、放った光線はぶつかり合った。最初こそはまともな押し合いとなったものの、立早が作り出した大砲の方が威力を上回っており、あっという間にX76を光で包み込んだ。
最強防具を装着していても体の芯にまでダメージが届く。またその余波で周囲の建物に炎と爆風が襲い、見守る人間やNPCにも影響が出た。
「X76!頑張ってくれよ!」
「あ、あんな化け物と戦えるのはこの場じゃあんたしかいない!」
突然現れた敵の攻撃が直撃し、ダメージが刻まれる。それでも倒れずX76は立っていた。
「ナンノ努力ダッタカナ?」
川城を倒すために不本意ながらかき集めた装備がこうもゴミに扱いになると、ショックが大きい。
力比べは好きだが、やれば負けるということは理解できる。
立早が作り出している装備のほとんどが攻撃力と防御力のステータスが付けられている。HPは自分の能力が強く繁栄されている。ダメージを浴びたとはいえ、X76の"科学"となった体の耐久力は人間以上だ。
「ドウヤラ、マトモナ手段ハ通ジナイヨウダナ」
X76が取り出したのは自分の世界に存在していた兵器。
異世界の武器で立早の防具に攻撃しても、そこまで効果がない事は検証済み。だからX76も川城も装備を整えたのだ。しかし、ここでX76が取り出した兵器はちょっと違っていた。
その兵器の形は"無"。
すでに起動したことは周りに伝わっていない。
「うっ……ううぅっ」
「く、苦しい……」
「な、なんだ?」
立早の配下ではなく、街の人間達にX76の兵器は襲い掛かった。X76も対象を指定できるレベルのコントロールはできない。せいぜいできて、ONとOFFだ。
時間が経てば、立早の配下にも蝕んでいく。X76は奴がくたばるまで命を繋げていれば良かった。立早の人形のようになっても、素材は人間。防御力がいくらあってもHPには限りがあり、それさえ無くせば人は死ぬ。
攻撃とは殴る、蹴る、火を放つといった単純な攻撃だけだろうか?否、一度侵せば壊滅する攻撃もある。
「細菌兵器」
内臓を腐らせる病魔は立早の世界でも通じる。
「"3/4"」
"3/4"(スアナ)。
空気中に舞っており、体内に入るだけで感染する。人間の中身を3/4ほど食い尽くして死滅する人工ウィルス。X76はこのウィルスを体内で製造することができる。また、X76の内臓は機械であるため"3/4"は通じない。
「た、助けて………」
「X76。苦しい……」
感染して即死するわけじゃない。
巻き込まれた人間達は苦しみをX76に訴える。しかし、
「知ルカ、雑魚共」
完全な鬼。こいつに助けを求めたのが間違いだった。
怨んだところで助からない。感染した人々は本当の必死で、X76に言葉を飛ばした。
「ぼ、僕達もNPCになるだろ!」
「苦しい、死にたくない!」
「オ前等ガ敵ニナルナラ好都合。無能ナ味方程邪魔ハイナイ」
帰ってくるのは非情だけであった。この男にはそれができる。
「ソウダロウ?立早」
X76が毒殺を選んだのにはもう一つ理由がある。突然現れたこいつの使っている大砲と防具の剥ぎ取りだ。撃ち合いをして、このチート装備が壊れましたじゃダメージが溜まっただけだ。
チマチマ、防具の隙間を狙うのも時間が掛かる。それに敵が複数いることも考えれば抹殺かつ瞬殺がベスト。
X76はチート装備を手に入れて、まだいる強敵達とまともに戦える術を手にした。
これは立早の誤算であろう。
X76に葬られた人間達がNPCとして立早の動かせる駒となったが、所詮は村人A程度。役立たず。