味見
甘い物は大抵美味しい。そして、健康に悪い物が多い。
「俺ガオ前ヲ味見スル」
X76は言葉の後にヨーイドンも鳴らさずに自分の体を変型させた。全身ほぼ機械の彼はいくつもの武器と兵器を体内に宿している。元いた異世界から組み込まれた武器に加えて、立早が作り出したこの世界の装備も取り込んだ。
生ぬるいサイボーグを選んだ覚悟じゃない。現在進行形で己を改造し続ける人間。
能力を手にした時から人間ですらなくなった一個の生命体。その際にX76という製造番号を名前とした。
X76
スタイル:科学
スタイル名:魔改造
詳細:
あらゆる武器を体内に取り込んで自由に扱える能力。
「まぁ~、こわいですわ~」
シィエラの笑みはX76の姿を馬鹿にしている表情であり、言葉も決して彼の姿を見て言っているわけじゃない。
シィエラと川城、そして本人であるX76を除く、この場にいた人間達は畏怖を抱く。NPCに自由な心があるなら動いていただろう、一目散にX76から離れるために走り出すだろう。表情を変えられず、彼に組み込まれている知っている武器、知らない武器を見ているなんて普通はできない。
パンパンは振り返って逃げ出したが、不様にコケる。その上から悲鳴を出しながら逃げる店のお客様達がパンパンを踏みながら逃げ出す。
人の形はとうになくなって、X76という名称の怪物。
スイーツショップの天井を突き破る巨大さに、タコのように蠢いている武器が作り出している両手足が8本。その両手足は明らかな鋼鉄であり、起爆剤でもある。
すね毛のようにビッヂリ付けられ、使われるための向きも動きも整っている。化け物の風体でありがら一つ一つ繊細に使う事もできる。
「本性か」
川城の表情は冷静であった。しかし、X76が危険であるのは分かっている。店の出口ではなく、店の壁を突き破ってこの場は逃走を図る。
「この緊張感は…………初体験ね」
シィエラは出会ってきた者達の中でもX76が1番とも言って良いほどだった。それはシィエラが超越しており、今まで誰一人も寄せ付けなかったことでもある。糸ではなくシィエラのみが認識できる、シィエラに触れることすら叶わないバリアが張られる。
これは目に見える積み重ねて来たというべき努力の山こと、武器の山と。その山を崩せる能力の激突だった。
店に残った連中を跡形もなく消し飛ばす武器の暴走。
「M_AD_ANTE」
足の一本が光ると同時に巨大な爆発を生んだ。その足は粉砕されるも、代償にスイーツショップのみならず周囲の建物も爆風で半壊させる。戦場となっているスイーツショップは本来提供している商品らしい冷たさと甘さを失って、熱くて悲惨さを物語っている建物となっていた。
逃げ遅れた人間は一瞬で消し炭となり、NPC達も表情が変わらずともおかしな方に体が動いていたり、焼かれて動けなくなっていた。
だが、2箇所だけX76の大爆発を防いだ場所がある。
「ヤルナ」
「パンパンくん、大丈夫かしら?立てる?」
一つはシィエラ本人。もう一つはパンパンの居場所。
自分自身だけでなく、他者をも守ってみせる能力と実力はX76もすぐに認めた。
原理はX76には分からないが、攻防一体であることはパンパンの状態からすぐに気付く。X76は川城等、自分と対等、もしくはそれ以上の使い手との出会いが多く、細かい状況判断に長けていた。一方でシィエラは強すぎる能力と自分の実力が状況判断能力不足を生んでいた。
守ったはずなのにパンパンが立ち上がらない。
「ああ、ごめんなさい。パンパンくんも無事じゃ済まないわよね」
パンパンをX76から守ったのは事実。しかし、自分の能力でパンパンを苦しめていた事を忘れていた。すぐに解除して、失われた努力を元通りにしてあげる。長時間触れなければ自然に元の能力を取り戻す。
X76の味見は終わった。
しかし、まだ舌の中にはシィエラという食べ物が残っている。
シィエラは冷たい視線をパンパンに向け、X76に背を向けながらも彼に向けて伸ばした左手から糸が発射される。巨大な体では小さな糸を避け切る術はなく、アッサリとX76の一つの腕に絡まった。
「!…………?」
X76は糸に縛られているという感覚が分からなくなる。また、細かく動かせる武器の信号が一瞬で途絶える。登り詰めてくる制御不能の異常事態にし、X76はすぐに糸に縛られたと目で確認する部位を一気に切り離した。
自分と違い、シィエラの攻撃は確実であるが人を瞬殺する術はない。だが、小さく変幻自在に伸ばせ、断ち切れない糸の攻撃における性能はX76にとっては相性が悪い。
X76は糸とシィエラ自身を警戒し、自ら壊した天井から上空へと逃げる。武器を主に体内に収納しているが、空中浮遊などをこなせる装備も隠し持っている。
「まぁ、デカブツが空を飛ぶなんて」
上空を飛べるのは鳥しかいないと思っていたシィエラ。X76の本性よりも驚いている表情。鳥とは比べられない巨体が空に浮かべば当然かもしれない。
同時に自分の持っている能力では上空にいる敵を撃ち落す力はない。自分の欠点を知る事ができ、シィエラは少し成長できた。
「ドンナ能力ダ?掴メナイガ、モウ一度」
X76は上空からでも攻撃ができる。地上に向ける乱射はシィエラが避けるを選択しないのは織り込み済みであり、彼女の逃げ場を無くす形であった。
銃弾一発は威力よりもスピードを意識している。シィエラの手前で威力が落ちて、地上に落ちていったが、上空からの銃撃ならばいかに努力を失っても、自然の重力がある。
「!」
上空に浮いた敵との遭遇は当然初めて、同時にほぼ真上から来る攻撃も初めてだ。威力は確かに軽減されているが、シィエラの能力が適応されても銃弾はバリアを突破して体にいくつも直撃する。
「な、なるほど」
撃たれた箇所から当然、血が出る。体が痛いを知ったのは随分と久しぶりである。しかし、心の痛みと比べればシィエラは倒れない。
「勉強になりますわ」
"無駄名努力"を所有し、初めて相手から逃げて隠れるという手段を覚えた。
絶対的な実力者でも何かから得る物もあり、同時にまだ成長できるという驚異的な面もある。X76がシィエラの反応から上空からの攻撃は避けきれないと判断した。
「くっ」
シィエラが逃げ隠れるまで自分を守れるか。
成長過程である彼女がX76を倒せるのはもう少し先。強さで上回りながらも、数値では現れない総合的な強さではX76が上回っていた。
「!」
シィエラのピンチに駆けつけたのは一足早く戦場から抜け出した男。完全にこの世界の装備で体を固め、あらゆる物も突き破る身の丈以上の槍。装備によって強化された肉体に加え、自分能力も重ね合わせての身体能力。上空に浮かぶX76のさらに上を飛ぶ跳躍力は、装備以外の身体能力も秀でているのが分かる。X76の上に辿り着いた時。
「もう止めろ、X76。力量は分かっただろ?」
「!川城…………」
川城昇
スタイル:超人
スタイル名:貯金戦士
詳細:
強さを保持でき、自由に調整する事ができる。貯めている分だけ強さを引き出せる。