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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

海の生き物

海神さまのホタテちゃん

作者:

いろいろと気持ち悪いです。

心が海のように広い方だけどうぞ。


昔むかし、あるところに。ちいさな海の世界がありました。

そしてそこには、「ホタテちゃん」という、それはそれは美しい生き物が暮らしておりました。


楽園(うみ)を創った海神さまは、そのあまりの美しさに、一目見てホタテちゃんに恋をしました。


海神さまは遠くから、自分の創った世界の。

かわいい海の生き物たちの。

恋しいホタテちゃんの。

自分の世界に生きる皆の幸せを願って、見守っているのでした。



けれども、ホタテちゃんを見守るうちに、海神さまの心には、どうしようもない感情がわきあがるようになったのです。


ホタテちゃんがほかの生き物と仲良く話していると心が波立ちました。


ホタテちゃんがほかの生き物と楽しそうに泳いでいると心が渦巻きました。


とても落ち着いてはいられなくて、海はしばらく荒れました。


海神さまの心がようやく平静を取り戻して、海が静まると、海神さまが慈しんでいた生き物たちがたくさん死んでいました。


海神さまは嘆き悲しみました。

自分はなんということをしてしまったのだろう。

けれど、ホタテちゃんを含め、海神さまの愛する海の生き物たちは、少なくなってしまったもののまだまだたくさん生きていてくれました。

海神さまはほっとして涙しました。

生き残った彼らのために、これからは心を荒立てないように、常に冷静に努めようと海神さまは気をつけました。

海はしばらくの間、とても凪いでいました。



――けれど。



また、海神さまをあの凶暴な心が襲ったのです。



慈愛を持って見守っていくはずだった海神さまなのに、どうしてもホタテちゃんを前にすると平静ではいられません。


美しいホタテちゃんは人気者で、あっちに出かけて、こっちに出かけて。

いつもだれかと一緒にいるのです。


海神さま以外の生き物と。


海神さまの心はまた荒れてしまいそうになりました。

わけのわからないどす黒い感情が渦巻いて、このままでは前よりもっとひどい嵐を起こしてしまいそうでした。




そのとき、海神さまの心に、ある簡単な答えが浮かびました。




「そうだ、ホタテちゃんの(あし)をなくせばいいのだ」と。




脚がなくなってしまえば、ホタテちゃんはどこにも行けないにちがいありません。

海神さまは、手の一振りで、ホタテちゃんの手足をもぎました。この世界を創った海神さまにとっては簡単なことです。


そして、海神さまの手元には、ホタテちゃんから奪った美しいつやつやとした、ピンク色の滑らかな脚がありました。


海神さまはそれを口もとへ持っていきーーーー、ぱくりと食べました。


ホタテちゃんのソレは、とてもおいしく、甘美な味がしました。



***



脚がなくなってしまったホタテちゃんはどこにもいけなくなりました。

いつも()み家でじっとしています。


それを見て、海神さまはとても穏やかな気持ちになりました。

やはり、自分のしたことに間違いはなかったのです。

これで海神さまの愛する楽園の平穏はたもたれたように思えました。



しかし、またしても「あの感情(きもち)」が海神さまを襲ったのです。



脚がなくなってしまってもホタテちゃんは美しい生き物でした。

そして、今度はその美しい()にうつりたいと、たくさんの生き物がホタテちゃんのもとを訪れるようになりました。


ホタテちゃんは脚がなくなって以来、ずっと海神さまを見つめていました。

ホタテちゃんの相手は海神さましかいなかったのです。

ホタテちゃんは海神さまのものでした。

けれど他の生き物たちが訪れるようになって、また、ホタテちゃんの周囲はにぎやかになりました。


ホタテちゃんのきれいな瞳にうつるのは、海神さまだけではなくなりました。



「そのような瞳ならば必要ないはずだ」



ホタテちゃんは、眼を失いました。



海神さまは他の生き物ばかりをうつしていた瞳が今、やっと自分を見ていることに微笑みます。

そして、愛おしそうに、その宝石のような粒を飲み込みました。

ホタテちゃんのソレは、極上の甘露でした――――。



***



ホタテちゃんの脚を奪って目を奪って、これでやっとホタテちゃんを安心して見守っていられる、と思った海神さまでしたが、そうはなりませんでした。


ホタテちゃんが歌うのです。

あの可愛らしい声で笑うのです。

自分ではない生き物の名前をよび、親愛を叫ぶのです。


許しがたいことでした。


海神である自分への祈りをおろそかにして、別の誰かにその声をささげるのです。



「その言葉(こえ)は、私にだけ捧げるべきだ」



海神さまはついに、ホタテちゃんの口までも奪ってしまいました。



これからはホタテちゃんの声は、いつまでも自分の中で、自分にだけ歌い続けてくれるに違いありません。

ホタテちゃんの美しい鳴き声は、自分以外が聞く必要はないのです。



***



ホタテちゃんの脚を奪い、目を奪い、口を奪ったのにまだ安心できない。



もう、海神さまはホタテちゃんを手放すことができなくなっていました。

いつでもホタテちゃんが見えないと不安で不安で仕方ないのです。

全てを失っても相変わらずホタテちゃんは海神さまにとって輝ける存在でした。

いつ、だれにホタテちゃんをとられるか疑心暗鬼になってしまった海神さまは、



ついに、かたい貝殻の中に、ホタテちゃんを閉じ込めました。



「これでやっと、私だけのものだ――――」



こうしてホタテちゃんはかたい殻の中、だれにも会えず、だれとも話せず、楽園をうばわれて、海神さまだけのホタテちゃんになりました。


海神さまの世界は、いまも穏やかに、美しい楽園(うみ)をたもっています。



笑ってくれて、大丈夫ですよ。ギャグですよ。

自分至上、もっともわけのわからないお話だと思います。

ヤンデレが書きたかったので、まあ満足しています。(※実在のホタテや団体とは一切関係ありません。)

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