立早配下、神魔八英傑
「くぁぁぁーーー!こうなれば再度、神魔八英傑を復活させるんだ!」
ノッケから飛ばすんじゃねぇよ。
立早は自分が浴びている恥ずかしさがなんなのか思い出せず、また恥ずかしい事を口走っている。手で頭を抑えながら、ラスボス手前に存在する組織名、もしくはラスボスを大将とする組織名を叫んでいた。
「神魔八英傑の復活!復活!復活!かぁーー、やっぱカッコイイよね!この軍の名前!」
ツッコミ役の不在は立早のイメージワールドを暴走させる。
川城と広嶋に酷くやられたもののなんとか脱出し、拠点である城の自分の部屋に引き篭もっての作戦会議。一人しかいないのに会議がつく。
「川城昇、俺のシナリオをもっとも攻略した奴。そして、旧神魔八英傑を6人も倒した男。広嶋健吾、詳しくは分からないが川城を上回る強さがあるという。こいつ等は生かしちゃおけねぇ」
立早には雷を呼んだり、地震を起こしたり、火山を噴火させたりするなど、世界全体に影響を与える手段を遠隔で行うことができる。広嶋達はそれだけのレベルがあることは予想や想定をしている。同時にそれが嫌な戦い方だと分かっている。
しかし、立早には不安があってそれができず、最終手段としては頭に入れているのだった。
自分が造り上げたこの世界が崩壊した場合、自分はちゃんと修復できてまた神様として君臨することができるかどうかという点が頭に強く残っていた。
川城達をすぐに始末できるのならばするが、長く生存させられたらこの世界が先に壊れる。お互い最悪の結果になるだろう。
カタストロフをやるのは最後。ホントに最後だ。
「俺は沢山の部下をコレクションした。こいつ等をチートカスタマイズして戦わせてやる」
立早は手に入れた部下達の図鑑を広げて、NPCとしてこの部屋に造り出す。自分でNPCに役割を与えることができる。
「最強の装備を今から作り出してやる」
この世界で最強の装備を付けているのは川城である。
攻撃力300の槍、防御力250の鎧をつければ鉄壁とされている。
「奴等の倍、いや!その10倍の性能を持つ装備を製造してやろう!ふははははは、反則だって?馬鹿め、俺はこの世界の神!なんだって有りに決まってる!」
オンラインゲームの運営のように時間が経つにつれて、強力な武器が現れるのと似ている。
あれだけ自分と共に苦労した装備がいまや、リストラ間近になると切ない気分になる。しかし、それはプレイヤー側の気持ちであって、製作者側からしたら儲け話やより楽しんでもらうための配慮なのだ。
カンストという枠に到達するまでは武器と自分の成長を楽しめる。
しかし、立早はプレイヤーではなく、神様という枠。それも商売気質も欠片もない単純な感情で吐き出している。
「はっ!」
立早の想像力で形状は決まる。しかし、想像力は無限大ではあるが精密さやセンスは個人個人異なる。
現在、最強装備を付けている川城を遙かに越える武器、防具を合計34つ。
武器
《鬼剣・蠍殺し丸》 攻撃力2500 形状 剣
《白王鎖鎌》 攻撃力2200 形状 鎖鎌
《首釣る竿》 攻撃力2100 形状 釣竿
などなど…………
防具
《鯨の如く》 防御力2600 形状 鎧
《バリアリスト》 防御力2400 形状 リストバンド
《嬲れない》 防御力3900 形状 棺
などなど…………
4桁に達する数値を出す装備はここにしかない。
「川城、それに次ぐX76。いくら貴様等の防具でもこれらからは防げないし、貴様等の武器でも我々の攻撃は防げない!それがこんなにもでき、これらを扱える神魔八英傑がここに誕生した!神様には絶対に勝てぬのだ!」
武器と防具の製造と共に部下達の準備も完了。
瞳は黒く、生きていた頃とは違う服装になっている。死ねば立早の言いなり、人形のような状態だ。
「こいつ等を殺しに行け!手段は問わない!暴れろ!」
立早は顔写真をばら撒き、標的を部下達に告げた。
広嶋健吾、川城昇、X76、シィエラ・レイストルの四名。
「了解しました、立早様」
8人が機械声で立早の指令を受けて街へと向かった。
「……あ!お前等、歩いて行くのか!?俺がテレポートさせてやるからちょっと待て!!」
こっから歩いていける距離ではない上に、辿り着くことはできない。立早は八人を追いかけてからテレポートさせるのだった。
それが終わってからまた自分の部屋へと入り、またマイクを握り締める。
「ふぅー……よっし。今度こそビシッと決めてやる。全国放送だ」
立早。たぶんだが、全国放送という言葉が好きなのであろう。
姿を見せるとまた広嶋やら川城に狙われる可能性があるので自分は部屋で閉じ篭り、完全防衛。ビビリでもある。
立早の意志でこの世界全体に警報を鳴らす。
「なんだ?」
「この警報は一体……?」
『ふはははははははは』
「あの馬鹿の声だ」
姿を見せないことが逆に陰口の良いやすさを生んでいた。多くの人間が毒気づいた。
『先ほどは、我の印象が悪くなる退場をしてしまった』
「自分でも思っているのか」
『我を侮辱する者、軽蔑する者。死に値する。そして、我の凄さを今一度思い知るが良い!』
また雷でも落ちてくるのかと身構えたが、
『今、我が作りし戦闘集団、神魔八英傑という8人の刺客を解き放った!彼等はお前達人間を襲う。特に我が定めた人間を特に襲う!』
「………………………」
『我と戦う、もしくは抗うというのならまずはその8人を倒してからだ。でなければ、我に屈するが良い!ふはははははは!抗ってみるがいい、人間共!我の部下は超強いぞ、チート性能だからな!』
「………………………」
それを最後に立早の声はなくなった……。
「結局、お前の凄さは分かんないと思うぞ!」
「部下に戦わせるのかよ!お前が降りてこい!」
物語の中盤。異様に強い中ボスと当たる感覚である。ストーリー上ではかなり強い武器を身につけていても、敵はその上を行き、己の器量が試されている。一方でラスボスというのは装備も行える手段も多くなり、苦戦というより面倒なパターンを持っていることが多い。
「頭の痛いネーミングセンスだこと」
街から外れた場所にいた広嶋はさっそく、立早の部下と遭遇していた。
「テメェみたいなのが、残り7人か。死ぬ前に立早の居場所を吐くボーナスはねぇのか?」
広嶋に向かい合う神魔八英傑の1人。
忍者みたいな恰好で防具はつけておらず、手裏剣を両手に握り締めている。広嶋の言葉には無言を貫いていた。
「おっと、いけねぇな。そういや、お前は人間だが意志のねぇ人間だったな。良い経験じゃねぇか、二度死ぬ感覚はどーなんだ?意志を持てたら感想を聞かせろ」
この世界の装備を一切つけず、それでもなお最強を誇る広嶋。立早のチート装備を授けられた敵に対しても、平然としていた。