広嶋 + 川城 VS 立早
多くの人間達が立早に抱いたこと。
例えるなら。
ぶちギレて、相手の顔を一発殴ってやったら。相手は包丁を手にとって自分の顔面に刺して来たといった感じ。
相手の創作物を批評したら、自分の黒歴史を掘り起こされたといった感じ。
集団で1人を虐めてたら、みんなと一緒に警察やら法律やら自称正義機関によって、家族と友達、自分の将来の全てに悪影響がでたといった感じ。
「あ、ありえないよ。馬鹿は馬鹿だろ………。それが世界の作り方だろ」
生き延びたとはいえ、失禁して泣く男だっている。
この世界にある装備や、ここにいる人間で戦える相手ではないと思わせるには十分なインパクトであった。
「とんでもない魔力ね」
シィエラ、川城、X76、パンパンの4人は雷から運良く逃れられた。一瞬の出来事であったが、パンパン以外の3人は落ち着いていた。
「あら?」
「ムッ!」
上空にいる立早。シィエラはもちろん戦闘の範囲外。人型となっているX76も変型しなければ辿り着けない距離。
だが、川城は立早が作り出した消えない雷を足場として高速で昇っていく。まだ状況が立早に対する恐慌となっている場で、電光石火を仕掛ける。
しかし、まだ立早に辿り着くまでに10数秒は掛かる。
「お前等の方が数は多くても、俺は神だからな!」
立早は再び、自分自身が神であるという証明を全員に伝える。
偉くしたり、注意したり、キレたりしている奴等が押し黙って"すいません"なんて言葉を吐きそうな面をしていると笑える。
存分に立早という存在を教えたが、まだ足りない。立早はさらに恐怖と、悔しさを晴らそうとさらに力を人間達に向けようかというその時。
家、お店、木、はては雲よりも大きい山そのものが投げられた。
「ん?」
「あら?」
地上にいる人間達は立早が次なる横暴を差し向けるのかと思ったが、沢山ある物体が立早の方へ向かっており、立早に気付かれないようにその上を飛んでいることに気付いた。無論、立早は自分が狙われている事なんて思ってもいなかった。
「ふはははははは」
立早は高笑いと共に天を見上げた。すると、自分が黒い影に覆われており。
「え?なに、……これ?」
気付いた時には家や店の下敷きとなって、地上へ叩き落そうとしていた。
「い、家を投げ飛ばすか!?普通!」
家に潰される立早はすぐに家を吹っ飛ばす風を作り出した。しかし、家のさらに後方に隠れた巨大な山は風では吹っ飛ばない。
「や、山を投げる馬鹿がいるのか!?」
家にぶつかった時と同じく山にもぶつかり、肉体にダメージが来る。
神様となっても決して死なないわけじゃない。
立早も神様となってから初めて肉体的ダメージを知った。それが痛いことは知っている。だが、ここで踏ん張らなければより痛いことも分かっている。
「"覇郡崩壊刃・蟹"(ガ・ミゼルベル)」
雲よりも大きい山を瞬時に、自分の能力で綺麗なサイコロステーキ状に切り落とす。
切り刻まれた数は300を超え、それらは流れ星のように地上へと落下していく。ただ一つを除き。
「だ、誰がやりやがった!」
立早はこの出来事を作った人物を探そうとした。
攻撃が飛んできた方向に目を向けるも、上手く敵は隠れており立早の視界には絶対に映らなかった。立早は神に近い力を持っていても、戦闘経験はほぼ0。闇雲に力を使っているだけに過ぎない。
立早は敵が1人だけしかいないと思いこんでおり、彼の背後をとった川城には体を槍で貫かれてから気付いた。
「う、うげぇっ」
「もう終わりだ。ジャニー・立早」
神が負ける。
天下終わるの早くね?
「お、お、俺は神様だぞ!!背後から何を突き刺した!?」
「!なっ」
貫かれた体は普通ならば自由に動くことができない。しかし、立早は自分の体をX76とは違う変態を使って、形態を変える。形だけならばイメージした生命体になることもできる。色々な服装や建物を用意できるのだから、自分自身にやるのは簡単な事だった。
大きさは人ほどにあるが、蛇に体を変えて刺された槍から脱出。そのまま地上へと落下していく。
「は、ははははは。い、今のが人間達の最後のチャンスだ!神は傷付かない!」
しかし、それはフラグであった。もう1人の敵、広嶋が窮地から脱出した立早に目掛けて、斬られた山の一部を投げていた。
「ぐへええぇっ!」
投げられた塊は物凄いストレートで見事立早に直撃し、そのまま地上に叩き落とされる。
また、地上には斬られた山が続々と落ち始める。
「トベ」
X76が体内の爆弾を用いてそのほとんどを迎撃した。落石による死者は幸いにも現れなかった。
それによって街に多くの粉塵が舞い、立早を取り逃がす形となってしまった。
「ちっ、仕留められなかった」
広嶋も落下しながら立早の状態を探った。本気で投げたのだが、立早の命まで奪えなかった。
この世界がまだ保たれているということは立早の生存の証明だろう。
収穫としては立早の能力や単純な強さ、戦術面などを推し量れた事。まだ向き合えば自分が勝てるという保障が十分にあった。
しかし、ある一点だけ。立早の可能性を危惧していた。