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私が頑張るとみんな死んじゃいますわ  作者: 孤独
ジャニー・立早のRPG編
11/57

川城とX76

テンバーに交渉の結果を伝えるため、街に戻ってきていた川城。

非戦闘時では妻が買ってきたサラリーマンの恰好を好んでいる。召喚された時と同じ恰好だ。休みの時は休みのままでいるべきという発想は、休日に入った父親のそれと似ていた。スーツ姿なのはしばし落ち着かないが、これしか妻と共有できている物がない。

旅をする時はガッチリとした鎧に身を包み、身の丈を軽く超える槍を所持する。



「あ、川城さんだ」



ここに召喚された者達の多くが最初に知る人間、川城昇。顔を覚えられており、たまにだが応援をもらう。

前の世界ではそーいった声は部下がメインだった。良い気分にはならない、それだけ重責を感じる。

それからプライベートを満足にやれないこともある。


テンバーと一杯やったわけだが、自分の休暇としての一杯はこれから。

NPCの増加に伴いできたのがやや不本意であるが、街にオープンしたスイーツショップに足を運ぶ。ウェイトレスは猫のイメージになっており、耳と尻尾のアクセサリーはもちろん、プリントアウトされた制服で接客と調理をしてくれるのが良い、ちなみに川城の妻は綺麗なので区別がちゃんとされている。


「いらっしゃいませ、お一人様でよろしいでしょうかニャー?」

「ああ」

「ご注文は何にいたしますニャー?」

「……………」


川城。萌えているわけじゃない。沈黙ながら、今日食べたい甘味物を選んでいる。

しかし、心の中ではこんなところが妻に分かったらどう反応するだろうかとわずかながら思う。


「この…………シーソルトケーキを一つ。それとリンプトン産の」

「かしこまりましたニャー。ではあちらのお席でお待ちくださいニャー」


休日に自分が手渡す家族の生活費の中から出費して、妻が作ってくれるケーキが好きだった。そして、妻と自分に出すコーヒーは自分の財布から出てくる。

休みを再現にするにはケーキとコーヒーが必要だった。

しかし。妻と子供がいないことに寂しさがある。仲間がいるとはいえ、仲間では埋められないのが血の繋がった家族や愛した存在ではないだろうか?



「ふぅ」



やはり、コーヒーもケーキも妻が作った方が旨い。

食べるほど会いたい。愛していた。連絡がとれずに数ヶ月だ、まだ心配して私を愛してくれることを望んでいる。また帰ってきた時



「!」

「ヨォ。良イノカ、裸デケーキ食ッテ」

「店は拒まないだろうが、その外見がこの店に似合わない。なぜスイーツショップにいる?」


川城は別に裸ではない。ちゃんとスーツを着こなしている。現れた奴が言う裸とは装備を何もしていないことだ。一方で、川城の前に現れたほぼカタカナで喋り、理知的な川城とはまったく違う意味でこのスイーツショップに足運んでいる。半分以上が機械と化している元人間が奴の正体。名は



「X76。機関銃をお店に持ち出すんじゃない。それとマナーがなっていない」



襲ったのはこの世界で川城に次ぐ4番目の強者。X76。

川城とはこの世界で出会ったにも関わらず、かなり早い段階でライバル関係となった。川城とは違って群れは作らず、単身で立早を追っているし、川城のような強者も狩っている。川城とは違い、他の人間達からは外見と思想から尊敬よりも畏怖されている。

川城自身は彼を迷惑な存在と思っている。



「ククク、本当ニ。テメェ。テンバーノ言ウトオリ、ケーキ好キナンダナ。甘党デ執着モ見エル」



X76は銃を向けるだけ。装備を整えていない川城との優位性を利用してこの場で言いたい事を言ってやった。それは川城がX76を満足させる強者であるからだ。



「妻ニデモ作ッテモラッテタノカ?面影追ッ手ンノカ?モウ数ヶ月ダロ、愛ナンテ消エルニハ十分ナ時間ジャネェカ?他ノ男トヤルカモナ」



片言で煽れると


「何を言っているか、…………聞き取りにくくて分からないんだがね。X76」


上手な言葉の解析ができないが、分かるのは妻を侮辱している。自然と威圧するから理解には到達している。



「妻は今でも私を愛している。そして、私も愛しているのだ。私はいつまでも真剣にこの世界から抜けたいのだ。死ぬまで愛は消えない」



銃を向けながらも威圧だけじゃなく、その銃口と向き合ってみせる川城。装備が整ってなくても、X76と本気でやり合うつもりであった。もし、X76がそのまま戦闘を合図する銃の引き金を引くのならやり合う。


「ククク。ソウダトイイナ。脱出デキテ幸セト感ジラレタライイナ。マタ家族デケーキヲ食エタライイナ」


しかし、X76はそのまま。ただ言うためのポーズ。機械仕掛けであるが、彼が求めている強さとは個の強さであった。愛やら友情やら指名やらの理屈はカンケーない。パラメータに現れる総合力だった。

裸である川城を殺してもなんの得もない。


「機械である君にケーキの味が分からないのは残念だ。愛ある美食を知らぬと見える」


川城は立ったまま、ケーキの皿を持った。フォークでは突き刺しても支えきれない量がまだ残っているにも関わらず、ケーキの包みを持ってそのままケーキを口へと放り込んだ。


「愛ノネェ食イ方」


X76に指摘されるほどの立ち食い。クリームが唇にも頬にもくっついている。それでもちゃんと生地も、クリームも噛んで食す。とても銃口を向けられている者と向けた者の言動ではない。


「ふぅ…………。美味しかった。ところでX76は一体何を食べるんだ?愛を知らぬとお見受けするからにロクな物は食べてはいないな」


すでに人間という枠で良いのかも分からない。

X76の機械仕掛けの体には川城にも興味はあった。



「アア、オ前等ニハ食エナイモノダ」


そういってX76は銃口を川城に向けたまま少し移動し、空いた手で川城のテーブルに置いてあるコーヒーが入っているコップをとった。


「愛アルナラ中身ハチャント飲マナイトナ」

「その通りだ」


そのコップを川城の顔の上まで持っていき、川城もX76の恩愛を受け入れるように天井が見えるほど顎を開け、大きくはないが口を空けてX76が流すコーヒーを口で受け止め飲んでいる。

X76も優しくコーヒーを傾け、面白さと関心めいた表情を映していた。流れるコーヒーは床に落ちる汚い音は一切なく、静かに口へと入っていった。



「ふぅ……」


い、一体なんの一発芸だ?

そして、川城が思った以上に芸達者で変人だということが周囲にいる人間達には伝わっただろう。しかし、X76も彼に負けない技を魅せつける。そもそも、彼の食べ物の話で川城が芸を見せたのだ。コーヒー色がついているコップをそのまま、口に放り込む。


「!」


皿という金属をハンマーで叩き割る音が響く。口の中で噛み砕くという牙を用いた野蛮なやり方ではない。まさに科学の結晶とシンプル・ザ・ベストによる砕きを行っている。


「ふっ……ならば」


川城はコーヒーのお返しと言わんばかり、ケーキの包みをどかしてやる優しさを込めて手に持っている皿を、犬にフリスビーを手渡してやるようにX76の口へと入れてやった。そして、X76もシュレッダーに巻き込んだ紙のように皿を吸い込んで口の中で叩き砕く。

皿まで食すX76。


「ヤハリ、マズイナ。金属ガ少ナイ」

「不味いのか。そりゃそうだろうな」


川城の冷静なツッコミには優しさが込められている。


「単3電池ガサイコーノ俺ノ食材ダ」


X76はポケットから取り出してその一個を口に放り込んで叩き砕く。一度は死線を感じさせる瞬間から、一発芸対決も繰り広げる両者。それもどうやら終幕。



「立早トノ決着ハ近イカ?」

「ああ」

「ナラ、ソノ前ニ。俺トノ決着ヲ着ケヨウ。勝チ逃ゲハ許サナイ」

「一緒に戦わないのか?」

「俺ニ勝テタラナ」



銃をしまってその場を去ろうとするX76。しかし、伝え忘れと聞き忘れを思い出して振り返って川城に訪ねた。



「広嶋トカ言ウ奴ニハ会ッタソウダナ。強イノカ?」

「私よりも強いだろう」

「ナラ、モウ1人ノシィエラ・レイストルモソウナノカ?」

「?」


川城、一瞬。X76が何を言っていたのか分からなかった。落ち着いてカタカナから名前を拾った。


「シィエラ?聞いた事がないが」

「広嶋ト同ジクライ強イトランキングニ載ッテイタ。オ前ガ誤作動ト思ッテイナイノナラ、ソウダロウナ」

「どちらかと戦うつもりか?」

「オ前ガ先ダ」



そう言い残して、立ち去ろうとした時。振り返るX76の目の前に偶然にも現れたのが、シィエラだった。

名前と強いくらいしか分からないX76であるが、その本人が



「あら?なんで私の名前が出たのかしら?」

「!ナンダト?」

「名乗った事はないのに知っているのはストーカーかしら?」



一方、シィエラの後ろに隠れるようにいるパンパン。シィエラに助けられたお礼はお金だけじゃなく、オススメスポットなどを紹介して恩を返していくつもりであったが、凶暴と言われているX76と出会った事には体に蕁麻疹ができるような震えを生み出していた。



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