第28話 ラスチェストに行こう! 後編
久しぶりに投稿で忘れ気味。
スランプ続いている状態です。本当はクロマさんの方を先に出そうとしていたのに……
戻ってきたアウラさんがちょっと待ってねと言ってどこかへ行ったと思ったら、赤い液体が付着した鉈の様な物はなくなっていた。
「あの……イシュナは……」
「さあ、妖精ちゃん達が退屈しているから話を始めましょうか?」
「は、はい」
有無を言わさぬスルー。
イシュナ、お前の事は忘れん。
それからアウラさんにここに来た理由を話す。
「なるほど、なら丁度良い人達がいるわ。でも調べるのには時間がかかるから今日中には無理よ。持って来た物を私が預かって渡しておくから、ラスチェストを観光していくと良いわ」
「調べるのにはどれくらいかかるんですか?」
「そうねぇ……種類にもよるし、聞いた所によると特殊な物もあるから何とも言えないわ。調べ終わったらイシュナにでも知らせに行かせるから心配しないで」
まあ、あの量だし今日中には無理だろうと思っていたけれど。
急いでいるわけじゃないから今日はのんびり観光しよう。
「私はこれから用事があるから案内する事ができないのだけれど……案内は必要かしら? 必要なら知人を紹介するわ」
「いや、いいです。妖精達と適当に見て回ります」
「そう。ラスチェストはあまり大きい町とはいえないけれど、迷いやすい町よ。気をつけてね」
「はい」
そうしてアウラさんの家から出て、ラスチェストの町を観光する事になった俺達。
妖精達は外でずっとフロームの葉を見上げていて乗りたくてうずうずしていたらしい。
「てっしょー! 早く早く!」
近くにあった誰も乗っていないフロームの葉の上に乗る。
イシュナは念じるだけで浮くと言っていたが本当なんだろうか?
「ふわふわー!」
「浮いた!」
ふわりと浮く葉っぱはまるで魔法の絨毯のように動く。
乗り心地もふわふわとしていて悪くない。
ぽんぽんと妖精が葉の上で飛び跳ねていても揺れない。
下手な乗り物よりずっと高性能? のようだ。
自分で飛ぶのと違ってこれはこれで楽しいし、妖精がはしゃぐ気持ちも分かる。
葉っぱ同士が近づくと互いの風の力が反発して勝手に避けるから事故も少ないしとても安全に楽しめる。
「てっしょー! あっちからおいしそうな匂いがするー!」
「よし! 行くぞ!」
「おー!」
俺達の紅葉した葉が舞うきのこと木々の町の観光が始まった。
◆ ◇ ◆
「これ、おいしー!」
「ももじ焼きか……中身の色は餡子っぽいけど、何となくクリームっぽいな……おっちゃん。これなんだ?」
紅葉した葉のような形のお菓子。
中には餡子っぽい色のクリームが詰まっている。
俺達は主に食べ物の店を中心に回っていた。
中には屋台のようなお店もあり、ももじ焼きと言うラスチェスト名物のお菓子を食べている所だ。
「餡子ってのが何かは知らねぇが、これはアミの実ってのをすりつぶしてカプトルのミルクと混ぜた物だ。それをココムの粉で作った生地で包んで焼いたのがこのももじ焼きってわけだ」
「アミの実とココムの粉ってのは?」
「どっちもラスチェストならどの店でも売ってるんだが……アミの実は小さい実でな、ミルクと混ぜると粘っこくなるんだ。で、ココムの粉ってのはココムって植物を粉にした物だな。ココムの粉は色々な料理に使えるが、そこは自分で調べな」
「色々教えてくれてありがとな」
「また町に来た時は寄って行けよ!」
ももじ焼きの店から離れて次を目指す。
方向は妖精任せ。
「次は?」
「あっちー!」
妖精が指差す方に進むとまたもや食べ物の店。
新しい見た事もない料理ばかりでわくわくが止まらない。
食べるのもおいしいから良いが、作り方を聞くと作ってみたくなる。
早く家に帰りたい気もするが、新しい料理のレパートリーを増やすべく食べ歩きもしたい。
「これは……とろみがあっておいしい」
そう思っている間にも食べ歩きしている。
「ゼーマ草の煮物だよ。お兄さん、ラスチェストは始めてかい?」
「ああ、今日来たばかりなんだ。ところでゼーマ草ってこれの事か?」
「ああそうだよ。これは煮るととろみが出ておいしいのよ。煮物にしたり餡にしたりするのが一般的だね」
ついつい店の人に色々聞いてしまうが、どの人も快く答えてくれる。
ラスチェストは野菜や果物などの植物系食材が自慢の町らしく、割と味付けが和風っぽい。
さっき食べた煮物にしても醤油っぽい味付けが気になる。
聞いてみたところソルスラーと言うラスチェストの特産の調味料らしいが……
これはぜひとも改良して醤油を作らなくては!
「調味料作りからか……燃えるな……!」
思わず顔がにやけてしまう。
抑えろ、まだ……まだ、食べ歩くのだ!!
「てっしょーたのしそー!」
「次に行くぞ!」
俺達は時間の許す限りラスチェストの町を回った。
半分を食べ歩きにまわし、半分を食材集めに。
時には出会った料理人と料理の改良点を探し、料理を作って見せたりしながら日がオレンジ色になる頃には町の三分の一を見終えた。
「……帰るぞ」
「ごっはんーごっはんー♪」
帰る頃には試したい、料理したい気持ちを抑えるのに必死で帰り道から記憶がない。
ただ、妖精がやたらご飯を楽しみにしていた気がする。
次の日になるまで料理をし続けたような気もするが、きっと気のせいだ。
◆ ◇ ◆
ラスチェストに現れた謎の人物。
その日、ラスチェストに風変わりな人物が現れた。
ウィストルでもクルフェーアやエルジアリー、神族でもない妖精を連れた青年。
彼は料理を扱う店に出没し、見た事のない調理法を披露したり的確なアドバイスを残したりして去っていった。
最初の方に訪れた店では食べるだけだったようだが……
後々、ただ一言。
「料理をさせろ」
と言い、有無を言わせぬその表情から料理人達は調理場を貸したと言う。
そして料理を作ると代金を支払って去っていく。
「足りない……まだ、足りない……」
何かにとり憑かれたような表情で去っていく青年だったが、料理の腕は恐ろしいほど良く。
怖さ半分で彼の料理を食べた客が彼は次、何時ここに来ると言い出し始めたり料理人達が慌てて彼を追ったりしたが見つからず。
結局誰も名前すら知らない謎の青年としてラスチェストに知れ渡る。
「って言う事があったんだよアウラさん」
「ふふっ。そうなの」
「俺も食べてみたかったっすねその料理。今まで食べた事のない未知な料理だけれどとてつもなくおいしかったらしいですよ」
「あらあら、それは私も食べてみたいわね。次、彼が来た時に食べさせてもらいましょうか」
「そうっすね……ってアウラさん。その人知ってるんですか?」
「ふふふ、どうかしらね?」
「知り合いなら教えてくださいよー! 町の人達皆が何者か知りたがってるんすよ!?」
「ふふふふふふ」
「アウラさーん!」
謎の人物の謎が解けるまで、後数日。
◆ ◇ ◆
おまけ。
『誰もいない家』
てっしょー達が去った家に残った妖精達は遊んだ後にそれぞれ家に帰って行った。
そして家には誰もいなくなったのだが……
「……」
ひょっこりと黒くて長い耳が家に近寄る。
誰にもいない家。
大抵は誰かがいてとても賑やかな家なのに、今日は誰もいない。
おそらく家主が出かけているのだろう。
やって来た人物はぽてりと縁側に座って自身の持って来た甘い実を食べるもののどこか味気ない。
珍しい食べ物が手に入ったから持ってきたのだが、これでは家主においしい物を作ってもらうのは無理だろうか?
そう思いつつしばらく待ってみるものの、帰って来ない。
今日は諦めるしかないかと思って立ち去ろうとするとどこからか風を切る音が聞こえてくる。
風の音の方を向くと恐ろしいスピードでこちらに向かってくる影。
待っていた人物はため息を付いた。
影は明らかに暴走状態の家主だからだ。
家主は凄まじいスピードで降りてきた割にふわりと着地し、とんでもない勢いで家の台所へ向かって行った。
やれやれと思いながらも妖精や魔物達を呼びに行く。
暴走状態で台所に向かった家主は確実に何か料理を作るからだ。
量を考えずに……
まあ、呼びに行く前に持って来た食材を渡してから行く事にしようと思う。
きっと喜んでくれるだろうから……
待っていた人物は長い耳を揺らしながら食材の入った籠を持って台所へ向かった。
タラの芽のてんぷら。ヨモギモチ。ツクシの御吸い物に佃煮。
野草がおいしい季節になってきましたね。
あー、野草は食べるまでが色々と面倒くさいけれどおいしい。
市販の物は、手間はかからないけれどなぜかまずいです。
野草は取り立てを料理するのが一番です。
……最後の人物、誰か気付かなかった人いますかね?
一応姉御なのですが……